東京都西東京市のひばりヶ丘にある「みむら矯正歯科」の院長 三村です。
今回は長文ですので、興味の無い方はスルーしてくださいねm(_ _ )m

公益社団法人日本矯正歯科学会が会員HP上で、「矯正歯科診療のガイドライン・上顎前突編」を公開し、会員にパブリックコメントを求めています
巷に不適切な矯正歯科治療が存在しているので、ガイドライン策定をすることは大変好ましいことだと思いますが、内容に疑問符が付く部分がありました。

「上顎前突患者に対し、Ⅰ期治療は、Ⅱ期治療の治療効率の向上に、有効か?」というセクションで、その答えをDグレード(無効性あるいは害を示す科学的根拠があり、行わないように勧められる)というグレーディングにしています。
ということは、大学病院を初めとして広く行われているⅠ期治療をすべて否定することになるわけです。

Ⅰ期治療というのは混合歯列(乳歯がまだ残っている8歳から10歳くらい)に行う治療で、取り外し式の装置で下顎の前方成長を加速したり、ヘッドギアといわれる装置で上顎骨の成長を抑制したりすることが多いです。
結語では「歯の外傷の危険が高いことなどから、早期に肉体的、精神的および社会的に満たされた健康状態を獲得することが治療目的であるのならば、上顎前突におけるⅠ期治療は妥当であり十分有効である。」とし、「患者の多彩な病態を正しく理解し、実行できる技量を有する矯正専門医によって行われるべき」としているのに、D判定?ということです。
まず、結語と判定に矛盾があること。

「若年成人期に1 回で矯正治療を行うよりも有効とは言えない」ということを、その大きな理由の一つと考えているようですが、その結論が出ているのは、海外の文献です。
多彩な病態を分類してもいません。
さらに、若年成人期はII期治療期の前期に相当すると考えられますが、患者さんは、この非常に限られたタイミングを知る由がありません。
骨格のパターンを治すことを主眼としてⅠ期治療は行われることが多いので、骨格のパターンを治す機会を逸することに繋がります。
また、体成長や下顎の成長の個体差が存在することまでを考えると、ピンポイントのタイミングでの治療開始を推奨することは、本邦の矯正歯科に携わる公益法人の出すガイドラインとしては無責任であると考えます。

グレードDをガイドラインとして示すことは、現在の矯正歯科の現場で広く行われているI 期治療をすべて否定する印象を与え、臨床現場の混乱を招くことも必至です。
さらには、これを本当に公表した場合には、教育現場や歯科医師国家試験の見直しも早急に行わないとならないのですが、おそらく、その準備まではしていないでしょう。
学会としては、今後、Ⅰ期治療の適応もしくは不適応な骨格パターンを示すなどの洗い出しを行った上で、改めて警鐘を鳴らすことが必要であろうと考えます。

上記の趣旨のことをパブリックコメントとして、学会宛に提出致しました。
最低でも「科学的根拠はないが、行うように勧められる」のC1に見直されるように、多方面から働きかける必要を感じます。
久しぶりの長文になりました。