「M/OTHER」
「再現フィルム」は【ノンフィクション】を【フィクション】の世界で描くこと。だけどこの作品は【フィクション】を【ノンフィクション】のように描いたもの。
【ノンフィクション】のように見えるが、そこには演出も演技も介在している【フィクション】の世界。ということはこの作品の出演者たちは【フィクション】を【ノンフィクション】のように見せようと【フィクション】の演技をしている…ああもう、ややこしい!
1999年劇場公開作品
監督:諏訪敦彦
出演:三浦友和、渡辺真起子、高橋隆大、梶原阿貴、石井育代、石井榛、他
この作品はカンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞し、
1999年の公開当時は結構話題になった作品である。
しかしその後、監督の諏訪敦彦がこれといった作品を発表していないため(2001年に「H story」というのを発表したそうだが、私は全く知らなかった!)「M/OTHER」は、なんとなく忘れ去られてしまったような作品になってしまってますが、今回始めて鑑賞し、約6年前に日本映画界は、すごい事をやらかしていたんだなと改めて感心してしまいました。
この作品はイギリスのマイク・リー監督の作品のように
事前に脚本を持たず、現場で監督と主演の三浦友和、渡辺真起子が
「この主人公たちは今後どういう行動をとるか」をディスカッションの末、ストーリーを決め撮影していった、という。
だからこの作品には通常の劇映画にあるような「起承転結」や「作品の山場や見せ所」のようなものが一切ない。
アキ(渡辺真起子)とバツイチの哲郎(三浦友和)は同棲生活でお互い自由な関係を保ち続けている。
そこへ哲郎の8歳になる息子・俊介が同居を始める。
俊介を引き取っていた元妻が、事故で1ヵ月ほど入院するというのだ。
アキは突然のことに不平を言いながらも受け入れるが、やがて次々と問題が起きていく…。
正直、見始めた時は「とんでもないものを見てしまった」と思った。
なにせ登場人物たちはボソボソと台詞を言い、
平気でフレームアウトしてしまう。
カメラはそこに人がいなくても平気で部屋を映し続ける。
フレームの外では相変わらずボソボソと何か会話が交されている。
映画文法が展開されて当たり前の私の頭に、
ガツンとこの手法は一撃をくらわす。
「なんだこれは!」といった感じである。
しかし見ていくうちに自然とこの世界に私の頭は<なれて>くる。
ボソボソの台詞も聞き取れるようになり、アキと哲郎の私生活を覗き見しているような気分になってくる。
ドキュメンタリータッチということで思い出すのは、
昨年大きな話題を呼んだ「誰も知らない」である。
「M/OTHER」と同じくカンヌ国際映画祭で、
こちらは柳楽優弥が主演男優賞を受賞した。
「誰も知らない」と「M/OTHER」一見すると両作品を同列に考えてしまいがちだが、よーく考えていくと両作品は微妙に方向性が異なっている事に気づく。
「誰も知らない」が実際にあった事件を極めて【ノンフィクション】に近づけるべく描いた【フィクション】であるのに対し、「M/OTHER」は<私生活を覗き見>している【ノンフィクション】を見ている気分になりながらも、主役が三浦友和であるという事が、この作品が決定的に【フィクション】であるという事を印象ずけるのだ。
三浦友和の奥さんは有名な山口百恵であり、見ている側もそれは充分知っている。
つまり三浦友和の私生活を見ているようで、頭の中ではこれは【フィクション】だと理解している。【ノンフィクション】のような【フィクション】のようなスレスレの感覚なのである。
「誰も知らない」のドキュメンタリータッチも見る者の度肝を抜かされたが、「M/OTHER」の持つスレスレの世界も、ちょっと今までに体験した事の無い世界である。
「M/OTHER」で国際的にもその独自の手法が評価された諏訪敦彦監督だが、前述した通り、この作品後目立った活動をしていないのが、何とも寂しい。
作品スタイルが固定してしまうのは、その作家の命取りにもなりかねないのだが「誰も知らない」の是枝裕和監督の向こうを張る意味でも、
再度この手法での新作発表が待たれるところである。
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