「シャイニング」
- ワーナー・ホーム・ビデオ
- シャイニング 特別版 コンチネンタル・バージョン
「追い詰められた人たち」2回目、
そして【真夏の夜のホラー特集】最終回。
トリを務めるのは、やはりそれなりの作品ということで、
考えた末にこの作品に決めました。
ゴシックホラーの決定版、スタンリー・キューブリックの「シャイニング」。
真夏の夜のホラー特集・第16弾
1981年劇場公開作品
監督:スタンリー・キューブリック
出演:ジャック・ニコルソン、シェリー・デュヴァル、ダニー・ロイド、スキャットマン・クローザース、
バリー・ネルソン、他
ジャック・トランス(ジャック・ニコルソン)は、妻ウェンディ(シェリー・デュヴァル)と
息子ダニー(ダニー・ロイド)と共に、冬の期間閉鎖となる大自然の中に建てられた
オーバー・ルック・ホテルの管理人として住み込む生活を始める。
このオーバー・ルック・ホテルは過去、グレイディという管理人がこの生活のあまりの孤独のために
気が狂い、妻と二人の娘を斧で殺し、自分も自殺したという事件を起こしている。
ダニーは自分の中にトニーというもう一人の人間を育てており、
そのトニーがホテルに行く事に賛成せず、
ダニーは幻想でホテルのエレベーターの扉から滝のように流れ出る夥しい量の血と、
その前に立ちつくす双児の少女の不気味な姿を見るようになる。
ホテルは閉鎖され、ジャック一家のホテルでの管理人生活が始まる。
ジャックは静かなホテルの一室で小説が書けると思いきや、
いざ始めてみると苛立つばかりで進まない。
ウェンディは、そんなジャックの様子を見て不安になった。
そして、三人の緊張に満ちた不安定な生活は、遂に惨事を生むまでにいたる…。
「シャイニング」は紛れもないホラー映画の金字塔であります。
それがスティーブン・キングのベストセラーの映画化で、
スティーブン・キング本人及び彼の小説のファンから非難轟々であろうとも、
これはスタンリー・キューブリック監督によるホラームービーとして傑作であると断言できましょう。
何でも原作は(相変わらず未読です。やっと「ドリームキャッチャー」に着手中ですが!)
ダニーの超能力が重要なアイテムになっているとともに、ラストも一瞬正常に戻るジャックと
ダニーの親子愛が前面に出た“救いある”ものになっているらしいですが、
スタンリー・キューブリックの手に掛かると“救いある”要素など微塵もなくなっております。
「人間、おかしくなったらそれまでなんだよ」
とクールに構えるキューブリックの姿が今にも見えてきそうであります。
でもこの徹底的なクールさ、非情さがあったからこそ「シャイニング」は
ホラームービーとして抜群の怖さを生み出した傑作になったのではないでしょうか。
前作「バリー・リンドン」で、蝋燭の照明だけで撮影を可能にした
画期的な撮影技術を生み出したキューブリックでありますが、
この「シャイニング」では現在移動撮影の定番であります【ステディカム】を発明しております。
これは長い横移動撮影の時でも、レールをひく事なく、また段差を気にする事なく、
カメラマンの体に【ステディカム】を付けることで
(何かのメイキングで見ましたが、かなり大きな装置でカメラマンは大変そうでしたが…)
ブレることなく長時間の移動撮影が可能になった装置であります。
現在コーエン兄弟の作品の定番となっているこの撮影方法も、
もとはキューブリックがこの「シャイニング」の撮影のためだけに発明した装置だったのであります。
ダニーが長いホテルの廊下を延々とバギーで疾走するシーンも、
ラストで狂乱のジャックが迷路を延々とダニーを追いかけまわすシーンも、
全てこの【ステディカム】が威力を発揮しているのであります。
キューブリックはこの【ステディカム】を全編に多用して
ジャック・トランス一家をオーバー・ルック・ホテルの中で常に動き回わらせます。
ジャックは小説が書けないイライラからホテルを動き回り、
やがてタイムトリップしてパーティルームで1930年代の幻想を見ると共に、
家族を皆殺しにした前任の管理人グレイディと対面する事となる。
妻のウェンディはこのホテルの不気味な雰囲気と、
日々変わって行く夫ジャックに不安を感じ、
緊急事態が起こった時の避難方法を考えながらホテルをうろつく。
そしてダニーは好奇心からバギーでホテルを動き回っている内に、
謎の【237号】を発見し、そこでの光景を見て恐怖に陥って行く…。
3人が3様の不安・悩み・イライラを抱えながら常にホテルを動き回り、
だんだんと狂気の沙汰へと落ちて行く。
カメラも【ステディカム】を多用することで
「一点に落ち付かない」ことに不安を感じている観客たちをジワリジワリと不安で煽りつつ、
さらに恐怖を増長させていく。
ホテルという限られた空間での登場人物たった3人から
(幻想シーンを入れればもっと登場人物は増えますが)
これだけの恐怖が生み出せるのですから、
【完璧主義者】キューブリック、本作でも充分面目躍如しております。
確か公開当時はこの「シャイニング」、
あのキューブリックの新作という事で相当な期待がかかっており、
公開後の評論ではそれほど評価されなかったのを記憶しております。
しかし公開から早4半世紀が過ぎ、
夥しい数のホラームービーが本作の後、制作・公開されたにもかかわらず、
今だこの作品を越える“怖さ”をもった作品が現れないということは、
「シャイニング」が【しでかした事】は実は凄い事だったんだと改めて再認識してしまうと共に、
DVD化されても相変わらずロングセラーを続ける本作は今だからこそ、
もっと再評価されても良いのではないでしょうか。
最後に【完璧主義者】という言葉を出したので、
キューブリックの本作での【完璧主義者】ぶりを表すエピソードを一つ。
アメリカ嫌いで全ての撮影を住んでいたイギリスで行っていたキューブリック。
しかし本作はスティーブン・キングの原作モノで、アメリカのコロラドのホテルが舞台のため、
遂にはアメリカ嫌いのキューブリックもアメリカで撮影をしなければならないか、までいった様子。
しかしそこはキューブリック。
一発大逆転で、なんとオーバー・ルック・ホテルのセットを全てイギリスに建ててしまった!
あのジャックが徐々に狂気に陥って行く広大なホテルのロビーも実はセットだったとの事…驚きです。
ではあのホテルの窓からさしていた“やわらかな”日の光はというと、
なんと全て照明だったのだそうだ。
自然な日の光を出すために照明には膨大な費用がかかったという。
んー聞けば聞くほどキューブリック、恐ろしい人です。
彼こそが一番【映画】という狂気に陥っていた人だったのではないでしょうか!
■参考文献
- ヴィンセント・ロブロット, 浜野 保樹, 櫻井 英里子
- 映画監督 スタンリー・キューブリック
- 巽 孝之
- スタンリー・キューブリック―期待の映像作家シリーズ
■過去の【真夏の夜のホラー特集】記事はこちら
☆人気blogランキング に登録してます☆
☆ここをクリック していただけるとうれしいです!☆