「貴方は、彼の恋人ですか?」

シオンさんも
強い視線をユノさんに向けた

「貴方に答える必要がありますか?」

その視線を受け止めながら
ユノさんがそう答えて
言葉を続けた

「俺がチャンミンの恋人だとしても
結婚した貴方には
関係のない事ですよね」

2人の間に
重い空気が流れた

しばらく睨み合う2人

緊張感の中
それを打ち砕くように

「シオン…?」

後ろから、優しげな
女性の声が聞こえた

僕たちが振り返ると
そこには、
綺麗で髪の長い
上品な女性が
しなやかな足取りで
シオンさんに近づいた

「ヒジュ…」

シオンさんは
彼女を見て
少しだけ表情を曇らせた


きっとシオンさんの
奥さんなんだろう…

だけど
何故彼がそんな表情をするのか
僕には理由がわからなかった

「貴方のお知り合い?
私シオンの妻のチェ ヒジュです」

ヒジュと呼ばれたその女性は
シオンさんの様子に気付かずに
僕たちに話し掛けた

「シオンさんの後輩の
シム チャンミンです」

「まあ!貴方がチャンミンさん?
シオンから貴方の事
よく聞いてます
本当に可愛らしい方なんですね⁉︎」

シオンさんはどんな風に
僕の事を彼女に話しているのか?

とても気になった…


「良かったら、一緒に食事を
しましょうよ」

せっかくヒジュさんが
誘ってくれたのに
シオンさんが
それを断った

それはきっと
ユノさんと同席するのが
嫌だったからだと思った

「ヒジュ…
2人の邪魔をしては悪いから
もう行くぞ」

シオンさんは
ヒジュさんを促して
自分たちの席に戻ろうとした

その時
シオンさんが名残惜しそうに
僕を振り返った

「チャンミン また、連絡するよ」

シオンさんはそう言うと
ヒジュさんと一緒にその場を
後にした

2人の後ろ姿を見送りながら
さっきのユノさんと
シオンさんの様子を思い返す

酔った勢いもあると思うけど
普段、穏やかなユノさんの
怒った顔を初めて見た

それにシオンさんも
何故あんなに
ユノさんを睨みつけるのか
理由がわからない…

不思議な感覚を覚えて
しばらく、考え込んでいると

「帰るぞ…」

いきなり、ユノさんに
手首を掴まれた

支払いを済ませる時も
強く握ったまま

ユノさんは強い力で
僕を引きずるように
無言で店の外に連れ出した

僕はそんなユノさんを
少し怖いと思った

ユノさんは
タクシーを止めると
僕を押し込むように乗せ
自分も乗り込むと
行き先のマンションを告げる

タクシーの中では
ユノさんは
ずっと無言のまま

ユノさんの強い怒りが
ひしひしと伝たわって…

僕はその沈黙が
耐えられないほどの
息苦しさを感じていた