一連の出来事② 手術 | Winston's diary

一連の出来事② 手術

そして手術の時間。


窓越しから麻酔にどっぷり浸かり、前後足を縛られたウィンストンがものすごい形相で手術台に乗っています。
病院内の全ての先生が手術台を取り囲み、患部を一眼レフで撮っている先生もいます。
院長先生が執刀をしているのですが、外から見る限り多少苦戦しているように見えます。今にも汗が吹き出そうです。

そして先生方の話し声がもれ聞こえてきます。
「なんでこんなところにあるんだ?」

生方が手術室から出たり入ったり。私もその脇でおどおどしています。
若手の先生が注射器を持って立ち去りました。
ああ、きっと例の注射器で細胞をとって検査をするんだ、と私も無意識に思いました。


その間も手術は続きます。
院長先生の手に肉の塊と、チューブのような組織がウィンストンの体内から取り出されているのが見えます。そして本来準備されていなかった巨大なハサミが登場し、何か作業をしています。


その時、注射器を持って出て行った先生が手術室へ戻ってきました。
手術室のドアが閉まりきる前に発した一言が、私の耳にも届きました。


「炎症ですね」


炎症?炎症?癌じゃない?


その瞬間フーっと頭の上に乗っていた重石が取れたような、そんな感覚を覚えました。
でも、まだはっきり言われたわけではないので、あまり空喜びするのはよそうと気を引き締めます。


その数分後、今度は院長先生が手術室から出てきました。手には人間のコブシ半分大程の塊が入った入れ物を持っています。

そしてその塊を私に見せながら、仰いました。


「病理検査に出してみないと確定はできませんが、ほぼ縫合糸に反応して出来た肉の塊と見て間違いないでしょう。以前去勢手術をした時に使用した糸に対し異物反応を起こし、体内で炎症を起こしてここまで急激に大きくなったと思います。今のところ左側は反応を起こしていませんが、将来的に反応を起こし、同じような症状が出る可能性があります。現在全身麻酔をかけていますので、今左側の糸も取ってしまいますか。」


私は院長の口から、これは炎症で癌ではないという話を聞いて一瞬にして気が楽になりましたが、逆側にもメスを入れるのかと思うと、ウィンストンが大変不憫に思えました。しかし将来的に再発する可能性が低くはないことを考えると、その原因になっている縫合糸を取り除く方が得策だと思え、反対側の糸の除去もお願いすることにしました。


私に確認をとると院長は、わかりました、と返事をしそのまままた手術室へと戻りました。


その瞬間私は全身の力が抜け、癌じゃなかった、本当に良かった、と心から思いました。


術後、他の先生から今回の病名について一通り説明を受け、そこで正式に「化膿性縫合糸肉芽腫」という言葉を聴くことになりました。後に頂いた病理検査でも同様の結果を受け取りました。


癌ではなかったものの、新しく聞くこの病名に対する知識を深めるために家に帰ってインターネットでいろいろ情報を集めることにしました。すると、例の去勢手術や避妊手術で使った糸が原因で手術から4年後に発症している例、実際にこの病気にかかった飼い主さんが書いているブログ等を見つけることができました。


残念ながら、この病気は一度原因となっているものを取り除いたからといって完全に再発はないと言えないものらしいのです。病理検査報告書にも、後に別の部位に皮下組織炎が生じる場合があるとの記述がありました。
結果的には、これから一生お付き合いをする必要がある病変ということなのです。


この結果には正直大変驚きました。
原因物を取り除けばそれで大丈夫なはずとばかり思っていたからです。


もちろん、犬個体の性質に関連しているのも事実です。
獣医さんから見れば、ウィンストンの性格はとても神経質、よく言えばデリケート、しかしながら個の性格として自分に合わないもの、自然ではないものに関しては受け入れない、という断固たる性質がある犬だとのことでした。

このウィンストン個の性質が、今回の縫合糸に対するアレルギー反応を発症させた原因の一端を担っていたことは明確です。しかしながら、「縫合糸」が体内に存在したことが一番の原因になったことは言うまでもないとのことでした。また同時に、縫合糸にはいろいろな種類があって、ある特定の糸に対してはアレルギー反応を占める犬猫が多いとの報告があることも教えてもらいました。


私は去勢手術についての知識がほぼありませんでした。
保健所に一度捕獲されたことのある犬として、あれだけ多くの犬や猫たちが溢れ返っている現実を考えれば、去勢手術をして里親に出すことに関しては当然の処置だと考えていたし、例えば去勢手術の記事を読んでも子孫を残すつもりがないのであれば、犬のストレスを軽減し、オスであればマーキングや攻撃性の軽減、性ホルモンに起因する各種の病気の予防等、メリットが強調される記事が多かったので去勢はして当然だと思っていました。
リスクといえば、全身麻酔のリスクくらいしか知りませんでした。


しかしその影に、「縫合糸肉芽腫」という、一度発症すると一生お付き合いをしていかないといけない病気がリスクとして存在しているということは知る由もありませんでした。


もし、この病気のリスクを去勢手術前に知っていたら、私はどうしていただろう。
もし、この先また新しく犬を飼うことになったとしたら、私は胸を張って去勢(避妊)手術を出来るだろうか。


こんな考えが頭の中を巡った時に、私は、出来ないかもしれない、と考えてしまいました。


もちろん、去勢をすることによって予防の出来た病気にかかった時は、あの時なぜ去勢をしておかなかったのだろう、と思うことでしょう。


双方に良い点、悪い点があります。


しかしながら、事前に去勢に関するこのような知識があったとすれば、去勢手術の際に極力アレルギー反応が薄いとされている糸を選ぶなりのことは出来るのだろうと思い、敢えて今回記事にすることにしました。


この件に関し、私が経験した縫合糸肉芽腫発見からその手術に至るまでの体験を詳細に書き記してきました。
ウィンストンのバッググラウンドを考えると、この件に関する意見は人それぞれだと思います。
ここで紙面上に理想論を連ねることはできても一筋縄ではいかない現実というものが目の前にはあります。
実際に出来ることと、目の前にある実際の選択肢の中から最善を尽くさなければいけないという状況も存在していると思うのです。


私も今回の件についてはいろいろ考えましたが、未だに考えがまとまっていません。
しかし、事実としてこういったことがあったということはウィンストンの様子を書き連ねているブログを書いている以上、無視をして通れないことなので記録として残しておこうと思いました。