Richard Wagner&Gustav Mahler&Mr. Christian Thielemann♥

15泊17日ドレスデン遠征「第7弾」

 

 

コロナ禍を経て、ドレスデンに15泊しようと決心した理由は主に2つある。1つ目は、ワーグナーの最長オペラとマーラーの最長シンフォニーを立て続けに鑑賞する絶好の機会であること。その夢は実現し、15時間もティーレマン氏の音響芸術に浸ることが出来た。2つ目は、GMDや首席指揮者だからこそ御鉢が回る『ニュルンベルクのマイスタージンガー』はワーグナー作品の中でも人件費が掛かる。トップクラスのオペラ歌手陣を揃えるべく、何年も前から出演契約を結ばなければならない。他にも、誰がコンサートマスターを務めるか、信頼関係の築かれた首席奏者達で脇を固められるか、オペラこそ総合力が求められる。エキストラが増える来日公演と違い贅沢な話かもしれないが、本拠地なら期待してしまう。日本まで運べない建築オペラハウスも熟知の間柄。結局、此方の行動力次第。チケット購入後は、引くに引けなくなった。

 

 

ティーレマン氏(指揮)&シュターツカペレ・ドレスデンによるRichard Wagner『Die Meistersinger von Nürnberg』は、2019年ザルツブルク・イースター音楽祭と2020年ゼンパーオーパー、東京文化会館の国際共同制作。私が初めて鑑賞したのは3年前、1月30日と2月2日(「Peter Schreierに本日の公演を捧げます」と副インテンダントよりアナウンスあり)の2日間で場所はドレスデン。今回はクラウス・フロリアン・フォークト氏もカミラ・ニュルンド氏も仕事と重なり出演することが出来なかったが、前回に続きゲオルク・ツェッペンフェルト氏は板に付いたザックス役で熱演。説得力も増し、マエストロの解釈を真に語る右腕コンサートマスターさながらの絶品歌唱。アドリアン・エレート氏の十八番と呼びたくなるベックメッサーは、余裕あり安定感あり完璧。ずば抜けた歌唱力と美貌を兼ね備えるクラウス・フロリアン・フォークト氏に代わり、初めてヴァルター役に挑むトミスラフ・ムツェック氏は2019年『さまよえるオランダ人』エリック役(ティーレマン氏指揮)が印象的だったものの発展途上か、今後が楽しみなテノール。我が最愛の指揮者は、彼を支えるべく秒単位でオーケストラに指示。そのような献身的な姿を見られるのも、現地の醍醐味である。マクダレーネ役のクリスタ・マイヤー氏は重要な1人で、素晴らしいディクションに感服するばかり。この後に続く、マーラーの交響曲にも出演。ダフィト役ダニエル・ベーレ氏の公演を鑑賞するのは、2016年ベートーヴェン『ミサ・ソレムニス』(ドレスデン爆撃戦没者追悼演奏会)以来。知的かつユーモアに富んだ歌唱・演技・表現、可笑しくて何度も笑ってしまった。ポークナー役のアンドレアス・バウアー・カナバス氏の歌唱は初めて聴くが、貫禄に声量に適役だ。2004年にゼンパーオーパー財団のクリステルゴルツ賞を受賞したMarkus Marquardt氏は、バイロイト音楽祭の常連Kwangchul Youn氏に代わり急遽『グレの歌』(翌日からCOVID-19パンデミックによりドイツのオペラハウス及びコンサートホールなど閉鎖)に出演したティーレマン氏と共演の長いアンサンブルの1人。エファ役のユリア・クライター氏は、昨年ウィーン楽友協会にてツェムリンスキー『抒情交響曲』をシュターツカペレ・ドレスデンとティーレマン氏の指揮で聴いたがワーグナーも上品で発音も明瞭。上演時間が4時間半を超える長大な楽劇のハイライトは、マエストロがインタビューで語った第3幕の第4場《愛の洗礼式》五重唱。嬉しいことに、5人が横並びで均等に立ち歌う。このシーンを取っても、バイロイト祝祭劇場でさえ(作品とアコースティックの関係上)叶えられないだろう、ワーグナー縁の地ゼンパーオーパーこそ聖地と書き記したい。

 

オーケストラはヴァルターが活躍する第1幕より、第2幕と第3幕で本領発揮。オペラ歌手の技術力や歌唱力が演奏に反映される(指揮者とオーケストラは寄り添わなければならない)為、2020年(クラウス・フロリアン・フォークト氏出演)より思い切り鳴らせない箇所は若干もどかしい気持ちに。ところが、(ヴァルターの出番が減る)第2幕からオーケストラは伸びやかになり、開放感あふれる演奏へ姿を変えていく。ピッチが揃い始める時はゾクゾク。どんどん音は透き通り、ただただ恍惚として聴き入る。時折オーケストラピットに目を向けると、我が最愛の指揮者が軽やかに舞う姿が見える。そう、優美になった。大きく派手に盛り上げるスタイルではなく、室内楽的な魅力を漂わせて。指揮者の当日の閃きや解釈の違いを感じるには、定期的な鑑賞が一番。熱烈に指揮する箇所は3年前にもあったが、今回は異なるシーンで立ち上がり(演奏で)強調。オペラにシンフォニーに、彼が選び抜く作品に出来るだけ多く接したい。現代最高の『ニュルンベルクのマイスタージンガー』!!!

 

最後に。史上最高のワーグナー指揮者は誰か?と尋ねられたら、心の中で「人生を共に歩む人」と呟きたい。勿論、生きてきた歴史が重い相手にとって、客席に座る私は他人と言う名の聴衆に過ぎない。それを残念に思うのではなく、マエストロが子供の頃から慣れ親しむ作曲家達の声を聴き続け、何時かオペラ&クラシック音楽の核心に迫れれば。ドイツ独り旅のキッカケを与えてくれたChristianティーレマン氏に深謝🌹

 

 

Richard Wagner  Semperoper Dresden

»Die Meistersinger von Nürnberg«

Musikalische Leitung  Christian Thielemann

Sächsische Staatskapelle Dresden

10.05.2023 (3公演中2回目)

14.05.2023 (3公演中3回目)


Inszenierung  Jens-Daniel Herzog
Bühnenbild  Mathis Neidhardt
Kostüme  Sibylle Gädeke
Licht  Fabio Antoci
Chor  André Kellinghaus
Choreographie  Ramses Sigl
Dramaturgie  Johann Casimir Eule , Hans-Peter Frings

Hans Sachs  Georg Zeppenfeld
Veit Pogner  Andreas Bauer Kanabas
Kunz Vogelsang  Iurie Ciobanu
Konrad Nachtigall  Sebastian Wartig
Sixtus Beckmesser  Adrian Eröd
Fritz Kothner  Markus Marquardt
Balthasar Zorn  Markus Miesenberger
Ulrich Eißlinger  Gerald Hupach
Augustin Moser  Adam Frandsen
Hermann Ortel  Rupert Grössinger
Hans Schwarz  Roman Astakhov
Hans Foltz  Evgeny Solodovnikov(10. Mai), Martin-Jan Nijhof(14. Mai)
Walther von Stolzing  Tomislav Mužek
David  Daniel Behle
Eva  Julia Kleiter
Magdalene  Christa Mayer
Ein Nachtwächter  Alexander Kiechle