second scene46
パウダールームで髪をふいていると話し声がきこえてきた。ドアに耳をあててみる。滝川の声だった。
「二日酔いで観光どころじゃないんだもの」
「なら、部屋で寝ていればいいだろう」
「徳川くん、お風呂?」
「ああ」
「湯あたりしたんじゃなかったの」
「調子が悪いだけだ」
「で、介抱してるわけ。なんだか、仲良すぎない」
「一応、秘書だからな」
一応……。
本当にそれだけではないのかと思ってしまう。同じ道場の門弟でオフィスでは秘書で。それ以外に接点はないのかもしれない。
「優しいのよね、誰にでも」
「含みをもたせるな」
「彼女、言ってたんだから」
「なにを」
「いまの篠塚さん、隙だらけだって」
「………」
「絶対、きまった相手はいないって。わたしも、そう思う」
決まった相手はいない……。
彼女というのは貴子のことだろう。貴子は学生時代から篠塚をみてきた。滝川にしてもそうだ。瞬が篠塚と出逢って、まだ半年しかたっていない。どちらが的確に篠塚の心情を読んでいるか比較するまでもなかった。
「だからなんなんだ」
「どうして? フリーでいたことなんてなかったのに」
「面倒なんだ。会社も合併直後で問題が山積している」
「それだけ?」
「他になにがある」
「なんだか、女を避けているみたいに見えるんだけど」
篠塚の失笑がきこえてきた。
「ニューヨークで禁欲生活の便利さに気がついたんだ」
「なによそれ」
「もういいだろう。……おまえ、貴子といつ会ったんだ」
「先日、篠塚さんのマンションの前で。彼女、酔ってたみたい」
貴子と篠塚が抱き合っていた夜のことだろうか。それとも、貴子は篠塚のマンションに足しげく通っているのか……。
「あいつには別の件でちょっと動いてもらった」
「別の件?」
「仕事上のことだ。浮いた話しじゃない」
篠塚は、父親でありキエネ社長である重樹の結婚相手の情報を貴子から入手していた。貴子が記者をつとめる雑誌の取材を承諾したのも、そんな経緯があったからだ。だが、それ以降も貴子は幾度となく篠塚の前に姿をあらわしている。篠塚をあきらめる気は毛頭ないのだ。理知的な貴子の顔が脳裏に浮かぶ。とうてい勝てそうな気がしなかった。
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