second scene33
「篠塚先生って、もてるんですね」
北沢がしらけた面持ちでピスタッチオを口に運ぶ。
「そりゃあもう。大学時代なんか、とりまき1ダースぐらい抱えていましたからね」
山岸がするめを口にくわえ調子よく相槌をうった。
「そんなに」
「濡れ手に粟って感じでしたよ」
聞いていない……。
いったい何人の女と関係してきたのだ。酒に酔ったふりをして問い詰めてやろうか。もちろん胸倉を掴んでだ。
「機嫌が悪そうだね」
北沢がさりげなく声をかけてきた。
「そんなことありませんから」
「篠塚先生、女性には優しいんだね」
優しいんじゃない、だらしがないんだ……。
グラスを引っつかみ煽るようにウィスキーを咽喉に流しこむ。北沢が「それ」と、あわてたようすで声をかけてきた。とたんに咳込みそうになる。飲んだのが北沢のロックだと気づいた時にはもう遅い。胃が熱くなり強烈なアルコールの匂いが口の中を満たしだした。
「大丈夫?」
大丈夫じゃない。もともと強いほうではないのだ。急性アルコール中毒は死にいたる可能性があると誰かがいっていた、などと緩慢になりだした頭で考える。心臓が急速に動きをはやめた。脈打つ音が聞こえてきそうだ。ぐったりとして北沢にもたれかかる。北沢が心配げに顔をのぞきこんできた。
「徳川くん?」
瞼がおちてくる。沈むような脱力感が襲ってきた。限界だ……。
「……寝ます」
「え」
視界がまわっていた。あきらかに平衡感覚が麻痺している。ホテルの通路だ。誰かに肩をかりて歩いているらしい。足がもつれるたび、瞬の肩を抱えなおすようにして補佐してくれる。篠塚だろうか。頭が重い。顔をあげることさえままならない。部屋につくと音をたてベッドに仰向けになった。目をつぶっていても目は回るものなのかと妙なことに関心していると、硬い腕が背中をもちあげてきた。首をのけぞり相手の首に腕をまきつける。瞬の頭を慎重に枕におくと「気分は?」と訊いてきた。かろうじて首を横にする。
「弱ったな……」
不明瞭な声が言った。意識が遠のいていく。意識を手放す瞬間、先刻の滝川と篠塚の姿が脳裏をよぎった。口の中で篠塚の名をつぶやく。ドアがひらく音がしたような気がした。瞼をこじあけようとしたが、その努力は無駄におわった。