【高橋昌之のとっておき】
衆院平和安全法制特別委員会で答弁する安倍晋三首相=1日、衆院第1委員室
集団的自衛権の行使を限定的に可能にする安全保障関連法案の国会審議が始まり、与野党の議論もマスコミの報道も激化しています。
まだ、序盤戦ですが、これまでの状況をみる限り、野党の追及も、集団的自衛権行使に反対の立場をとる朝日新聞、毎日新聞の主張も、
法案に「反対ありき」の姿勢で“あら探し”に終始しているように思えてなりません。
不安定、不透明な国際情勢のもとで、日本だけが平和を唱えさえしていればいいはずはなく、
どのようにして日本の国家、国民の安全を守るのかという建設的な議論をなぜできないのでしょうか。
国民が求めているのは法案に対する賛成、反対のバトルではなく、そうした冷静で前向きな議論だと思いますので、
今回は朝日、毎日両紙の社説を例に、現在の議論の問題点を指摘したいと思います。
安保関連法案が衆院本会議で審議入りした翌日の5月27日、新聞各社は社説で法案に対する主張を掲げました。
構図は昨年7月の集団的行使を容認する閣議決定のときと同じく、朝日、毎日両紙が「反対」、産経、読売が「賛成」の立場から主張を展開しました。
まず、朝日は「真価問われる国会 なし崩しは認められない」と題して、
相変わらず「昨年7月の閣議決定は、憲法96条が定める改正手続きを回避した解釈改憲である」との見解を示したうえで、
「法案の成立は、なし崩しの本質的な憲法改正を立法府が追随することを意味する。
法の手続きを無視して立憲主義を壊す片棒を担いではならない」と主張しました。
その後に、「一連の首相の答弁は、乱暴な決めつけと、異論への敵意に満ちている」と批判しましたが、朝日の主張こそ、決めつけと自らの主張への敵意に満ちているのではないでしょうか。
結局、この日の社説は法案の具体的な中身ではなく、集団的自衛権の憲法解釈変更という手続きに対する反対論にとどまりました。
これでは、朝日の主張の方が逆に「集団的自衛権行使には反対」という従来の主張の「なし崩し」と言われても仕方ありません。
一方、毎日は「安保転換を問う 国会審議入り つじつま合わせの無理」と題して、
「早くも政府の説明にはほころびが見られる。政府の説明が安定しないのは、法案が無理なつじつま合わせの上に成り立っているのではないか」と疑問を呈し、
政府答弁のブレの具体的な例として「機雷掃海」と「自衛隊員のリスク」を指摘しました。
ただ、その原因については、朝日と同様、
「集団的自衛権の行使容認は、本来は憲法9条改正の手続きをとるべきものだが、政府は憲法解釈の変更という手法を選んだ」ことを挙げ、
やはり反対論は具体的な法案の中身ではなく、憲法解釈変更という手法への批判に基づいています。
これもまた、毎日の主張こそ従来の主張の「つじつま合わせ」の域を出ていません。
27日付以降も朝日、毎日両紙は社説で法案への反対論を展開していますが、先に挙げた内容の主張と同様のものか、
「政府は説明不足だ」など、法案の内容というより、政府答弁の揚げ足取りのような批判にとどまっています。
両紙は法案が「安保転換」の重要法案だというなら、もっと具体的で論理的な主張をすべきだと思います。
そして、反対するなら、現在の国際情勢のもとで、集団的自衛権の行使なくしてどのようにして日本の平和と安全を守るのかという「対案」を示してもらいたいものです。
団体や運動家ではないのですから、ただ権力を批判し問題を提起してさえいればいいというのは、社説を掲げることができて社会のオピニオンリーダーである新聞社として無責任です。
日本を取り巻く安全保障が激変していることは周知の事実なのですから、「法案には絶対反対」という従来の主張にとらわれたオール・オア・ナッシングの姿勢はもうやめましょう。
政府の答弁は問題だとして修正を求めるなら、新聞社の社説自体も時代と情勢が変わり、変更すべき点があれば修正していくのは当然のことだと思います。
両紙は「国民とともに歩む安保政策を」と主張しています。
新聞社が現実から目を背け、従来の社説をただ正当化するための硬直的な主張を続けていたら、国民の間での議論は全く深まらないでしょう。
これに対して、産経は「安保法審議入り 国民守り抜く論戦深めよ」と題し、
「政策の転換を迫る安保環境の激変」と「法案がもたらす効果」を、分かりやすく国民に伝えることを政府に求めました。
読売も「安保法案審議 自衛官のリスクを克服したい」と題し、やはり
「政府・与党は、建設的な議論を通じて、法案の意義と必要性を積極的に発信し、国民の理解を広げる努力をすべきだ。
専門的な内容だけに、丁寧で分かりやすい説明を心がけてもらいたい」と注文を付けました。
両紙とも昨年7月の集団的自衛権行使容認の閣議決定以降、社説や紙面を通して、なぜ今、集団的自衛権の行使が必要なのか、具体的、倫理的にその理由を解説してきました。
そのうえで、国会審議が始まったら、政府には国民の理解を得るためのより丁寧な説明を求める。
それこそ、新聞社のとるべき姿勢だと思います。
私もこれまでの政府の答弁を聞いていると、確かにブレや説明不足を感じます。
国民の多くは今や、世界中で紛争や危機が相次いでいることをニュースで知っており、日本も今までの体制のままで平和と安全を守られるはずはないということは実感しています。
政府は法案の重要性にもっと自信を持ち、率直に説明すれば国民は理解してくれると信じて審議に臨むべきです。
そして朝日、毎日両紙の記者一人一人に対しては、改めて問いたいと思います。
とくに政治部記者は日々、現在の国際情勢の中で日本はどうあるべきかを考え、取材しているはずです。
それでも本当に「法案には絶対反対」と信念を持って言い切れますか。
そうではないとしたら、それぞれの社内で自らの取材に基づいた見解を堂々と主張してほしいと思います。
われわれは単なる「サラリーマン」ではなく、「ジャーナリスト」なのですから。
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