second scene27
「来年、常務に就任するそうです。秘書にどうかと誘われました」
おもわず言葉が口をついてでる。北沢が内密にしてくれと言っていたのをおもいだした。もう遅い……。
「……そうか」
「はい」
「なら勝手にしろ!」
久々の怒鳴り声だ。瞬は「勝手にします!」と、尖った声音でいい返した。どうしてこうなるのだ。篠塚は瞬に素直になれというが、篠塚にしても胸中を滅多に曝けださないではないか。喧嘩すらできない関係など友人以下だ。胸がつかえた。目頭が熱くなる。泣き顔を見られたくなかった。大股にドアへとむかう。ノブに手をかけたところで視界が涙でゆがんだ。部屋をでて乱暴にドアをしめる。待っていたかのように涙が頬を伝った。奥歯をかみしめ嗚咽をこらえる。最悪だった。
「徳川君……?」
北沢が驚いて瞬をみていた。すばやく涙を拭う。とまらない……。瞬は背をむけるようにして深く頭をたれた。
「北沢さん、もうすぐ夕食なんですけど」
山岸のとぼけた声がきこえてきた。「どうしたんですか」と、瞬をのぞきこんでくる。すると北沢が「お土産を選んでおこうとおもいましてね」と、肩に腕をまわしてきた。「行こう」といって、瞬を山岸に隠すようにして歩きだす。
「篠塚先生でしたら、部屋にいますよ」
北沢が肩越しにいうと、山岸が「どうも」と、機嫌よくこたえてきた。
エレベーターホールからすこし離れたところに休憩用のソファがふたつ並んでいる。北沢はそのひとつに瞬を座らせると、自分も横に腰をおろしてきた。
「なにを揉めているのかな」
瞬はうつむいたまま小さくかぶりをふった。
「部下と上司の確執ってわけじゃなさそうだね」
「……たんなる喧嘩です」
「ほんとうに喧嘩できるほど仲がいいわけだ」
言って、北沢がくつろいだようすで足を組んだ。
「君は篠塚先生のことが、とても好きだよね」
どういう意味なのだろう。瞬と篠塚の関係を知っているのだろうか。いや、ありえない……。
「兄のような人なので」
「本当にそれだけ?」
「……なにが言いたいんですか」