渋谷・コクーン歌舞伎「桜 姫」 | こだわりの館blog版

渋谷・コクーン歌舞伎「桜 姫」

桜姫

6/19 Bunkamura シアターコクーンにて


ご報告がすっかり遅くなってしまいましたが、
6/19は昼夜通して四世・鶴屋南北の世界にどっぷりつかってみようと洒落こんでみました。
と、いうわけでまずは昼の部。
コクーン歌舞伎「桜姫」であります。


渋谷・コクーン歌舞伎「桜姫(さくらひめ)」

作:四世 鶴屋南北
演出:串田和美

配役

 桜姫       中村 福助
 清玄・釣鐘権助   中村 橋之助
 入間悪五郎     中村 勘太郎
 粟津七郎     中村 七之助
 役僧残月     坂東 弥十郎
 局長浦      中村 扇雀


ならず者の男と関係を持ってしまった桜姫が、身を持ち崩し、やがて娼婦になろうとも、
本能のまま、情念のままに生き続けていく姿を赤裸々に描いた作品です。
女性のために堕落してゆく破戒僧の清玄、野性味溢れた悪の魅力を漂わせる権助、
二人の男と絡みながら、運命に翻弄され、流転の人生を歩む桜姫の物語は、
ユニークで官能的なロマンであり、また、退廃的で残酷な美の世界でもあります。
(「SHOCHIKU OFFICIAL WEB SITE」より転載)


今回の「桜姫」のもとのテキストは「桜姫東文章(さくらひめあずまぶんしょう)」
昨年7月、坂東玉三郎が猿之助一門の若手たちと久々に演じ話題を呼びましたが、
私はこの公演は見ておらず、5年ほど前ですか国立劇場で
松本幸四郎の清玄・権助、市川染五郎の桜姫の配役で通し上演されたのを見ました。
見る前は市川染五郎が桜姫を演じるのはまだ時機が早いんじゃないかと思いましたが
監修を務めた中村雀右衛門の指導のもと思いのほか奮闘していたのを覚えております。
それでもこの公演の内容をそれほど覚えていないのは、
もう南北のドロドロした世界も現代社会では“さらにその先”を進んでしまったために
それほどスキャンダラスに映らなくなった結果なのでしょうか?


さて今回のコクーン歌舞伎版「桜姫」ですが、
コクーン歌舞伎は毎回奇抜な演出と出演者の奮闘ぶりで大人気の公演。
私はコクーン歌舞伎はしばらくご無沙汰で「夏祭浪速鑑」の初演以来です。


串田和美の今回の演出のコンセプトは何でも“見世物小屋”だそうで、
口上係の人間の解説の下、
廻り舞台を使わずにブースのような可動舞台をいくつも登場させて舞台転換を行ったり、
シアターコクーンの天井の高さを利用して、上下に二重の舞台装置を作ったりと
非常に凝った舞台装置でこの物語をポップな感覚で演出しております。


しかしこの“ポップな演出”“南北戯曲”に合っているかというと、正直ちょっと疑問に思いました。
鶴屋南北の戯曲の魅力は、歌舞伎の舞台・衣裳・様式美をしっかり守りながら、
その制約された世界の中で思いっきり人間の本能の世界、ドロドロとした情念の世界を爆発させるのが特色だと思うんですね。

例えば代表作の「東海道四谷怪談」などは忠臣蔵の【裏の物語】として書かれたのは有名な話。
主君の仇討ちという美談の裏で四十七士のとった行動には、田宮伊右衛門のような極悪人がうごめき、
ドロドロとした人間模様が繰り広げられる…
まさに「美しい歌舞伎の舞台面も一枚はがせば…」という【本音】の世界を南北は得意とした訳です。


それに対し今回のコクーン歌舞伎の演出は、戯曲以上に“はじけすぎ”なのですね。
本来【お姫さま】が身を持ち崩し【娼婦】にまでなってしまうストーリーなのですから、
歌舞伎としては思いっきりスキャンダルな内容なわけです。
ところが演出が“はじけすぎ”たために、どうも人間のドロドロした本音の世界が
見るものに伝わってこないんですね。
舞台面があまりにもポップすぎて
「この世界ならお姫さまも援交ぐらいするかもしれない」って感じなのです。
もう少し歌舞伎の様式美を重視した展開を行って、
最後の最後、桜姫が狂乱するあたりで一気に“はじけた”演出を持っていったほうが、
南北戯曲は効果的だったのではないでしょうか。


役者陣では主役の中村福助が奮闘しておりましたが、こちらはちょっと【固すぎた】印象です。
確かにあの演出では、一人くらいは真面目な演じ方をしないといけなかったのでしょうが、
なにせ役柄が「娼婦に身を持ち崩すお姫さま」なのですから、
福助の演技にはもう少し【やわらかさ】があった方が良かったと思います。
それと風邪気味だったのか、お姫様の時に声がカスレ気味だったのが、ちょっと気にかかりました。

そう思うと、毎回シアターコクーンの舞台を自由に泳ぎまわり、
それでいながらしっかり【歌舞伎】を演じていた中村勘三郎の力量って

やはりすごかったんだ、と再認識してしまいますね。

最後に苦言を一つ、それはカーテンコール
コクーン歌舞伎では毎回恒例なのでしょうが、
歌舞伎にカーテンコールはあまり似合わないと思いますね。
しかも拍手に応じて二度三度行う。
オペラじゃないんですから、
あの衣裳で何度も舞台袖から出てくるのはあまり格好いいモンじゃありません
ご覧になられた方、どう思われました?


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