今日は、1951年のアカデミー賞で作品賞はじめ6部門を受賞し、2006年にアメリカ映画協会が発表したミュージカル映画ベストで9位にランクインした傑作「巴里のアメリカ人」です。

この映画は、「雨に唄えば」(1952)と並んでジーン・ケリーを代表する作品です。



1951年 アメリカ
監督:ヴィンセント・ミネリ
出演:ジーン・ケリー、レスリー・キャロン、オスカー・レヴァント、ニナ・フォック、ジョルジュ・レタリ

巴里のアメリカ人



パリで暮らす売れない絵描きのジェリー(ジーン・ケリー)が路上で絵を売っていると(実際には売れるとは思っていない)、ミロという女性(ニナ・フォック)が絵を買いたいといってくる。

ミロにはそのとき持ち合わせがなく、ジェリーが代金を取りにホテルまで出向くと、ミロから今夜パーティーがあるので来ないかと誘われる。女の子も来るらしい。

ジェリーはその夜、ホテルに出かけるがミロ以外誰も来ていなかった。ミロはジェリーと食事をしたかっただけなのだ。そして2人でジャズクラブに行くことになる。


ジャズクラブでは、案内されたテーブルの隣に座る女性に一目惚れ。女性の名はリズ(レスリー・キャロン)。うまくリズの電話番号を聞き出し翌日電話するがけんもほろろ。すぐに電話を切られてしまう。

ジェリーは、直接リズが務める香水店に押しかけ、根負けしたリズからデートの約束を取り付ける(この辺はストーカーそのもの/笑)。交際を始めた2人が愛し合うようになるまでに時間はかからかなかった。

しかしリズにはアンリという婚約者(ジョルジュ・レタリ)がおり、アンリとジェリーは友人同士だった。このことを知ったジェリーは自ら身を引くことにするのだが・・・。



この映画は、ジョージ・ガーシュウィンが作曲した”パリのアメリカ人”をテーマ曲とし、パリに暮らすアメリカ人を描いたものです。ガーシュウィン自身も絵の勉強のためパリに滞在したことがあり、この曲は自分自身のことともされています。


見どころ、聞きどころはたくさんあります。

映像は美しいし、ガーシュウィンの名曲がたっぷり聞ける。ジーン・ケリーのタップ、オスカー・レヴァントのピアノ、レスリー・キャロンのバレエもあります。

これらの中から特におすすめのシーンをいくつかご紹介します。


ミュージカルシーンではないもののこれだけは書いておきたいもの。それは冒頭のシーンです。ジーン・ケリーがベッドから起き上がり、パンを食べながらベッドを片付け、テーブルを取り出し、果物を置くまで、まるでダンスを踊るような流れるような動き。簡単に見えますが、相当筋力が要る動きだと思います。



ジーン・ケリーが子どもたちに英語を教える場面で使われるのは"アイ・ガット・リズム"。とても楽しい曲です。

フィギュア・スケートの浅田真央ちゃんがこの曲を使ったことがあります。

2013年4大陸選手権


このシーンの撮影には、フランスからの移民の子供たちが多く使われました。英語を習うシーンであり、英語は片言でなければならないからです。

ジーン・ケリーが歌い踊る"アイ・ガット・リズム"



アンリがアダム(オスカー・レヴァント)に対し、リズのことを美人ではないが美しい(ダンスが美しいという意味か)と話すシーンで使われているのは”エンブレイサブル・ユー”。
とてもロマンチックな曲です。


この中で、キャロンが踊るシーンがセクシーすぎるとして検閲の対象になったといいいます。まあ、若干セクシーではありますね。
レスリーキャロン


ジェリーとリズが恋に落ちたことがよく表れているシーンで使われるているのは”アワ・ラヴ・ヒア・トゥ・ステイ”。セーヌ河畔(実はセットらしい)。


しかしそもそも何故リズはアンリと婚約しているのか。実はリズは戦時中、レジスタンスに身を投じていた両親に代わってアンリが匿ってくれていたことに恩義を感じているんですね。


ジーン・ケリーとジョルジュ・レタリがカフェで歌う"ス・ワンダフル"も素晴らしいですね。




ところでラストのバレエのシーンはどうなんでしょう。17分半にも渡って続くバレエのシーンです。

私は長過ぎると感じるのですが。。

このシーンは、アメリカの音楽とフランスの印象派を融合させることを意識して製作されました。

絵についてはまったく分からないのですが、背景や色についてルソー、ゴッホ、ロートレック、デュフィなどを意識して作ったとか。絵に詳しい方は、それぞれのシーンでどの画家を意識して作られているかに注目して観ると興味が増すと思います。

さらにこの中では、ジーン・ケリーを含む5人の男性がカラフルな服に身を包んでダンスを踊るシーンがありますが、これはジョージ・M・コーハンを意識しています。ジョージ・M・コーハンは、19世紀から20世紀にかけて、役者であり、脚本家、作曲家、作詞家、シンガー、ダンサー、製作者でもあった人で、ジェームズ・キャグニーが主演した「ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディー」(1942)は、ジョージ・M・コーハンの伝記映画です。

ジョージ・M・コーハン
ジョージMコーハン1

「ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディー」の一シーン
ジェームズキャグニー

「ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディー」の予告編


しかしそれにしても長い。
このシーンに入る前、ジェリーは失恋し、失意の底に沈んでいるのです。そんなジェリーが途中からは明るく明るく踊っている。リズとも笑顔で踊る。"パリのアメリカ人"を描いていることは分かるんですが。。

製作に関わったスタッフ自身もオープニングまでは不安があったといいます。しかし蓋を開けてみると不安は見事に外れます。大ヒットしたどころか翌年にはアカデミー作品賞まで獲ってしまうのですから。この年は「欲望という名の電車」や「陽のあたる場所」などというライバルを抑えてですから。分からないものですねー。少なくともこのシーンはアメリカ人の琴線に触れたことだけは確かですね。ジーン・ケリーは名誉賞に留まりましたが。。

このあたりの事情は、ジーン・ケリー夫人による音声解説やメイキングを観れば少しは理解できると思います。それでも私は半分ぐらいしか理解できませんでしたが。。


ほかには、オスカー・レヴァントの一人複数役(ピアノ、指揮、ヴァイオリン、観客)のシーンは面白い趣向だし、ケリーがピアノの上で踊ったあと下に飛び降り狭い部屋で難しいステップを踏む"Tra-La-La"のシーンも必見です。このシーンは何度も撮り直したとか。


予告編






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