寝台の上で | メメントCの世界

メメントCの世界

演劇ユニット「メメントC」の活動・公演情報をお知らせしています。

寝台の上で




プロキュストが終わって、「安全区」の改稿のラストスパートです。
なんというか、二年たって、色々な社会状況が変わったので、南京は火種が燃え始めているようです。
 それについてはまた、ゆっくり書きたいのですが、堀田善衞の「時間」は岩波学芸文庫で復刊されました。是非、お読みください。読んでも観劇の邪魔にはなりませんから。


Pカンパニーの「プロキュストの寝台」は、長年の私の書きたかったものがいろいろな形に変化して集まってくれました。舞台上に織りなすドラマや登場人物の言葉には、中上健次から始まって、オリュウノオバや、大石誠之助やパターチャーラーまで居ます。こういう硬派な題材を掲げてくれる劇団は稀有ですが、それでも幸運にも私のような作家も作品発表が可能です。観客の中には、「太平洋食堂」をご覧になって観に来て下さった方も少なくないようでした。嬉しいです。

 昨日、2月13日の14時より共立女子大で行われる社会文学会の例会のトークの打合せをさせていただきました。それで、担当の竹内先生と話していて、上に書いたようなものが、意識していなかったことまで、ずるずると伸びて出て来て、頭の中が一度、お開帳になりました。
 結局のところ、私は始めた場所からずっと道を辿りながら、堀田善衞、中上健次、大逆事件、というように歩いて来たのだと、自分の不器用さにびくりしたのです。

 アプトンシンクレアの話をしていて、私が二十代の終わりに、舞台の仕事を形を変えてやり続けるきっかけになったミュージカルの事を想起しました。「ラグタイム」です。
 そのサウンドデザイナーだったジョナサン・ハリス・ディーンさんの事が脳みそから飛び出してきたのです。
 ジョナサンは、手広くサウンドディレクターをやっていましたが、ある時、ロンドンのウエストエンドから「お前はもうイギリスに要らないよ」と言われて、ブロードウェイに移って来ました。それでディズニー・ミュージカルの監修で大阪の劇場に現れたのです。

 彼の教えてくれた事は、音楽や音の事だけでなく、舞台芸術の事全般でした。彼は大昔!!日生劇場でRSC の初来日公演で、何と子役で来日した経験がありました。
 彼が喋ることはどれもシェークスピアの芝居や演出に関連していたので、その時に私が関わっていたのはディズニーアニメが元のミュージカルでしたが、所謂白人の演出家が求めるものが、必ずチェーホフかシェークスピアの劇構造のどこかのひな形だということを学んだのです。
 要するに和物のどこかに忠臣蔵があるように。

 毎日、通訳がいるけど終演後に2時間も英語でダメ出しされるのはきつかったのですが。人生には何一つ無駄なことはないのです。といいつつ、中高年になってしまったので、今の無駄が役に立つのは還暦でしょうか。
 その後、彼の手掛けた「ラグタイム」は1920年代のアメリカを活写し、移民、人種問題の坩堝だったニューヨークの辺りをものすごくうまく描写した群像劇です。「レミゼ」が日本でポピュラリティーを獲得しながらも、本質を失ったのにがっかりした私ですが、トニー賞の幾つかの部門に輝いた「ラグタイム」は無政府主義者の黒人を主人公にたて、エマゴールドマンさえも登場し、熱弁をふるっていました。NY演劇界の懐の深さに感動したのです。

 初期社会主義研究会の部屋に並んだ多過ぎる大杉栄全集に、このやな男の無政府主義は、どこまで観客を得られるだろうか?とも考えたりしました。管野すがに、公娼制度を批判する演説を舞台上でさせた「太平洋食堂」はまだまだ、ミュージカル「ラグタイム」の様には受け入れられなかったのも認めざるを得ないところです。レミゼの様に鰹節のダシガラミュージカルになるよりはと思いつつ、それも負け惜しみです。
 「太平洋食堂」再再演は、還暦記念になるかもしれません。

 とにかくまあ、プロキュストの千秋楽を観ていて、私の中には「世話もの」があるし、ギリシャ悲劇があるのだなと、ボケた婆さんのように思い出したのでした。それもこれも、やはり最初のオリュウノオバがあちこちに居るように思ったからです。演劇集団円の福井裕子さんが客演していたせいもあります。福井さんのテイストは円の達者な女優さんの持つ色気と潔さでした。素晴らし鬼婆が居てくれて引き立つ舞台でした。神がかりの水野ゆふさんの美しさは、ぞっとしながらも、神が降りてくることのリアルを味わうことができました。
 いつもながら超大なセリフを引き受けて下さる俳優さんには感謝です。蓮池さんは、並みのお方ではありませんでした。何より、Pカンパニーの皆さんのアンサンブルに劇団の良さを思ったのです。

社会文学会のトークは2月13日、共立女子大です。お気軽にどうぞ


http://ajsl.web.fc2.com/meeting-next.html