これは…。
産科医療の現実です。
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医局の窓の向こう側
燃え尽きたら
asahi.com 2007年07月03日
http://www.asahi.com/health/medicalasahi/TKY200707030430.html
「俺さぁ、もう、ほんと、辞めようかな」どんぶりに箸を突っこんだまま、T先生が顔を上げて宙を見つめた。
げ!かなりキテルよ、こりゃ。
同級生のM先生から「婦人科のT先生が弱ってるんだよ。一発、開業の話でもして元気付けてやらなくちゃいかん。真田、手伝え!」と言われて、本日、職員食堂にて450円也のA定食を食しつつ、抑鬱気味のT先生のお話を聞いている。食欲のないT先生はうどん。M先生は何も聞こえないような顔をしてばくばく食べている。
「産婦人科が大変だというのは、あちこちで言われてますよね。で、ご開業を考えてらっしゃるってことですか」真田、腰が引けた物言い。T先生の精気の抜けた顔を見ると、なんと声をかけてよいのやら。
「いや、もう医者を辞めようかと思って」
ぼふぉっ!ぐふぉっ!とM先生がむせる。
「何言ってるんですか!そんな後ろ向きなことでどうするんですか!!人生は攻めてなんぼ、でしょう!!」思わず、テーブルの下でM先生の足を蹴り上げる。抑鬱傾向の人に叱咤激励してどうする?
「攻められているのはこっちだよ……」T先生はとうとう箸を放してしまった。
T先生が産婦人科を選択したのは、数ある科の中で唯一「おめでとうございます」と言える科だったからとか。暗くなりがちな病院の中で、産婦人科だけはピンク色の壁紙で、赤ちゃんの泣き声がして、幸せそうだったから、と。
「忙しくても、お産が重なっても、なんていうのかな、なんか、うれしかったんだよ」T先生は両手の手の平を差し出して、赤ちゃんをその手に乗せるような仕草をした。大きめのごつい手はとても温かそうだ。
「ありがとうってさ、ありがとうって……」T先生はそのまま両手で顔を覆ってしまった。泣いている。
M先生が目配せしてきた。(な?かなりキテルだろ?)
近隣の病院がお産を辞めてしまったことで、当院産婦人科へお産が集中している。今まで以上にハイリスクなお産を担当しなくてはならず、数も増えた。問題も発生した。
T先生は今、訴訟を抱えている。それ以外にも訴えるの、訴えないのという話もある。激務のうえに、訴訟関連の面接が続いて、T先生は心底疲れた様子だった。
「仕事はね、仕事はがんばれるんだ。がんばっていたんだ。でも、何か変わってきている」T先生がつらいとおっしゃったのは、仕事の多忙さよりも、患者の態度だった。
高齢初産が当たり前になってきている。
「みんなそれでちゃんと産んでいるんだから大丈夫でしょ!」。自分の体力の衰えやリスクの高まりは無視して「すべてうまくいって当たり前」を要求する、とT先生はため息をつく。
「お年になっての初産ですから、若い方の出産に比べると大変になります」なんて言ったらものすごい勢いで反発される。気に入らないことは「医療ミスだ」と騒ぎ立てて、二言目には「訴えてやる!」。
そもそもお産にはリスクが伴うものなのに「うまくいって当たり前、何かあったら医療ミス」の考え方がある。医療とは患者の体に介入することだ。100%安全はありえない。それを患者が忘れ始めている。T先生を追い詰めているのは、考え方の変わってきた(一部の)患者さんたちのようだった。
「私は悪くない、悪いのはおまえだ!」他罰的に語ることで、被害者の殻に閉じこもる。
行き場のない患者をT先生は義務感だけで受け入れ続けてきた。
誰も言わないけれど患者の態度は昔と大きく変わっている。
権利意識の高まりと言えばそれまで。ただ、以前の温かい人間関係は薄れてしまった。
「私が引き受けましょう」と言い続けたT先生がつぶれていく。
「近いうちに飲み会ってことでも……」M先生がトレーを持ち上げた。午後診へ向かう足が重い。
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この前の記事、
■「来年まで生めない?困る~!」 痛い記事
http://ameblo.jp/med/entry-10038733337.html
の裏返しの記事です。
>T先生がつらいとおっしゃったのは、仕事の多忙さよりも、患者の態度だった。
>高齢初産が当たり前になってきている。
>「みんなそれでちゃんと産んでいるんだから大丈夫でしょ!」。
>自分の体力の衰えやリスクの高まりは無視して「すべてうまくいって当たり前」を要求する、とT先生はため息をつく。
>「お年になっての初産ですから、若い方の出産に比べると大変になります」なんて言ったらものすごい勢いで反発される。
>気に入らないことは「医療ミスだ」と騒ぎ立てて、二言目には「訴えてやる!」。
>そもそもお産にはリスクが伴うものなのに「うまくいって当たり前、何かあったら医療ミス」の考え方がある。
>「私は悪くない、悪いのはおまえだ!」他罰的に語ることで、被害者の殻に閉じこもる。
>誰も言わないけれど患者の態度は昔と大きく変わっている。権利意識の高まりと言えばそれまで。ただ、以前の温かい人間関係は薄れてしまった。
>「私が引き受けましょう」と言い続けたT先生がつぶれていく。
…
病院の予約は
半年先まで埋まっており、
トラブルケースを
引き受けてくれる病院はドンドン減っています。
現場の多くの医師は
「義務感」「使命感」で
どうにかやっているのです。
そこには
多数の”地雷”が埋まっています。
最初から、
「正常以外なら、医学的な問題ではなくても
結果論的に絶対に許さない」
という方が一杯いらっしゃいます。
訴訟額は1億前後であり、
多い場合は2億以上です。
相手も、裁判所も
医学的な判断は通用しません。
医学的に正しくても、
「結果が悪ければ、医師が悪い」
と言う世界なのです。
最初から
「負けが見えている出来レース」
をしなくてはいけないのです。
>「たった今、キャンセルが出ました」との答えが。
>「ラッキー!!」と心の中で大きくガッツポーズ。
>なんだか教習所の予約を思い出しちゃいました。
当の本人にとっては
”教習所”と一緒かもしれませんが、
その中で働いている医師は、
考えられないほど過酷な環境で
働いていることを
理解するべきです。
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