Richard Wagner&Gustav Mahler&Mr. Christian Thielemann♥

15泊17日ドレスデン遠征「第7弾」

 

リヒャルト・ワーグナー『ニュルンベルクのマイスタージンガー』千秋楽から1週間後、Christianティーレマン氏が指揮するグスタフ・マーラー『交響曲第3番ニ短調』を3日連続ゼンパーオーパーにて鑑賞。

 

 

東京の定期演奏会を通じ同じプログラムを同じコンサートホールで2日連続鑑賞するなら、NHK交響楽団と日本フィルハーモニー交響楽団。東京フィルハーモニー交響楽団は3日間あるが、東京オペラシティの後に数日の空き、会場(音響)も3箇所と異なる。指揮者の解釈「当日の閃き」や「パフォーマンスよりパフォーマンスに転ずる楽しみ」を汲み取るには、1日でも多く実演に接したい。そこで、2020年に続き定期演奏会3連発を計画。定点観測する為、殆ど同じ席を発売日に狙い撃ちした。

 

まず驚いたのは、1日目、2日目、3日目と殆ど変わらぬ高い完成度で聴衆を圧倒したこと。本番を重ねるにつれ充実する技術力はともかくとして、初日の熱量(続く2日間より演奏時間は2分くらい長い)や2日目の予期せぬ仕切り直し(第4楽章の数秒後に客席から通知音)後の大団円など、揺るぎない自信と信頼関係と作り込みが成功へと導いた。彼はオーケストラを知っており、オーケストラも彼を良く分かっている。指揮者の考えを理解し、確信を持って演奏される公演は本当に魅力的だ。弦楽器、金管楽器、木管楽器、打楽器、児童合唱、女声合唱、揃い踏み。アルト独唱のクリスタ・マイヤー氏は、これ以上ない理想のキャスト。

 

オーケストラは、彼の好む対向配置。2日目と3日目は楽章間の数分を差し引き、大体1時間30分の演奏時間でテンポは速め。そうであっても急ぎ足な情景描写にならず、細かいところまで丁寧に歌わせ、小さなカンタービレが詰まっている。そして心地良い風が吹き抜ける開放感、恰もオープン・エア演奏会を思わせるのは、ワーグナーやブルックナーに共通する彼の芸風がマーラーにも色濃く表れているから。2018年(録音)と比較すると、ところどころテンポ設定が変わり、第1楽章の聴きどころは一層ゆったりロマンティック、立体的・空間的な効果に心を奪われてうっとりする。テンポが遅くても、各楽器が美しく歌っているから遅さに耐えられる。逆に、幾ら速度を上げても、景色はスローモーションのように見える華麗なドライブも最高。

 

私自身、初めて接する彼のマーラーだけれど、ポイントとしてヴァイオリンの弾き方を挙げたい。それから、打楽器の音量とリズム、児童合唱と女声合唱の歌い方、他にも様々な気付きあり。初日の演奏時間が長かったのは解釈の違いと言うより、感情の高ぶりにより振れ幅が大きくなったからかもしれない。実際、私も緊張した。千秋楽はテンポを速めた箇所が幾つか聴き取れ、(新型コロナの感染対策とは思えないが)若干ステージバックしたことにより自席での聴こえ方が変わった。それにしても、シュターツカペレ・ドレスデンの繊細で緻密な演奏は本当に解像度が高い。

 

実は、5年前にも取り上げられたプログラム。マエストロ曰く、もう一度『第3番』に取り組みたかったとのこと。ゼンパーオーパー・ドレスデンの次は、ゲヴァントハウス・ライプツィヒ《Mahler Festival in Leipzig 2023》に出演。エルプフィルハーモニー・ハンブルク、ウィーン楽友協会(2日間)がマーラー『第3番』ヨーロッパ・ツアーの終着駅となる。当時の録音(ラジオ)との比較は難しいが、ライプツィヒの録音も序に聴いてみると、2023年5月21日(初日)こそ最もマエストロの内なる声がオーケストラに反映されていたのではないかと個人的に思う。特に第2楽章【野原の花々が私に語ること】の語り口は弦楽四重奏団級の拘りようで、オペラハウスが香る程それはもう甘美な世界。花々の形や模様、恰も花弁の波打つ造形まで捉えたかのような演奏から、彼の鋭い審美眼が見える。勿論、どの楽章からも素晴らしい曲想は感じられ、高揚感に緊張感、冒頭から末尾まで集中力は1秒たりとも切れなかった。それは、神々しい建築物に例えられるブルックナーをも得意とするティーレマン氏ならではの解釈。全6楽章には、心理的な連続性さえ聴き取れた。

 

シェーンベルク『グレの歌』と違い、マーラー『第3番』はステレオ効果を強く狙った作品ではないが、求心力の強いアンサンブルを奏でるシュターツカペレ・ドレスデンの煌めく宝石を心行くまで堪能。芸術の極致に達する名演の中の名演ブルックナー『第9番』ウィーン楽友協会2022年5月31日に続き、ワーグナーにかけては他の追随を許さないティーレマン氏のマーラー公演の鑑賞が叶い嬉しい。若い頃は、ワーグナーと同じくらいマーラーに魅せられたマエストロ。カーテンコールでは、何時になく表情が豊かだった。振り返ると、殆どの聴衆がスタンディングオベーション。万雷の拍手に応え、白馬の如く指揮台に飛び乗る彼の真剣な眼差しを永遠に忘れたくない🌹

 

 

10. Symphoniekonzert

Gustav Mahler
Symphonie Nr. 3 d-Moll

Christian Thielemann DIRIGENT

Sächsische Staatskapelle Dresden

 

21.05.2023 (3公演中1日目)

22.05.2023 (3公演中2日目)

23.05.2023 (3公演中3日目)


Christa Mayer ALT
Damen des Sächsischen Staatsopernchores Dresden
André Kellinghaus
EINSTUDIERUNG
Kinderchor der Semperoper Dresden
Claudia Sebastian-Bertsch
EINSTUDIERUNG