大海の一滴、ミルキーのささやき

大海の一滴、ミルキーのささやき

舞台・映画・小説の感想を自分勝手に書き綴る、きまぐれブログ。

スタッフ

 

原作:別役実

構成・演出:野上絹代
脚本:北川陽子

 

キキ:咲妃みゆ

ロロ:松岡広大

語り 他:瀬奈じゅん

ビーボデー:玉置孝匡

キーボデー:永島敬三

チーボデー:田中美希恵

 

あらすじ

 

主人公のキキ(咲妃みゆ)はサーカスの団員です。

内気で喋ることが苦手な少女ですが、ひとたび舞台にあがると大変身。

サーカスの花形である空中ブランコのりとして、3回宙返りを披露しています。

こんな大技を成功できるのは、世界中でキキひとりだけなんです。

キキはそのことに絶対的なプライドを持ち、命綱なしで臨んでいます。

一方、同じサーカス団のロロ(松岡広大)は、ピエロとして活躍する少年。

失敗だらけの道化でも、それを笑いに変えることができる人気者です。

 

彼らサーカス団は町から町へと移動し、いろいろな人と出会います。

それは謎のおばあさん(瀬奈じゅん)であったり、死にたい人の手伝いをする自称人殺しの3兄弟、

ビーボデー(玉置孝匡)キーボデー(永島敬三)チーボデー(田中美希恵)だったりします。

 

人見知りだったキキですが、出会いによって心の壁が取り外されていきます。

と同時に「もっとすごい自分を見てもらいたい」「もっと大きな拍手をもらいたい」という欲求も膨らんでいきます。

そんな時、別のサーカス団にいる空中ブランコのりがキキと同じ3回宙返りを成功させたとの噂を聞き・・・

 

この公演は別役実氏の童話「空中ブランコのりのキキ」「愛のサーカス」「丘の上の人殺しの家」をアレンジし、

舞台用に構成された作品です。

 

感想

 

いやあ、びっくりしました。

何がびっくりしたって、まさか瀬奈じゅんさんや咲妃みゆさんらタカラヅカOGで別役作品を観ることになるとは思わなかったからです。

私事ではありますが、遠い遠い昔、さる劇団の研究所にいた私の卒業公演が、かの別役実さんの作品だったのです。

そんな縁もあって私は別役さんの作品が大好きです。

全てではありませんが、何本か舞台を観させていただいています。

不条理劇とタカラヅカは相反するコンテンツなのでどうなることかと思いましたが、中々良かったですよ。

ただ、ただ、です。

以下は舞台経験者のウザくてウザくてウザい感想になるかと思います。

 

①台詞の妙

 

いつでも「死」と隣り合わせというか、死が自然に存在している台詞は「ああ〜らしいなあ」と改めて感じましたね。

なんならユーモアを持って自死を捉えている台詞の数々。

くすぐって笑い死にさせる殺人方法って。そのセンスがたまりませんね。

それでいて、急にぞっとさせるような展開。

キキは親友ロロのピエロという仕事を内心見下していたり、噂に惑わされて命をかけてしまったり、親切げなおばあさんが死への引導を渡したり。

童話とはいえ、人間の愚かさがこれでもかと詰め込まれています。

イイです。とてもイイです。

好みが分かれる舞台なのは承知の上で、是非、多くの子どもに観てもらい、様々な表現があることを知ってもらいたいです。

 

②舞台セット

 

この台本で浮かぶ画は、絵本をパッとめくったようなといいますか、万華鏡を覗いたようなイメージでした。

そう、細かくはリアルなのに大きくは異世界。

上記を具体化するには、ガツンと華やかで大掛かりなセット&人員を配置するのか、それともシンプルな世界観を創るのか、二者択一だと思うんですよ。

けれど今回の舞台はそうではありませんでした。

何か中途半端だったんですよね。

前者の華やか系に振ろうとして、それほどにはならなかったのかなと感じましたね。

サーカス演技シーンがあちらこちらで展開して、散漫になります。

せっかくひとつひとつの技は見応えがあるのに、もったいない気がしました。

ピンポイントに絞って欲しかったです。

綱渡りのシーンは一点に観客視線が集まっていたので、あれらの表現を駆使すると、もっと良くなったかもしれません。

その他、出番を待つ際の見切れすぎるセットや役者の姿は興醒めするので、別の方法を考えて欲しかったですね。

 

③様々な分野の出演者

 

ミュージカル俳優、舞台俳優、パフォーマー。

出演者は大きく3つに分かれていましたが、稽古期間の問題もあるのか融合していたとは言いかねました。

プツプツと分断されている感が否めません。

ここは世界観をひとつにしてもらいたかったです。

ひとつ例として挙げるならば、ストーリーテラーの瀬奈さんが始める子ども相手中心の客いじりと、

人殺し長男役・玉置さんの小劇場風の客いじり。

全く異なるものすぎて悪ギャップです。

ていうかこの世界観になんで2通りの客いじり?

いらないですねえ。

 

なんだかんだと文句をつけましたが、久しぶりに大好きなワールドの観劇ができて本当に本当によかったです。

休憩なしでガッツリ集中できた2時間弱でした。

 

キキを演じたのは、咲妃みゆさんです。

タカラヅカ屈指の演技派と思っていた咲妃さんが主演ということで、観劇前から期待大でした。

絵本から抜け出たような少年味のある容姿、遠くまで響く声、安定した舞台の佇み、いづれも良かったです。

咲妃さん演じるキキの透明感が増せば増すほど、キキの望みは浅はかで愚かで濁っているような気がしてしまって、

ある意味、矛盾することが同居する別役ワールドを上手く体現していたと思うんですよね。

歌声も素晴らしかった!

元タカラヅカトップ二人のハーモニーはそれはそれは豪華でした。

というか、声の相性が良すぎましたよ。

 

ロロを演じたのは松岡広大さんです。

青春真っ只中でキラキラっていう感じのロロでした。

キキと対照的なのがロロで、言っていることが一番「まとも」な人物です。

松岡さんのロロは真っ直ぐに見えて、やっぱりそのまま真っ直ぐだったので

もう少し、「実はあんな奴が真っ直ぐなのかーい」というところがあっても良かった気がします。

ピエロ役だけに。

松岡さん持ち前の太陽のような華やかさがそう思わせたのかもしれません。

歌声は美しく、通る声でしたね。

心地の良い声の役者さんだと思いました。

 

語り、おばあさん、団長、お母さんなどを演じたのは瀬奈じゅんさんです。

舞台上で複数役変するにも関わらず、見事にスイッチを切り替えながら演じ切っていました。

瀬奈さんがこんな主軸の難役を演じるようになったんだなあと、感無量でしたね。

パッとしたオーラに併せて安定感が増し、これからが益々楽しみです。

あえて難をいうなら、優しさと善良さが溢れ出てしまっているんですよね。

単なる良い人役にみえてしまう。

そこは今後複雑な人物に見せるためどうしていくのか、そちらも楽しみです。

 

最後に

 

パンフレットに別役実さんの娘さんである、べつやくれいさんの随筆が載っていました。

内容はお父さんについてなのですが、飼っているハムスターの城を2人で作るなど独特な思い出話で、とても面白かったです。

文章の才能っていうのも遺伝するのかなぁと思った次第です。

 

Fin