この曲を本気で聴いた者は

悪人になれない

善き人のためのソナタ スタンダード・エディション
 2006年 ドイツ 監督 フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナース

冒頭のテロップを読んで

これはただの音楽映画ではないと知り

さてどんなものだろうと見始めると

次第に引きこまれ、長い138分があっという間だった。


秘密警察シュタージ、監視、反体制・・・などの言葉に

オーウェルの1984年を思い出す。奇しくもこの映画の設定も

1984年。何の関係もないのにこれだけで心がざわつきだす。


終始、淡々と空気がピンと張りつめた雰囲気のまま

物語は進む。音楽も過剰ではなく見る者の感情に影響を与えない。


唯一、圧倒的な存在を感じるピアノ曲。

もしこの曲を聴くことがなかったら、この曲でなかったら

ヴィースラーの気持ちに変化は起こらなかったのだろうか・・・

後に彼の人生を左右することになるこの曲を。


心の隙間に突如入り込んだ音楽が、芸術が、

人間の良心を呼び起こすことがあり得るということを強く感じました。


ラストの台詞と表情(初めて口角が上がる笑みを見せる)に

鳥肌が立ち、じわっと涙が出た。

これ見よがしな派手な演出がなくとも、これほど心を揺さぶられるとは!

傑作です。


アカデミー外国語映画賞他、多数受賞作品。