淡い思い出
だんだんと寒くなり、少しずつ冬の足音が近づいて来た・・。
今日はシトシトと雨が降り、一層肌寒く感じる・・。
そんな時、またふと昔の事を思い出した・・。
あれは、僕がまだ21歳位の頃の話・・。
またバイト先での事なのであるが・・。
当時、夕方以降のバイトを探していた僕は、たまたまカラオケBOXのバイトに応募した。
新規オープンということで、面接日には応募者10数人が集まる形となり、説明会があった。
そのうち女性の方が人数が多く、約10人位はいたと思う。
その中の一人に、僕好みの可愛い女の子がいた・・。
僕は、この子と一緒に仕事が出来たらいいなと密かに期待していた。
そして、めでたく僕もその女の子も採用される運びとなり、僕は内心ガッツポーズをしていた・・。(笑)
更に、その子も遅番希望ということで、ラッキー、クッキー、ウッキウキ~。
その子は僕より2つ年下の女子短大生であった。
僕は週3~4回バイトに入っていたのだが、その子の予定が決まってからローテイションを組むようにしていた。(笑)
そして、ほとんど一緒の時間に入れるように小細工をしていたのである・・。
その子の名前はかずちゃん。
だが、既にかずちゃんには彼氏がいた・・。
しかし、僕には奪い取る度胸も、告白する勇気もなかった・・。
それに、そもそも僕に対して恋心なんてこっれぽっちも持っていなかったであろうから、その後の関係がギクシャクするのも嫌だったので、ほのかな片思いのままであった・・。
彼氏がいるということもあり、僕の恋心にブレーキがかかっていたのもあるが・・。
仕事場へは僕は車。かずちゃんは歩きか自転車。
終わる時間は夜の12時とか、深夜2時とかの場合が多かった。
それで、帰りはよく車でかずちゃんを家の近所まで送って行っていた。
その僅かな時間が僕にとって、至福の時間でもあった・・。
ある時、パートの主婦の人に、「かずちゃんの事、好きなんちゃう?帰り、狼になったらあかんでえ。」と言われたりしたこともあったが、僕は一度も狼になることはなかった・・。(笑)
かずちゃんは、自分のお兄ちゃんの話をよくした・・。
お兄ちゃんは優しくて、一緒によく遊んだと・・。
しかし、話の流れから、実は数年前に亡くなっているということがわかった・・。
屈託のない笑顔で話すかずちゃんを見ていると、なんで亡くなったの?とは聞けなかった。
かずちゃんの心の中ではずっと今も生き続けているんだという思いを痛いほど感じたから・・。
かずちゃんと遊びに行ったことは一度だけ・・。
二人きりではなく、他のメンバー何人かとご飯を食べに行っただけだが・・。
そんなこんなで、ほのかな恋心を抱いたまま、僕はバイトを辞めた・・。
それから数年後、一度だけ駅でかずちゃんを見かけたことがある・・。
その時、急いでいたということもあるが、声はかけられずじまいであった・・。
今頃はもう、結婚して子供もいるのかな・・?
どうしているのかは分からない・・。
今、振り返って思い返してみると、強烈に恋をしていたわけではない・・。
あくまでほのかな漠然とした恋心だったような気がするが・・。
もし、万が一、再び偶然会うことがあっても、気持的には揺らぐこともないであろう・・。
だが、ひとつだけ、心残りなことがある。
かずちゃんのことを、僕は「かずちゃん」と呼んだことがないのだ。
なんか照れくさくて、上の苗字の「阪○さん」と呼んでいたのである・・。
だから、一度だけ、下の名前で呼ばせてね。
「かずちゃん、お元気ですか?」
遠い昔の淡い恋の思い出であった・・。
byセンチメンタル紳士