甘利氏重用から伺える、安倍政権の真の姿 | 岐路に立つ日本を考える

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 私は日本を世界に誇ることのできる素晴らしい国だと思っていますが、残念ながらこの思いはまだ多くの国民の共通の考えとはなっていないようです。
 日本の抱えている問題について自分なりの見解を表明しながら、この思いを広げていきたいと思っています。


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 今回は、安倍政権の主要閣僚の中から甘利明氏を取り上げます。甘利氏は、安倍政権の経済再生担当大臣であり、社会保障・税一体改革担当大臣であり、経済財政政策担当大臣であり、TPP担当大臣でもあります。安倍総理の信頼がとりわけ高く、経済閣僚の一番の要となられている方です。TPP対策本部の本部長ともなり、TPP問題においてまさに一番の重要人物だということにもなります。

 甘利氏は、第一次安倍内閣においても経済産業大臣に任命され、第一次安倍改造内閣においても同大臣に再任されました。遠藤農林水産大臣がスキャンダルで失脚に追い込まれた後には、安倍総理から農林水産大臣の兼任まで求められて応じました。昨秋に自民党の総裁選挙で安倍氏が勝利を収めた時にも、甘利氏は党の政務調査会長に任命されました。こうした種々の事実からも、甘利氏に対する安倍総理の信頼、特に経済・産業分野における信頼が非常に厚いことがわかります。

 では、甘利氏はどのような方なのでしょうか。甘利氏の公式ウェブサイトに飛びますと、「甘利明による、自民党の政策解説ムービー」というものがすぐに見られるようになっています。これは安倍氏が総裁に選出されて政務調査会長となった甘利氏が作った、衆議院議員選挙に向けて自民党の政策を解説するというビデオです。このビデオの中で、甘利氏は以下の発言を行っています。(4分45秒あたりからご覧下さい。)



 それから「国際先端テスト」ってのをやります。つまり、よその先進国と比べて、日本にある規制がちゃんと正当性があるか、日本にだけある規制で、その説明がつかないものは全部なくしていく。説明がつくものについては置いておいていいでしょう。世界で一番産業活動がしやすい国にしていきます。

 私がこの発言に非常に違和感を感じるのは、現在我が国にある規制があってもよいものなのか、なくしたり改変したりした方がよいものなのかについては、我が国の特性を踏まえて考えればよいのであって、どうして他の先進国と比べる必要があるのか、さっぱりわからないからです。国益的な観点からしても、供給力が余っていてデフレ不況に陥っている我が国において、他国の企業が日本国内で活動しやすいように規制を改める必要があるとは、私には思えないのです。

 そもそも、市場主義に徹して私的利益の追求をひたすら行うということを、日本人や日本企業は苦手としています。普通の日本の企業は、仕事として請け負ってやる以上は、周りと協調することも自然と考えてしまうし、公的な利益を充たすことも自然に考えてしまうものです。もちろん中にはあこぎな会社もあるでしょうが、一般的にはあこぎなことが苦手なのが日本の企業です。

 「いやいや、最近はそんな真っ当な企業は日本でも少なくなっているよ」という意見もあるでしょうが、外国企業と比べた場合には、日本企業の倫理性はまだまだ高いと思います。仮に日本企業の倫理性が以前より格段に落ちているとしても、昔ながらの美風の回復を促すような制度設計をむしろ考えるべきではないかと思います。そうした制度設計は恐らく市場原理とは馴染まないものでしょうし、古風で人情味のある日本企業のあり方も純粋な市場原理からは乖離したものにならざるをえませんが、社会的な善を実現するにはむしろこうしたあり方の方が適切だといえます。市場原理を金科玉条として考えるところからスタートするのではなく、真っ当な日本の企業にとって仕事をしやすい環境とはどういうものかを考えることの方が、私には遥かに重要であると感じます。しかしながら甘利氏には、私のような発想はどうやらないようです。

 また、甘利氏は「日本の底力」という本をお書きになっていらっしゃいます。この中には、例えば次のような記述があります。

 今、企業のみならず、政府も教育機関も、日本の組織の最大の問題点は、激しく、そしてスピードの速い変化に対応できていないということではないだろうか。国土も狭く、資源も持たない日本。少子高齢化の時代を迎え、市場としてももはや十分なバーゲニングパワーをもはや期待できない。そんな日本は、どうあってもグローバル化の波に抗うことはできない。だとすれば、世界の変化のスピードについていけるかどうかが、国の将来を左右するのは必定だろう。日本の屋台骨を支える輸出産業は、輸出にばかり頼るのではなく、M&Aも含めて現地化をさらに推し進める必要がある。

 協調と調和を大切にする中で、全体の合意を目指しながら緩やかな進歩を遂げてきた日本的なあり方は、どうやら甘利氏には乗り越えなくてはならないものとして映っているようです。グローバル化の波に抗うことはできないという前提のもと、旧来の日本的なものにこだわっていたのでは、グローバルな変化の波にさらされている中では勝てないのだという発想からものごとを見ていられるわけです。M&Aも含めた現地化をさらに推し進めた場合に、グローバルな展開を行っている大企業は確かに利益を確保しやすくなりますが、それで日本の国内の雇用やGDPを増やすことにつながるのでしょうか。甘利氏はつながるという論調で本をお書きになっていますが、私はこの点に違和感を感じながら読みました。

 甘利氏の考えが正しいか正しくないかは別として、こうした発言を行うところからすれば、甘利氏がグローバリズムを推進すべきだという立場に立っていることは明白でしょう。そして、こうした甘利氏に対して、経済政策・産業政策の面で全幅の信頼を寄せているのが安倍総理です。

 なお、甘利氏は同じ本の中で、ピッツバーグが医療産業の町として再生された経験を引きながら、ピッツバーグは「医療が産業化したために発展」したと言い、「医療は福祉の世界、公共サービスの世界に閉じこもっていると、両方に取って不幸」だとも述べています。このような考え方をしている人物がTPP担当大臣となり、TPP対策本部の本部長になっている状況では、TPP交渉を通じて日本の公的医療制度に風穴が開けられるのは避けられないでしょう。

 さらに、甘利氏の、国土強靭化と公共事業に対する考え方も見ておきましょう。以下のビデオをご覧下さい。これは昨年(2012年)の衆議院議員選挙に際して、民主党の細野政調会長と自民党の甘利政調会長(当時)が揃って出演した番組の一部です。4分50秒あたりからご覧下さい。


SHIN報道2001 2/2 (激論細野政調会長が生出演 復興予算のムダ許すな) 2012... 投稿者 Nrev2

 「民主党は(公共事業費を)32%減らしました。自民党にはできないでしょう。」と(民主党の細野政調会長は)おっしゃいましたけれども、小泉内閣の時代には通年ベースで50%以上減らしましたからね、公共事業は。それで、今10年間200兆、これはですね、あの、我が党の国土強靭化調査会で議論されたことが一人歩きしておりますけれども、この調査会が10年間200兆という数字を挙げたことはないんですよ。この数字はですね、有識者の方々を呼んだその中の一人が、持論としておっしゃった話なんです。しかもこれは国費ベースではないんです。事業費ベースですからね。そこは誤解を取っていただきたいと。

 テレビの中で世間受けを考えなければならなかったところもあるかもしれませんが、小泉構造改革による公共事業費の凄まじい削減について、実に誇らしげに語っています。国土強靭化の中で語られている10年間で200兆円という数字は、有識者の一人(藤井聡京大教授)が挙げたものが一人歩きしているだけだといい、話しぶりからすれば、国土強靭化の事業規模はずっと小さいものであるべきだと考えていることが伺えます。

 事前防災の見地から国土強靭化の必要性については否定されてはいませんでしたが、甘利氏の考えはネット上で安倍政権の誕生のために力を尽くした多くの方々の考えとは、かなり異なるポジションにあることは理解できるでしょう。

 ついでながら言っておくと、日本が誇る様々なコンテンツの海賊版が広がっていることに対して何とかしたいとの思いからでしょうが、甘利氏はTPP交渉においてアメリカがとりわけ力を入れている知的財産権の強化にも賛成の立場です。風刺・批判のためのコンテンツの2次利用は、現在インターネットでは広く見られますが、コンテンツの知的財産権を強化してしまうことで、こうしたものが全く許されなくなる恐れもあります。安価に誰でも医療が受けられる公的医療制度を実現するために、現在国が押さえ込んでいる薬価を、知的財産権の保護を名目として大幅に引き上げさせたいとの意図がアメリカ側にはあります。アメリカの製薬会社の利益を考えれば当然だとも思いますが、薬価の大幅引き上げが実現するだけでも、日本の公的医療制度は実質的には大きく崩されることになるんじゃないかと、懸念されているわけです。

 日本的なものを取り払い、グローバルな競争条件を整えることが大切であると考える甘利氏が、経済政策の主要閣僚をいくつも兼任し、TPP担当大臣まで安倍総理から任され,TPP対策本部の本部長としてTPP問題対策をまとめていく責任者となっているということを、私たちは見落とすべきではありません。市場原理とは最も相容れないと思われる医療まで産業化するのが好ましいと考えられているほど、市場に対する信頼が厚い方であり、国土強靭化を含めた積極財政に対して消極的な態度をとっている方だということについても、注目しておくべきところではないかと思います。

 仮に安倍氏がアメリカの圧力に抗しきれない状況の中で、TPPを潰す目的でTPP交渉への参加を決めたのだとすれば、甘利氏のような方をTPPの責任者に選ぶことはしないでしょう。日本の聖域を明確に意識し、これを絶対に守る立場に立っている人物を責任者として選び、日本の主張を徹底抗戦させようとするのではないでしょうか。

 財政面では消極的な立場に立ち、その分を金融政策で埋めようとし、経済成長の引き金を成長戦略(構造改革・規制緩和)に求め、TPP交渉にも積極的に参加する意思を示している安倍政権の全体的な流れは、こうした閣僚人事にも明確に表れていると、私は考えます。

 こうした政権によってTPPへの交渉参加が行われる以上楽観が許されないという判断にご理解を頂ける方は、ブログランキングへの投票をお願いいたします。


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