second scene4 | 活字遊戯 ~BL/黄昏シリーズ~

second scene4

 瞬はいったん帰宅してスーツから普段着に着替えると、道着をもって篠塚のマンションへとむかった。
 合鍵をつかって部屋にはいる。篠塚はシャワーを浴びているところだった。
 篠塚のマンションは3LDKで全室フローリングだ。十五畳のリビングダイニングとキッチン、そのほかに六畳の部屋が二部屋と十二畳の部屋が一部屋ある。瞬が借りているのは六畳の部屋で窓からは瞬の自宅のベランダもみえる。篠塚は十二畳の部屋を自室に、残る六畳の部屋を寝室にしていた。瞬の部屋は壁の一面を本棚がしめており、資料やら自宅から持ち込んだ書籍などがひしめくように詰まっていた。窓際のデスクのうえには電話の子機がおいてあり、さながら書斎といった雰囲気だ。篠塚にいわせると圧迫感があるそうだが、瞬にとっては自宅の部屋よりも居心地がいい。仕事がないときは読書をしたりインターネットをしたりと余暇を過ごすにも、これ以上の環境はなかった。ときどき篠塚の存在さえ忘れてしまうくらいだ。篠塚はというと、リビングでテレビをみたり音楽を聴いたり、気が向いたら料理の腕をふるったりとプライベートに徹している。仕事をもちかえる瞬と違って篠塚はプライベートと仕事をきっちりとわける。ニューヨークの生活でわかったことだが篠塚と瞬とでは驚くほど生活スタイルが違っていた。


 インターホンが鳴った。ソファベッドが届いたらしい。篠塚はまだバスルームだ。瞬は配送業者に配置場所を指図すると作業を遠巻きにながめた。

「届いたのか」
「はい」
 篠塚がバスローブでソファに腰をおろす。座り心地をたしかめソファの前面をしめる書籍に視線をなげると、とたんに渋面をつくった。
「この部屋、本屋の匂いがしないか」
「そうですか? でも、僕、好きですから、本屋さんの匂い」
「………」
 篠塚が手をさしのべてくる。瞬がためらいながら手をさしだすと勢いよく引っ張りこまれた。
「篠塚さん、道場へは」
「行く」
「じゃあ」
「すぐ終わる」
「え……」
 いつのまにはずしたのか気がつくとシャツの前がはだけている。いつもそうだ。篠塚は手がはやい。またたくまにソファべッドに組み敷かれた。声をあげるまもなく唇をふさいでくる。濡れた髪が頬におりてきてシャンプーの香りにつつまれた。まだ、いつものコロンはつけていないらしい。瞬が篠塚の背中に手をまわしたところでインターホンが鳴った。篠塚と顔を見合わせる。篠塚が気にしないようすでくちづけてきた。すると、ふたたびインターホンが鳴った。しかも続けさまに二度だ。篠塚が舌打ちして体をおこした。


「急にどうした」
「前をとおりかかったら電気がついてたもんだから。どう、住み心地は」
「ああ、気に入った」
 山岸の声だった。瞬はあわてて乱れた衣服をなおすと髪をととのえ部屋をでた。
「あれ、徳川君、いたんだ」
 山岸の父親は駅前で小さな不動産屋を営んでいる。店の名前はローマ字表記なので気づかなかったが確かに昔からあった。篠塚に、このマンションを紹介したのも山岸だ。山岸は篠塚の大学の同期で同じ柔道部の部員でもあった。篠塚と瞬は同じ大学の出身だ。つまり山岸も瞬の先輩ということになる。
「稽古にはでるの?」
「はい」
 瞬が通っているのはマンションから歩いて五分ほどのとこにある合気道の道場である。篠塚はその道場の師範で篠塚とはじめて会ったのも道場だった。山岸は大学卒業後、篠塚の誘いで道場に通うようになり、いまでは篠塚とおなじく師範になっている。育ちがよく善良そうな人物だが、山岸が外見ほどに善良ではないことを瞬は知っていた。




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