ところどころ、表現は略してたりします。
ネタばれ、設定無視、キャラ崩壊などご注意を。
それでもよろしければどうぞ。
#1 #2
ふわふわと覚醒する感覚。
緩やかに目を開ければ裸体にシーツを纏っていた。
いつも起きた時には感じていた温もりは今はない。
ドアに目を向ければ周防が来る前と同じようにドアノブを赤い光の玉が包んでいる。
ぼんやりとそれを見つめていれば、光の玉はふわりと宙に浮かび上がる。
乃柑が上体を起こせば、赤い光の玉はまるで意思を持つかのように乃柑のところにふわふわと移動してきた。
乃柑が手でそれを掬うように差し出せば、掌に乗る。
掌に感じたのは温かさ。
そして吠舞羅の皆を魅了した赤色に自然と愛おしげに目が細まる。
「尊…」
乃柑はそっと目を閉じて、その光の玉に唇を寄せた。
ふわりと感じた風。
赤い光の玉は唇に触れた途端、消えた。
次の瞬間、身体の中に何かを感じ目を見開く乃柑。
静かな部屋の中。
自分の中に2つの鼓動を感じた。
自分の腕で自身を包み込んだ乃柑。
「…尊、ありがと」
乃柑は慈愛に満ちた表情で柔らかく笑い、目から一筋の雫が零れた。
帰ってきた吠舞羅の面々はbar HOMRAに灯りがついているのを見上げていた。
誰もがその店内に入るのを躊躇う中、
何かを察したようなアンナは駆け出しドアを開けた。
「おかえり、アンナ」
カウンターの前で腰かけていた乃柑がアンナに優しく声をかけた。
アンナはキョロキョロと店内を見回す。
あの時、確かに消えたはずの周防の気配を感じたからだった。
名残でもなく、記憶でもなく、確かに感じる気配。
「外寒かったでしょ、ローズヒップいれてあげる。赤い飲み物だよ」
乃柑の言葉に小さく頷く。
そして何か答えを導いたかのようにアンナは食い入るように乃柑を見つめた。
「…ミコトの、赤」
呟くと同時に乃柑の腰に抱きつくアンナ。
「わっ!」と声をあげよろめきながらもアンナを受け止めた乃柑はアンナと視線を同じ高さにする。
「…皆にはまだ内緒。ね?」
唇に人指し指を当てて柔らかく笑う乃柑にアンナはコクリと頷いて、乃柑にまた抱きついた。
乃柑が優しくアンナの髪を撫でれば、アンナはぎゅっと力を込め、乃柑はそれに応えるように抱き締めた。
外からはカツ、カツと短い階段をゆっくりと上がってくる音が耳に届いた。
「さぁ、皆に温かいもの入れてあげなきゃ」
アンナを緩く引き離し、にっこりと乃柑が笑えばアンナも小さく笑う。
開けられたドアの向こうで躊躇いがちな面々に乃柑は顔を向けた。
吠舞羅の面々も乃柑も、頭ではわかっていてもそこにはいない大きすぎる存在に胸は裂けるように痛む。
「おかえり。さっさと入って。折角温めた店内が冷えちゃう」
いつものように振舞う乃柑は立ちつくしているこのバーのマスターに声をかける。
「いーずーもー。バーのマスターがカウンターの中にいなくてどうするの?
皆に温かいのいれてあげよ?」
「…せやな」
困ったように眉根を寄せながらも、乃柑の言葉に店内に足を進めた。