以前エントリーした「嫌悪の効用 」の記事で触れた内容を的確に表現した文章を発見したので、転載します。
遠藤周作著書の「深い河」より。
- 深い河 (講談社文庫)/遠藤 周作
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人は愛よりも憎しみによって結ばれる。
人間の連帯は、愛ではなく共通の敵を作ることで可能になる。
どの国もどの宗教もながい間、そうやって持続してきた。
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それから、少し長文ですが、下記も転載します
生活と人生、その違いを端的に表しています。
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この世は集団ができると、対立が生じ、争いが作られ、相手を貶めるための謀略が生まれる。
戦争と戦後の日本のなかで生きてきた磯辺はそういう人間や集団を嫌というほど見た。
正義という言葉も聞きあきるほど耳にした。そしていつしか心の底で、何も信じられぬという
漠然とした気分が残った。
だから会社のなかで彼は愛想よく誰ともつき合ったが、その一人をも心の底から信じていなかった。
それぞれの底にはエゴイズムがあり、そのエゴイズムを糊塗するために、善意だの正しい方向だのと主張していることを実生活を通して承知していた。
彼自身もそれを認めた上で波風のたたぬ人生を送ってきたのだ。
だが、一人ぼっちになった今、磯辺は生活と人生が根本的に違うことがやっとわかってきた。
そして自分には生活のために交わった他人は多かったが、人生のなかで本当にふれあった人間はたった二人、母親と妻しかいなかったことを認めざるをえなかった。
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この小説は、愛を求めて、人生の意味を求めて・・・それぞれの何かを求めてインドへ向かう人々を描写している。
タイトルの「深い河」は、インドのガンジス河を指していて、インドの人々は、死後、この河に灰となって流されることを望み、各地から集まってくる。輪廻転生を信じて訪れる、日本人には馴染みのない宗教観が流れる国で、作者の遠藤周作氏は、登場人物のひとりに
「ヒンズー教徒のためだけでなく、すべての人のための深い河という気がしました」
というセリフを言わせている。
信じるものがある、それは目に見えるカタチで、現実に存在している河。
この河に入れば、それまでの罪は全て流され、
次の世界はよき境遇に生まれることが出来る・・・・輪廻転生。
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苦悩
尊厳
不条理
真実
が詰まった小説だと思います。