お礼企画第2弾『桜の木の下で』(薄桜鬼・土方)後編 | 浅葱色の空の下。

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薄桜鬼に見事にハマってしまったアラサーのブログです。
拙いですが、お話描いてます。
まだゲームはプレイしてません!色々教えてやってください。

少しずつフォレストにもお話を置いていっています。お楽しみいただければ幸いです。















そんな心境のまま新年度を向かえ、部署内ではお花見の話が盛り上がっていた。







「なち」


声をかけられた方を向くといつものように凛とした出で立ちの一くんがいた。


「あ、斎藤くん。昨日の取引の件だったらもうすぐ資料あげられるけど」


「ああ、感謝する。ところでなち。最近疲れているようだが」


「え?そう、かな。気のせいだよ」


少し笑いながらごまかすようにマイボトルのお茶を飲む。



「土曜日の花見の買出しを皆で行こうと思うのだが」


「あ、じゃあ私も」


「いや、なちはいい。疲れているのなら休め。何か買ってきておいて欲しいものはないか」


「あー…じゃあ甘えちゃおうかな。少しでいいから甘い系のチューハイとお菓子とか」


笑いながら応えれば、斎藤くんも口元に少しの笑みを浮かべながら応えてくれる。


「承知した。菓子に関しては総司に任せるか。いや、島田さんに頼もう。
土曜の昼に壬生公園で花見だ」


「わかった。ありがとね」


「新八が場所取りに張り切っていたからな。いい場所で見れるはずだ」


「そっか、楽しみ」


斎藤くんが立ち去ってから窓の外に視線を移す。



視界に入るのは柔らかな日差しを受けて生き生きとする木々たち。

緑の多いこの街は街角にも桜があったりして、緑の合間にピンク色が顔を出している。


週末は桜が満開だよね。


いつまでも土方さんのこと考えてもきりがないし、お花見は楽しめるといいなぁ。



そんなことを考えながら、またPCへと視線を戻して仕事に戻った。















土曜日。私はお言葉に甘えてお昼前に壬生公園に向かう。


有難いことに壬生公園は私の家からも近くて、
満開な桜並木を見上げながら荷物を抱えて公園へと足を進めた。





「あー!なち!こっちこっち!!」


呼ばれた方へ振り向くとそこには部署内の皆が殆ど集まっていた。

挨拶を交わしながら既に用意されている光景に目を見張る。


「わ、もうこんなに用意してくれてるんだ」


私の言葉に藤堂くんが「当たり前だろ!」と声を上げる。



皆といる中、自然と土方さんを探してしまうけど、どうやら近藤さんと一緒に来るらしい。



「花見も一年に一度だからな。俺たちもなちも、うんと気晴らししねぇとな」


左之さんが笑いながら私の頭に手を置く。
その言葉に私も思わず笑顔で応える。


私もみんなと準備しながら作ってきた酒の肴になりそうなおかずを広げる。

早くもおかずは沖田くんに摘まれたりしたけれど。


土方さんが気に入ってたおしんこも迷ったあげく、持って来た。


土方さんのためじゃないって言い切れない自分が何となく情けないけど、しょうがない。


まだ好きなんだから。









用意も出来たころ、近藤さんと土方さんがやってきて、
近藤さんが乾杯の音頭をとって、営業部毎年恒例の「桜の宴」は始まった。


皆が賑やかに呑み始める中、土方さんと私は少し離れた場所に座っていた。

それでも土方さんの隣に沖田くんがいるみたいで思わず聞き耳をたててしまう。



「土方さん沢庵ばっかり摘んでますね」


「俺は昔から沢庵が好きなんだよ」


「あ、違う。なっちゃんが作ってきたおつまみばっかり食べてる。ずるいですよ、土方さん」


「美味いもん食って何が悪い。お前は甘いもんばっか食ってりゃいいじゃねぇか」


「なっちゃーん!」


沖田くんの呼びかけに顔を向けると土方さんとばっちり視線が絡む。


「土方さんがおつまみ美味しいって。そのうちなっちゃんも食べられちゃうかもね」


土方さんの隣でニヤニヤ笑う沖田くんの言葉に思わず身体中の体温が顔に集まる気がして
咄嗟に俯いた。
間を空けずに土方さんの声が耳に届く。


「ばっ…!!総司!!!てめぇふざけたことばっかり言うんじゃねぇ!!!」


「あれー?怒るってことは図星ですか?」


「てっめぇ…。口の中に焼き葱突っ込むぞ」


「うっわぁ…。悪趣味ですね、土方さん」


「てめぇに言われたかねぇよ!!!」


二人のやりとりに思わず笑いが零れてしまう。


土方さん、喜んでくれてよかったな…。


私は安堵の息を小さく吐く。

向かいにいた斎藤くんからおつまみのレシピについて聞かれたので話を進めた。







いつもは忙しい部署だけど、こうやって羽を伸ばして、
綺麗な桜の木の下で、仲間と笑いが絶えることない楽しい時間を過ごせる。


凄く贅沢な時間に思えた。










日も傾いてきて、ちらほら寝転ぶ酔っ払いも出てきて、
それでも皆桜を愛でながら、それぞれの時間を楽しんでいた。






私は席を立って、少し離れた場所のトイレに行ったあと、
のんびりと皆のいる場所へと戻っていた。


桜を見上げながら歩いていると並木を少し外れた奥まった場所に
見事に咲き誇った桜の大木が目に入る。

引き寄せられるように私はその桜のもとへと向かっていた。





「綺麗…」


それは思わず口に出してしまうほど、見事な桜で。


心のわだかまりもスッと流してくれそうな雰囲気の中、太い幹に近付いて手を添える。

幹の脇から小さな桜が咲いていて、何だかそれが可愛くて思わず笑みが浮かぶ。


ふと、気配を感じて振り返ればそこには土方さんがいた。



「土方、さん」


「…」


視線が絡むと土方さんは口元に笑みを浮かべて、私の胸は大きく高鳴った。


近付いてきた土方さんが桜を見上げると私もつられるように見上げた。


「見事な桜だな。この公園一番かもな」


「そうですね。本当に立派な桜だと思います」


応えてから訪れたのは沈黙。


私はいつの間にか桜を見上げる土方さんへと視線を移していた。



何て桜が似合う人だろう。


思わず見惚れていると土方さんと視線が絡まった。


咄嗟に視線を逸らして、小さく息を吐いてから
私は思い切って口を開いた。



「あの…この前は変なメールしちゃってすみませんでした。
気にしないでください。
その…えっと…」


地面を見つめたまま、そう伝えて、両肩に温もりを感じたかと思えば、背中に軽い衝撃。


後ろに桜の幹があるのを感じて、見上げればそこには端正な顔立ちの土方さんが間近にあって。

私の両肩にあった土方さんの両手は腕をゆっくりと撫でるように下がって離れていった。


少し不満気そうな土方さんが口を開く。



「いい加減、俺を欲しがれよ」


土方さんの言葉に私は目を見開いた。


「………だって、私どうしていいか」


私の言葉に土方さんは困ったように笑って
私の左頬を指でなぞってから右手を添えた。


「どんだけ我慢させてると思ってるんだ。鈍感なのは仕方ないとしても、いい加減気付け」


「…えーっと…すみません?」


軽く混乱しかけてる私に土方さんは喉の奥でクッと笑う。


「何で疑問系なんだ。まぁ…、口にせずにお前にだらだらと甘えちまった俺の方が悪いな」


優しい視線。


だけど頬に添えられている手が微かに震えた気がした。





「…好きだ」





桜の花びらのようにゆっくりと舞い降りてきた言葉を心でしっかりと受け止める。



温かく胸の内に広がったその言葉は涙になって私の視界を歪ませた。



土方さんの言葉が嬉しくて、でも小っ恥ずかしくて。


きっと顔は真っ赤なのに、口から出たのは可愛げのない言葉。



「…土方さんは私が欲しいですか?」


私の言葉に土方さんが思わず笑う。


「欲しいに決まってんだろ。
…俺が欲しいのか欲しくないのかどっちだ、なち」


「…欲しい、です」


瞬間、互いの距離を埋めるようにぎゅと引き寄せられて、

空気を奪うような口付け。


するりと入ってきた熱い舌に応えるように私も舌を絡ませた。



このままここで食べられてしまうんじゃないかと思うくらいのキスは長く続いて。



次第に身体の力が抜けていく感覚に私は土方さんのジャケットの胸元をギュッと握った。


それに気付いてくれた土方さんは次第に穏やかなキスへと移っていった。



額をこつんと合わせて二人の視線が絡む。


「悪い…」


土方さんが口を開いた言葉に私は息を整えながら小さく顔を横に振った。


それから土方さんは啄ばむように優しいキスを何度も顔中に降らせて。

私はそれを柔らかく目を伏せて受け止めていた。



首元に顔を埋められて、土方さんの舌が首筋を登って耳に触れる。


くちゅりとした感覚と湿り気を帯びた音に身体がビクンと震えて、
思わず甘い息を吐けば、
いきなり土方さんは顔を上げた。



「…行くぞ」


私の手を取ってずんずんと歩き出した土方さんに私は驚きを隠せない。


「へ?…どこに?」


「お前ん家だ」


「じゃあ皆に…」


「後で俺が連絡入れておく」


「で、でも片付けとか…」


「お前はどれだけ俺を生殺しにさせる気だ」


「へ…」


「今までの溜まりに溜まった分、覚悟しとけ」


「…えぇぇえええ」


ニヤリと笑った土方さんに意味を理解した私は思わず声をあげた。



公園を出て行く私たちの背中越しに藤堂くんの声が聞こえた気がしたけど、
土方さんは振り返ることはなくて、私は何だかくすぐったい気持ちでいた。



公園を出ると土方さんはさっきよりは歩く速さを緩めてくれた。
でも手を繋ぐ力も緩まって。


少し寂しさを感じてしまった私はわがままかな。



「…土方さん、少しゆっくり歩きませんか?折角の桜ですし」


「…ああ」


桜並木を歩く中、きゅっと土方さんの手を握れば
私に視線を移してフッと笑って握り返してくれた。

私もつられるように笑ってしまう。




ずっとこうしていくつも季節を越えながら土方さんの傍を歩いていたいな。




来年も、その未来(さき)も。



桜の木の下で。



貴方と二人。