骨粗しょう症患者に光
 骨粗しょう症の治療法が大きく変わろうとしている。従来、骨の量を示す骨密度を増やす治療が主体だったが、まもなく骨の質も改善していく方法が骨粗しょう症の標準治療となる可能性が高い。“骨質”の発想を臨床現場に持ち込んだ立役者が東京慈恵会医科大学講師の斎藤充(43)だ。独自に開発した骨質測定技術をもとに、骨から見た生活習慣病や老化に伴う肺疾患などの治療を目指している。
 「骨折のリスクがありながら見逃されてきた患者もきちんと診断できるようになる」。慈恵医大病院(東京・港)の整形外科外来の一室で、満足そうに話す。
 現在、日本骨粗鬆(しょう)症学会が予防と治療指針の改定作業を続けている。骨密度に加えて骨質の良しあしを評価する治療方針を盛り込む見込み。ここまで踏み込んだ指針を持つ国はまだない。斎藤の成果が大きな影響を与えた。
 骨質を決めるのが、骨の主成分の一つであるコラーゲンの状態だ。骨質の劣化で骨粗しょう症が起きることを世界で初めて発見した。
 骨を建物に例えるとリン酸カルシウムなどがコンクリートでコラーゲンは鉄筋に相当する。コンクリートの量が多くても、鉄筋がさびれば建物の強度は落ちる。
 コラーゲンの質を左右するのが、コラーゲン同士を結ぶ架橋分子であることを突き止めた。架橋分子の振る舞いには「悪玉」と「善玉」がある。悪玉がコラーゲン同士をばらばらにつなぎ、骨を瀬戸物のようにもろくする。その仕組みを動物実験と臨床研究で次々と証明していった。
 多くの整形外科医が、骨密度が高くても骨折する患者に悩んでいた。骨質劣化の仕組みを解き明かした発見は世界から注目を集めた。日本骨粗鬆症学会をはじめ国内外の骨関連の主要学会の賞を総ナメ。原稿執筆や講演依頼も後を絶たない。
 だが意外にも「つい4~5年前まで研究はちっとも面白くなかった」と打ち明ける。
 「おまえ、終わったな」。大学院当時、同僚が何気なく発した言葉を今も忘れない。指導教授から、昔やっていたコラーゲンの研究を引き継ぐように言われたときのことだ。1990年代はゲノム(全遺伝情報)解析研究が全盛の時代。若手研究者の多くはゲノム研究を志し、コラーゲンは時代遅れといった雰囲気があった。
 渋々始めたコラーゲンの研究。分析機器も独自に開発した。世界で唯一の分析装置を使い、骨密度が高いのに骨折する患者のコラーゲンを調べた。ついに悪玉の架橋を見つけ、骨の質が低下する目安となることを提唱した。「15年前、投げやりになり、装置作りから真剣に取り組まなかったら今の自分はなかった」と振り返る。
 週3回の外来診療や入院患者のケアに、手術の執刀。研究や論文執筆は夜と休日のみだが、どんなにつらくても患者重視の姿勢を崩さない。「臨床現場は宝の山。研究と行き来することで、治療に役立つ研究のアイデアが浮かんでくる」。
 目下の興味は骨質劣化と生活習慣病などとの関連。骨質の劣化はコラーゲンの過度な老化がかかわり、動脈硬化や糖尿病、慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)の発症につながる可能性が高い。
 高校時代はインターハーや国体に出場するサッカー選手で、ポジションはゴールキーパー。当面は、人体というフィールドで骨という土台をしっかり守る臨床医と、患者の期待をしっかりと受け止める研究者との二足のわらじをはき続ける。
=敬称略
(西村絵)
主な業績
骨質測定法開発 疫学研究の礎に
 骨質の測定技術開発のパイオニアだ。2006年、血中や尿の中の悪玉架橋物質ペントシジンや血中のホモシステインの濃度を測定すれば骨質を示すマーカー(目印)になると発表。これがきっかけとなり、日米欧で4つの大規模な疫学研究が実施され、斎藤のマーカーが骨折リスクの指標となることが世界的に証明された。
 その後、斎藤らは日本人女性約500人の骨の臨床研究などを参考に、骨粗しょう症を、(1)低骨密度型、(2)骨質劣化型、(3)低骨密度と骨質劣化型の融合の3タイプに分類して診断・治療する方法を提唱している。(3)になると健康な人に比べて骨折リスクが7・2倍になると具体的な危険度を出すなど、臨床を見据えた研究が斎藤の真骨頂だ。
さいとう・みつる 1967年東京都生まれ。92年東京慈恵会医科大学卒業。98年同大整形外科助手。99年医学博士号取得。2001年国立宇都宮病院整形外科リハビリ医長などを経て、07年より現職。 (11/18 日経産業新聞より)











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