「息子のまなざし」 | こだわりの館blog版

「息子のまなざし」

息子のまなざし
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息子のまなざし

「ある子供」 で遅らばせながらの初鑑賞をしたダルデンヌ兄弟作品
その独創的な作品スタイルにショックを受けた私は、
以前WOWOWで放送されたのをHDDに録画をしておきながら
重い内容と事前に聞いていたため、なかなか見るきっかけが作れず
約1年見ずにいた2002年作品「息子のまなざし」を慌てて見たしだいです。

ダルデンヌ兄弟作品の中では「ある子供」の方が完成度は高いのでしょうが、
その独創的なスタイルは相変わらず
これはこれで「息子のまなざし」も、
またまたすざまじい衝撃を持った作品であります。

2003年劇場公開作品
監督・脚本: ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ
出演:オリヴィエ・グルメ、モルガン・マリンヌ、イザベラ・スパール、ナッシム・ハッサイーニ、
    クヴァン・ルロワ、他

  オリヴィエ(オリヴィエ・グルメ)は職業訓練所で大工仕事を教えている。
  彼は自分の息子が同じくらいの年齢の少年に殺されて以来、周りから心を閉ざしてしまっていた。
  ある日、彼の訓練所にフランシス(モルガン・マリンヌ)という少年が入所してくる。
  当初、大工のクラスを希望したが、溶接のクラスに回されるフランシス。
  しかしオリヴィエは人に気づかれぬよう、フランシスを追う。
  なぜならフランシスこそ、彼らの息子を殺害して少年院に入っていた少年だったからだ…。

「息子のまなざし」は、主人公であるオリヴィエが
息子を殺され打ちひしがれているにもかかわらず、
その彼の勤務している職業訓練所に、自分の息子を殺した“犯人”である少年が入所してくるという、
これ以上厳しいシチュエーションはないのでは、と思わされるくらいの設定で
「ある子供」と同じく恐ろしいくらいに冷静な視線で淡々と描いていく。

オリヴィエの使命は、犯罪を犯した少年たちを更正させ、
手に職をつけ再び社会に送り込むことである、
しかしその対象者が自分の息子を殺した少年であったら話は違う。
本来ならその少年を拒絶し、時にはその少年を問いただす行為をしてもおかしくない。
しかしオリヴィエは、逆の行動をとる。
フランシスに執拗なまでに付きまとって、彼に細かい指導を行うのだ。
その本心は作品の後半になってポツリポツリとつぶやくオリヴィエの台詞でわかってくる。
彼はフランシスを他の少年たちと同じように更正させるという“職業病”的なまでの考え方に加え

「なぜ、この少年は自分の息子を殺したのか」
「なぜ、息子は殺されなくてはならないのか」

この回答を見つけるために、オリヴィエはフランシスと必死に接触を試みることで、
彼の“心の中”を覗こうとするのだ。
つまり、オリヴィエにとって「息子を殺された」という怒りの感情に行きつく前に、
この疑問の回答を得ない限りは、
彼の中で“ひとつの事実の納得”がいかず“心の整理”もつかない状態なのである。

そんな彼の行動は周りの人間たちからは理解されない。
特に事件がきっかけで別れた妻マガリ(イザベラ・スパール)はオリヴィエを激しくなじる。
そりゃそうだ。
彼女は彼と離婚した事で“ひとつの事実”を認め、
今は息子が殺されたという怒りの“感情”で生きている身だから。
しかしそんな彼女もオリヴィエにとっては、慰める一対象でしかないし、
フランシスに執拗につきまとう行為も止めない。
なぜなら彼は自分が納得し心の整理がつくまでは、
“感情”をあらわにする状態にまでをも至ってないのだから。
やはり今回の事件で一番ショックを受けているのは、オリヴィエなのである。

映画はオリヴィエがフランシスを、材木の仕入れに連れて行き、
ついに、フランシスが殺したのは自分の息子だったことを告げるシーンから
クライマックスへと一気に展開する。

  事実を知り材木所を逃げまわるフランシス。
  追いかけるオリヴィエ。
  ついにオリヴィエはフランシスを捕まえ、首に手をかける。
  殺すのか…否、彼はすぐに手を放してしまう。

事実を本人に伝えた事で、彼の中で“なにかひとつ”の行為が終わったのである。
再び何事も無かったかのように材木を積み始める2人。
この後、2人はどうなるのだろう。
映画はその後については何も語らずにブツリと作品を終わらせる。
一瞬「エッ!」と思うが、ラストのクレジットを見ながら自分の中でだんだん納得してくる。
この作品は2人の今後を知るために作られた作品ではない。
事件の“本当の真相”を知るまでは、
事件に対する“悲しみ”や“怒り”の感情にも到達出来ないでいた
オリヴィエという男の“心の整理”をひたすら追いかけた作品なのだからと。

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