メロキュン企画 第九弾 カクテル編 | みむのブログ

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こちらはス/キップ/ビートの二次小説ブログです。CPは主に蓮×キョ-コです。完全なる個人の妄想から産まれた駄文ですので、もちろん出版社等は全く関係ありません。
勢いで書いていますので時代考証等していません。素人が書く物と割り切ってゆるーく読んでください。

メロキュン企画 第九弾

カクテル編です。

ホワイトデー…間に合わなかった。全然。すみません…。


☆2013.04.29 加筆




レディキラー


「ね、美味しいよ。口当たりが良くて、女の子はよく頼んでる。カクテル初心者ならこれがいいんじゃないかな?」

猫なで声、と、言ったらいいのか。
ゆらりと揺れるランプの明かりを受けて、カウンター内にてグラスを拭いていたマスターがチラリと視線をむけて、表情をかえぬまま視線を戻した。
視線の先にはこの店の常連と一見がいたのだ。助けが必要かと思ったが、常連に視線で応えを返された。
音を押さえたジャズさえ流れない静かな店内に、猫なで声が落ちる。

「スクリュードライバー。有名だから名前位聞いたことあるかな。これもオススメ。ルシアン。カカオの甘いカクテルだよ。」

カウンターに肘をついて上半身で囲うように隣の人物に向き合っているのは品のいいダークグレーのスーツを来た男だ。マスターの記憶に寄れば、一見の客であった。

対して男の隣に座ってカクテルグラスを傾けているのは細身の美女だった。

小さな顔を縁取っている艶のある栗毛は綺麗に巻かれ、彼女の胸元で緩く波打ち、綺麗に化粧が施された顔はいっそ作り物のように整って微動だにしなかった。

やれやれ、とマスターは内心ため息をつく。

先程から男が熱心に勧めているのはどれも有名な「レディキラー」ばかり。
口当たりがよく、けれどアルコール度数が強い…つまりはそういうお酒ばかりだ。

しかし、彼は気づいていないのだろうか。
彼女の手元にあるのはドライマティーニ。
カクテルはマティーニに始まり、マティーニに終わる…言わずと知れたカクテルの王様である。

カクテルの初心者なものか。
彼女こそがこの店の常連だった。

長い睫毛が影を落として見えないが、大きな瞳はいつもならばランプの灯りにユラユラ揺れて、好奇心に輝いてマスターの話を促す。
しなやかな身体の線を隠さぬ白いワンピース姿の彼女は、カウンターのスツールに腰掛けて先程から勝手に隣に座り、勝手に話しかける男を見ることすらしない。

「こんな店に君みたいな女性が一人でいるなんてさ。驚いたよ。ねぇ、どう?こんな店出てさ、これから二人で」

「マスター」

つい…とマティーニを飲み干してみせた彼女が、初めて声を出した。
心地よいアルト。しかし、今夜は強張ったアルトに、話を遮られた男があからさまにむっと顔をしかめた。

「ブルームーンを」

彼女のリクエストに心の中で大笑いしながら、けれど慇懃に「かしこまりました」と頷いた。
ジンをベースにスミレのリキュール、そしてレモン。
春の明け方の空のようにあわい紫の、うっとりするような美しいカクテル。

さて、通ぶっていた彼は気づくかな?

残念ながら、気づかないようだ。
今時珍しい、肉食系な彼は、マスターがカクテルを作り、彼女の前に差し出してもなお彼女を口説いている。
カクテルを差し出す時、ジロリと彼女に睨まれてしまった。

彼女にこのカクテルを教えたのも自分だ。申し訳ないと、目で謝る。スマートな男なら、効果があるのだが。

ブルームーン

意味は、「できない相談」

どんなに誘われても、あなたと同じ時を過ごすなんて、「できない相談」よ。
そういう意味である。

しかし、困った。
すげない彼女の反応にもめげず、自称・カクテル通氏は彼女を連れ出そうと必死だ。
それも無理はない。今夜の彼女はいつにも増して美しい。
お化粧も、服装も、髪型まで違う。まるで別人のような変身ぶりに、声をかけられるまでわからなかった位だ。
来店した時から、彼女は上機嫌だった。自分と話しながらもドアベルが鳴る都度振り返り、少しがっかりしながら向き直っていた事からも、人待ちしていたのは明らかだが…。

彼女の待ち人は…
この軟派師ではないだろうな。

グラスを拭きながら、ジリジリと耐えている彼女に同情の視線を向けた。
待ち人がいる限り、席を立って逃げるわけにもいかない。

マスターは感心していた。
今夜の彼女は我慢強い。
彼女は思慮深いが感情的でもある。
いつ、その綺麗な眉を吊り上げて、マシンガンのように男を罵る声をあげても不思議ではないのに。

よほど、大切な待ち人か。

「待たせた」

待ち人が来てくれさえすれば、この場をなんとかしてくれると確信しているからか。


背後からかかった声に、美しい彼女の顔を華やかな表情が彩った。










「敦賀さん⁉敦賀さんってば…‼」

有無を言わせず、手を引かれて歩かれてヒールの靴を履いたキョーコは時々つんのめりながらついて行く。

「どうしたんです‼…ちょっ…」

先程からなにも言わない、怒りのオーラを隠そうともしないレンに、キョーコは腹が立ってきた。

足を踏ん張って、思いっきり手を振りはらう。

「なんなんですか‼待ってたのに!どんなに遅くなっても待ってたのに!やっと会えたのになんでそんなに怒ってるんですか‼」

振り返る彼の顔も見ないまま、まくし立てた。顔なんて上げられない。だって、きっと今の自分は酷い顔をしている。

あんなに綺麗にしてきたのに。

きっと、怒りと不安でぐちゃぐちゃな顔なんだ。

社さんが「蓮好みだ」とイチオシしてくれたワンピース。念入りにお化粧して。背伸びしてコロンもつけた。

だって、久しぶりにアメリカから彼が帰ってくる。

心は喜びにはやって、呼び出しもとの社長に会いに来るはずの彼を、マンションで待てずに事務所の近くで待ち合わせた。

彼に教えてもらった秘密基地みたいなバーで。ウキウキしながら待ってたのに。
お客様が1人減り、二人減り、いつもならばラストオーダになる時間まで待って。
泣きそうなキョーコに、マスターが笑ってキョーコが好きなマティーニを差し出した。気にせず待てばいいと。

不安な気持ちを抑えて微笑みかけた所で話しかけてきたのが、あのナンパ男だったのだ。

キョーコにしてみれば散々だった。

待ちぼうけをくらって、不安に押しつぶされそうな時に、ナンパ男に絡まれ、やっと会えた恋人は、微笑みかけてもくれずに痛い位に手を引くばかりで黙ったまま。



褒めてくれると思ったのに。

綺麗だよって。少しでも。


他の誰も言ってくれなくたって、彼は。

なのに。

がんばったのに。



怒りの理由もわからず、混乱と、不安で涙が溢れそうになって、俯くと、頭上から情けない声が降ってきた。


「泣きたいのはこっちだ…」


驚いて顔をあげると、怒ったように眉を寄せた蓮が居て、また手を取られると近くに停めてあった車に乗せられた。事務所に保管されていた彼の愛車だ。

車に乗り込むと同時に抱きすくめられた。

はーーーーーー…

長い、長い溜息に、思わずといったようにキョーコが尋ねた。

「…泣きたい…って…」

「飛行機は予定通り到着したのに荷物が行方不明になったって空港に留められて…。携帯でメールしたいのにバッテリーが切れて。公衆電話を探し回ってやっと見つけて。事務所に連絡したのに君はもちろん社さんもいなくて伝言を頼むしかなくて。もう荷物なんてくれてやると思ってタクシーに乗ったら渋滞で。」

「えっ…!荷物、置いてきちゃったんですか⁉」

「見つかったら事務所に送ってもらうように頼んだよ…もっと早く見切りをつければよかったんだけど」

君に贈りたい、プレゼントが入ってたんだ。

ここで、大きく大きくつかれた溜息に、キョーコは思わず背中に回した手で広い背中をさすった。

「ようやく事務所に着いたと思ったら、誰も君にも社さんにも連絡できてないって言うし…」

どうなんだ、社会人として。ちっ…急いでいた、あまりに電話に出た職員の名前を聞き損ねた。

ゆらりと上がる怒りのオーラに、キョーコが身を竦ませた。

「君に電話しても、つながらないし。」

あのバーは電波が届きにくいのか、携帯がつながりにくい。

「慌てて駆けつけたら…君は変な男に触らせてるし」

「いかがわしい言い方しないでください‼手を触られただけです‼」

「場所の問題じゃない。…いや、手以外だったらどうなってたかわからない…」

確かめるように、華奢な手の甲を、かさかさの親指が何度も擦る。
かすかに混じるセクシャルな動きに、キョーコが身を震わせた。

「君は今夜も綺麗だし。なのに無防備で。こんな遅くに平気でバーなんかに一人でいるし。」

「今、なんて…?」

ずいっと顔を覗き込まれ、今夜ようやくかち合った目は、何故か期待に煌めいていて
不機嫌を隠そうともしていなかったのに、蓮は(ああ、綺麗だな)なんて思ってしまう。

「こんな遅くにバーなんかにいるし…?」

「それじゃなくて」

「無防備で?」

「わかってて焦らしてるんですか‼その前です‼」

「君は今夜も綺麗だ」

蓮の言葉に、キョーコの瞳がとろりと溶けて
知らず浮かんだ微笑みに、また蓮は顔をしかめた。

「こんなの、何回も言ってる」

「敦賀さんに会えるから、頑張ったんです。頑張った成果が出たら、嬉しいでしょう?」

綺麗な服を着て、髪を巻いて
念入りにお化粧して、香りを纏って


あなたのために


「…そりゃ、俺だけ見てればいいけど」

「私はずっと前から、あなたしか見えてません」

そういう意味じゃなくて

俺のために着飾った姿を、他の男になんか見せたくないって

今回はそう言う意味で…

けれど、とろりと笑う彼女にその勘違いを訂正する事もできず、

かなり嬉しい事を言われた蓮は、にやける顔を隠すために彼女の肩に顔を伏せた。

天然…計算…?どうしよう。かわいい。今日の災難全てが吹き飛ぶ位に嬉しい。

ここで、ようやく、今更だけど大切な言葉を伝えた。

本当なら、一番にいうつもりだった言葉。

「…ただいま」


キョーコが破顔して、改めて大きな背中を抱きしめた。

「おかえりなさい」





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あんまりなぶった切りだったので書き直し…前回は、オマケ的な感じで軽い続きを書いていたはずが、あれ~?

あんまりだったので、加筆。だいぶ長くしました。前のオマケはナンパさんを追い払う兄さんだけだったんですけど。

加筆分はカクテル関係ないし。
とりあえず、クリスマス、大晦日の彼らです。


何はともあれ、お粗末!