second scene2 | 活字遊戯 ~BL/黄昏シリーズ~

second scene2

 カメラのフラッシュがたかれるたび、瞬は目をしばたかせた。貴子は約束の時刻どおりにカメラマンをともなって現れた。時間は一時間だと篠塚に念をおされると、いくぶん頬をふくらませ、カメラマンに「撮りまくってちょうだい」と、声をはりあげた。
「篠塚さんのお母様は、それでは出産と同時に」
「はい。もともと心臓が弱かったので」
「それでは、キエネ社長であるお父様が男手ひとつで育てられたわけですね」
「いえ、わたしは祖父母の家にひきとられ、中学にあがるまでは祖父母に育てられました」
「篠塚さんは大学時代、柔道をやってらしてインターハイ二位までいかれたとか」
「はい」
「柔道はいつごろから習っていらしたんですか」
「小学生になった頃、祖父に習いはじめました」
 篠塚さんのおじいさん……。
 以前、道場で聞いた篠塚と山岸の会話を思いだした。
『一度だけ会ったことがあったな、おまえのじいさん。あの時、言われた言葉、今でも憶えてるよ。試合はするもんじゃない、していただくものだ。勝とうが負けようが相手への感謝を忘れちゃいかん、ってさ』
『人のために生きろが口癖だった。だから、おやじとは馬が合わなかった』
 しみじみと話す篠塚の声に瞬は深い孤独を感じた。篠塚の別の一面を知った瞬間でもあった。
「大学時代は、どんな学生でした?」
 篠塚が空になったマグカップを瞬にさしだしてきた。瞬があわててとりにいく。
「大学時代のことなら、おまえのほうが詳しいだろう。適当に書いておいてくれ」
「いいの? 勝手に書いて。つきあった女の数まで公表しちゃうわよ」
「おい」
 珈琲をついでいる瞬に篠塚がうかがうような視線をなげてくる。貴子が気づいて瞬をみてきた。瞬はそしらぬ顔でマグカップに珈琲をなみなみとついだ。
「秘書に聞かれたらまずい?」
「……あたりまえだろう」
「わかった。いま付き合ってる彼女、秘書とも顔見知りなんでしょう」
 カップを篠塚に手渡そうとして思わず手がとまる。見ていた貴子が「図星ね」と、上目遣いに篠塚を睨んだ。
「だから」
「なあに?」
「これは取材だろう」
「そうよ。雅人を丸裸にしちゃおうと思って」
「ヌードでも撮るか?」
「あら素敵、引き伸ばして壁に貼っちゃおうかしら」
「おまえな」
 篠塚が形容しがたい表情をつくった。見はからったようにカメラのシャッターが切られる。篠塚が小さく舌打ちをした。
「それじゃ、大学のことはいいわ。適当に書いちゃうから。余暇はどう? 最近、新しいマンションに引っ越したって聞いたけど」
「誰から聞いたんだ」
「篠塚のおじさまよ」
「おやじと会ったのか?」
「もちろん、撮影許可をいただきに」
「ああ……」
「ね、新居も少し撮らせてくれない?」
「却下だ」
「あら、どうして?」
「自宅を撮ればいいだろう。マンションはおまえの希望にはそぐわないと思うが?」
「単なる好奇心よ」
「なおさら断る」
「どうせクローゼットに女の服でもかかってるんでしょ」
「おい。いい加減、女から離れろよ」
「失礼しました。じゃ、先を続けるわね。余暇の過ごし方。どうぞ」
 撮影はびっしり一時間を要した。記事にならない会話がほとんどのように思われたが、貴子と篠塚の関係を知るには十分な内容だった。
 彼女は、まだ篠塚さんを好きなんだ……。
 貴子とカメラマンが姿を消すと、篠塚が大きく肩で息をついた。
「お疲れさまです」
「ああ」


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