紅雲町ものがたり 吉永南央 | ちわ☆わんつーmemory 

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日々の忘れたくないこと

「紅雲町シリーズ」は現在までに3冊出版されています。
最新刊の評判がよさそうだったことを知りましたが「まずは1巻から読まなくては」そう思って選んだのがこの作品
主人公は76歳のお草(そう)さん。
東京から上越新幹線で行ける都市。そこの紅雲町でコーヒー豆と和食器を売る小蔵屋。
そこに出入りする様々な人 気丈なお草さんが身近で起こった出来事の謎を解く。
この作品は作者が初めて書いた小説「紅雲町のお草」が第43回オール読物推理小説新人賞を受賞。そのシリーズ5作品をまとめたもの。
紅雲町ものがたり/吉永 南央
¥1,500 Amazon.co.jp
離婚や息子との死別を乗り越え、老いても自分の夢にかけた大正生まれのお草。知的で小粋な彼女が、街の噂や事件の先に見た人生の“真実”とは―。オール讀物推理小説新人賞受賞作を含む連作短編集。(内容紹介より)

まず読みだして主人公の紹介で、その年齢に驚かされました。
女性が主人公のミステリーはいろいろ読みましたが、76歳の主人公。
どんな展開になるのか?

これは自分を含めてですが、自分はいつまでも変わらず気持ちは若いつもりでいます。でも他人から見ると違うんですよね。
この本は、自分だって年上の人間をずいぶん年上に見ていたけど、その相手は若い自分と同じように考えている、ということを気付かせてくれます。70代でも考え方は若い人と一緒なんです。
76歳で和服を着ているお草さん。身体は若いときの様には動かないけど、頭の回転は早いし、行動する気概もある。気持ちも若い。


お草さんは29歳の時に離婚して実家に帰って来ました。息子を夫の家に残して。
その息子が3歳の時に事故死してしまいます。
その時から、お草さんの胸には息子を手放してきてしまった後悔と、息子に誰か一人でいいから「一人で行ってはあぶないよ」と声をかけてくれたら、息子は死ななかったのでは?という思いがずっとあります。
だからお草さんは回りの人を気にかけます。

お草さんは、10年ほど前に一人で実家の小蔵屋を改装して今の店にしました。コーヒーの試飲ができる、要するに1杯無料でコーヒーが飲める店。

その店にコーヒーを飲みに来た近所の人たちの噂話。近くのマンションでの物音のことから、もしかして介護老人への虐待かと心配になりました。朝に夕にそのマンションの近くを動き回っていたら、自分が徘徊老人と間違えられてしまう!
とうとう頭もぼけてきたのかと疑われてしまう…

これは本人、腹が立ちますよね。読んでいて一緒になって疑った人たちに腹が立った。
そしてそんな描写に気付かせられる老人への見方。

事件はお草さんの身近で起こる小さな事件や出来事ですが、その細やかな心の描写が良くて、しんみりしたり、ほろっとしたり。
人生長く生きている人のことばは深いです。


そして10年前には小蔵屋の改装に使う古民家の古材を見に一緒に行ってくれた幼馴染。
彼女がどんどん老化してしまう。
家から出なくなり、同じことを何度も電話で話す。介護ヘルパーが来る曜日が増える。
空き巣が近所を狙っていると話題になって、一人暮らしのお草さんも幼馴染の由紀乃さんも、身の不安を感じる日々。

いつか、こんな淋しい思いをする日が来るのかな?

人生はどのように変わるかはわからないけれど、この作品に書かれていた言葉が印象的。
「したことは形を変えて、必ず戻ってくる。思いの外、先は長いのよ」
しみじみと心に残ることばです。若い人にこのことばを言っても実感ないでしょうが。。。





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