危険! 財政政策を放棄しつつある安倍内閣 | 岐路に立つ日本を考える

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 私は日本を世界に誇ることのできる素晴らしい国だと思っていますが、残念ながらこの思いはまだ多くの国民の共通の考えとはなっていないようです。
 日本の抱えている問題について自分なりの見解を表明しながら、この思いを広げていきたいと思っています。


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 安倍政権の動きの中で、財政政策を軽視する傾向が強まっていることについて、私は大いに懸念を覚えています。

 「はあ?何を言っているんだ?アベノミクスの3本の矢の一つが機動的な財政出動ではないか!」とおっしゃる方もたくさんいらっしゃると思いますが、実際の動きはかなり違っているように、私には感じられるのです。

 平成25年度の政府一般会計予算のうち、基礎的な財政収支の対象となる経費(実質的に意味のある財政支出)は、前年度予算と比べて実質的には0.7%の減少となりました。(平成24年度 73兆9934億円 → 平成25年度 73兆4416億円 で、5518億円のマイナス)

 15.6%の大幅増加だと報じられた公共事業関係費についても、前年度と予算項目を合わせて実質値を出してみますと、実は0.3%増に留まるのです。(平成24年度 5兆2285億円 → 平成25年度 5兆2467億円 で、わずかに182億円のプラス)

 先頃成立した平成24年度の補正予算にしても、前年比では実質的には49.6%の減少です。(平成23年度 15兆1191億円 → 平成24年度 7兆6185億円 で、7兆5006億円のマイナス)

 これらを素直に見れば、安倍政権では実際には野田政権以上に緊縮予算を組み上げているということになります。

 さて、経済財政諮問会議では財政政策についてどのような議論がなされているでしょうか。2月28日付で経済財政諮問会議の民間議員4名の連署で提出されている「経済財政運営の基本的な考え方について」には、財政政策に関して以下の記述が見られます。
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2013/0228/shiryo_02.pdf

 効果的な経済対策による当面の景気腰折れ懸念の払拭とともに、財政健全化に向けた政府の姿勢を明確にし、国民と市場の信認を保持する姿勢が不可欠である。景気の回復状況等を踏まえつつ、財政健全化目標の実現に向けて舵を切ることが重要である。

 景気の腰折れ懸念がなくなったら、財政に頼るのは早々に打ち切るべきだという意見を持っているわけです。

 「短期の政策運営のあり方」としては、以下のようなことが書かれています。

 財政健全化に向けて、あらゆる分野での歳出の見直し、重点化、効率化を進める。

 「歳出の見直し、重点化、効率化」ということが打ち出されているのは、財政をスリム化すべきだということだと取るのが普通ではないかと思います。

 また、次のような記述もあります。

 別紙に掲げる取組みなどを進めることで、行政サービスのコスト低減・質の向上、民間需要のシナジー誘発効果を高める。

 こう書かれると、「別紙」にどんなことが書かれているか、気になりますね。「別紙」には、IT化の推進、規格の統一化等による費用の最小化、アウトソーシングの徹底、徹底した情報公開を通じたPDCAの“見える化” 、サンセット原則(政策が実行に移された時に、何年後かに必ず終わりを迎え、延長処置を認めない原則)の導入、公共投資の重点化等を通じた効率的な公共サービスの提供ということが書かれています。

 IT化の推進は時代の流れに沿った当然のものだといえるかもしれませんし、規格の統一化も無理のない範囲ではやってもよいとは思います。どうすれば行政をより効率化できるかというのも、当然追求すべき課題だとは思います。しかしながら、ここに書かれているのは、財政規模をどうやったら縮小できるかという見地からです。つまり、財政政策はできる限り小さい方が好ましいという立場に立って、それをいかに実現するかというのを、「機動的な財政出動」だと呼んでいるようです。

 2月28日の閣議決定においても、財政について次の記述があります。
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2013/0228/sankou_03.pdf

 2015年度までに国・地方のプライマリーバランスの赤字の対GDP比を2010年度の水準から半減し、2020年度までに国・地方のプライマリーバランスを黒字化するとの財政健全化目標を実現する必要がある。このため、平成25年度予算についても、財政健全化目標を踏まえたものとするとともに、国債に対する信認を確保するため、公債発行額をできる限り抑制し、中長期的に持続可能な財政構造を目指す。

 「プライマリーバランスの黒字化」とか、まるで小泉構造改革時代に戻ったかのような記述です。こうしたあり方からすると、安倍政権はアベノミクスの3本の矢から機動的な財政政策を事実上取り除いたと言ってよいのではないかと思います。というか、「機動的な財政出動」という言葉の意味が、世間で思われているものと全く異なったものとして考えるべきものだったということかもしれません。そしてこのことは重大な問題をはらんでいます。私見では、アベノミクスの3本の矢のうち最も大切なのものこそが思い切った財政政策であり、金融政策は思い切った財政政策を行った場合にこれを補完する役割として求められるにすぎないものです。成長戦略については、個人的には却って要らないんじゃないかと思っているくらいです。

 ところが現実には、成長戦略(=規制緩和・構造改革)に一番の力点が置かれ、財政政策と切り離して金融政策だけを大胆に実行しようとしているようにしか見えないわけです。これって小泉構造改革時代とやっていることは大して変わらないのではないかと思います。竹中平蔵氏が産業競争力会議の民間議員に選ばれたことに違和感を覚えた方は非常に多いと思いますが、安倍政権が現実に進めている財政金融政策は、小泉構造改革時代と実際にはかなり親和性が高いのが実際であり、大した矛盾はないといえるわけです。

 安倍政権になってムードは明らかによくなりましたが、しかしそのムードのせいで安倍政権の実際の姿が見えなくなっているところはないでしょうか。

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