second scene57
「昨日、考えてみると言っていただろう」
「あれは……」
売り言葉に買い言葉だ。いわなくても判るではないか。それとも、本気ととったのか。篠塚がわからない。今の関係は、一度口論したぐらいで壊れてしまうほど脆い関係なのか。なぜ北沢のところに行くなと言ってくれないのだ。
「篠塚さんは、どうなんですか」
篠塚が無言で瞬の顔をみてきた。しばらくして湯を両手ですくい顔を洗う。
「選ぶのはおまえだと言っておいた」
「北沢さんに」
「ああ」
「どうして」
「ん?」
なぜそこまで突き放してくるのだ。すでに次の相手が決まっているのではないかと勘ぐってしまう。あるいは瞬のほうから離れていって欲しいのではないかと……。
「……いえ」
「言いたいことがあるのなら言えよ」
「いいです。……さきに上がります」
返事をまたず湯船からでた。まだ体の芯まで温まっていない。全身の肌がざわと鳥肌立つのを感じながら脱衣所へとむかう。無性に悔しかった。
気持ちがおさまらないまま部屋へと急ぐ。ホテルの空調は完璧なはずなのに体は冷え切っていた。ノックをすると浴衣姿の北沢が姿をみせた。部屋の風呂をつかったのだろう、手にしたタオルで濡れた髪を拭いている。瞬の顔を見るなり「また喧嘩したのかな」と、つぶやく。瞬は北沢の横をすりぬけながら言った。
「篠塚さんに秘書の話をしたんですか」
言って、ソファに腰をおろす。北沢はとぼけた表情で「驚いてなかったな、彼」と、言った。
「あなたは、一体どうしたいんですか」
「君が欲しい」
「それって、篠塚さんへの当てつけでしょう? ぼくを利用しないでください」
持てあましていた感情を北沢にむけている。わかっているが、どこかで吐き出さないと身動きがとれなくなりそうだった。
北沢が瞬の横に腰をおろしながら「荒れてるね」と、無感情にいってきた。
「篠塚さんにも、そんな感じで突っかかっていくの」
「篠塚さんは……」
「できないよね。女性ならともかく、あの人はそういう人種を好まないから」
「なにが言いたいんですか」
「無理して傍にいるのは、どうかな」
「無理なんてしてませんから」
「なら、どうしてぼくに八つ当たりしてくるの」
「何を言っているんですか。あなたが篠塚さんに余計なことを」
すると、さえぎるようにして北沢が尖った声をあげた。
「少なくとも、君はぼくに対しては素直だよね」
「え……」
「篠塚さんは君がぼくの秘書になるかどうかは、君の判断だと言ってきた」
「聞きました」
「なら、結論は見えている。彼は君に執着していない。君が彼をおもう気持ちは、いつまでたっても」
聞きたくない……!
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