ケリー訪中で何が話し合われたか(概要) | 中国軍事問題研究室

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先月12日から15日まで、4日間の日程でケリー米国務長官がアジアを歴訪した。


ケリー長官はまず韓国を訪問し、「北朝鮮を核保有国として認めない」「北朝鮮は6か国協議のテーブルに戻るべきだ」とする共同声明を外相と発表した。次いで中国では王毅外相や習近平国家主席らと会談し、最後に日本の安倍首相や岸田外相と北朝鮮問題のほか、「尖閣諸島の施政権は日本にある」という確認を行った。



ケリー訪中に関して、53日付の日経新聞は「米中接近後に『侵犯』急造」という記事を掲載し、このケリー長官によるアジア歴訪が、尖閣周辺での中国公船による領海侵犯激増と関連があるのではないかと報道している。この点に関して、我が国の報道機関は「ケリーは中国で北朝鮮問題を中心に協議した」とする報道しか行っていない。



ところが中国政府の影響力が強い新華社の報道を見ると、ケリーと中国政府首脳との主要な議題は「新型の大国関係」に関するものであったという報道がなされている。会談の全ての内容を知ることは容易ではないが、少なくとも我が国の報道機関が報じているように、北朝鮮問題に関してのみ意見交換がなされたわけでないことは事実である。

新華社通信による、ケリー訪中を伝えるいくつかの記事を通してみると、中国側は主として米国に「先端技術の禁輸解除」を求め、「ハイレベル人材の交流」、「経済協力の促進」によって国家関係を強化する事を望んでいることがわかる。さらに新華社の論説という形を取って「アジア地域における米国主導の中国包囲網の解除」を要求し、「相互の核心的利益の尊重」を要求している。


このような中国側のアプローチに対して、ケリーは真正面から中国の動きを批判するようなことをしていないと見られる。むしろ日経新聞が報道するように、尖閣諸島への『侵犯』がその後急増していることを踏まえれば、中国をしてこのような挑発的行動を増加させてしまうような「弱腰姿勢」であったと考えるべきであろう。


興味深いことに、55日付の解放軍報で軍事科学院による論考が掲載され、米中関係を阻害するものとして「台湾への軍事支援」と「先端技術の対中禁輸」が挙がっている。この事から、ケリーに対して対中先端技術禁輸解除の要求を伝えた政府首脳と、軍事的な対中包囲網解除の要求を伝えた新華社の論説(共産党の意向を反映)は、人民解放軍の意向に沿った線で要求を伝えていたという事実が浮かび上がってくる。

55日『解放軍報』「構築中美新型軍事関係需改変旧思惟」)


さらに言えば、中国は解放軍報紙上でサイバー戦争に関する論考を大量に掲載しており、サイバー戦争能力の構築に関心があることを隠していない。米中の接近に関して、もう一段の関心をもって国家戦略を立てる必要がありそうである。




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