■隣町の風と星 | オレンジレンジ中毒者の嘆き。

■隣町の風と星

友達の友里の家から大分歩き、ようやく隣町にたどり着いた。

隣町といえどかなりの距離があるので結局は鳥幻走(ちょうげんそう)の

群れの横断に直面し、夕方まで待つ羽目になってしまった。

空を見るともう太陽は沈み、鎮彗星(ちんすいせい)も

地平線へと沈みかけている。

むこうの雲の狭間で風龍の空庭(そらにわ)が見えた。


ここは東グリフットの町。

グリフットというのはこの地域の名だ。

ほかにも西グリフット、南グリフット、北グリフットという町がある。

大昔、人間達が、広大な土地を縄張りとする巨大な生き物を指差して

「グリフット=ルーザイ(楽園の盗人)」と呼んだのが

名前の由来らしいが、詳しいことはよく分からない。


ルーザイという言葉を取ればここは「楽園」ということになるのだが

まさに楽園と呼ぶにふさわしい豊かな場所だ。

町の人はみな穏やかで、水も清らかで美しく、いつも爽やかな風が吹く。

食料も豊富で、毎日市場は活気に溢れている。


そんな町中で久しぶりに風龍と出会った。

ちょうど、町の真中の広場で、西と東の風がぶつかり合い、戦い、

そして決着のつかぬままそれは形となって鱗の鎧を持ち、

天高く舞い上がっていった。



グリフットの地ではこういうことが頻繁に起こる。

歴史上、『Pito(ピトー)の知恵熱』とも呼ばれる、

20日間のグリフットの高熱を冷ますために、

東西南北に麗風神(れいふうじん)を立たせてからというもの、

グリフットの地では毎日あべこべに風が吹く。

あるときには四方向から同時に風が吹き、

生まれてきた風龍の頭が四つのときもあるらしい。


なかなか他に例を見ない珍しい町である。




もう一つ珍しい点。

東グリフットの町では、3つの星しか見ることが出来ない。


藍樂星(あいらくせい)と音白星(ねしろせい)と

五夜星(いよせい)である。



なんでも、グリフットはその3つの星のどれかから来た生き物で、

帰る際に間違えるのを防ぐために、

この土地一帯に幕を覆うように一種の呪いをかけたんだとか。

あまり信じられない話だが、実際グリフットの地と

ほかの土地とでは空の色や広さが違うように感じられる。


星の数の大きな差が、そう見させているのかもしれない。




鎮彗星はいつの間にか地上へもぐり、あたりは

3つの星の光で照らされていた。



旅のための食料をいくらか調達して、

今夜は麗風神のささやきを頬に感じながら寝ようと思う。