まじさんの映画自由研究帳

まじさんの映画自由研究帳

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Amebaでブログを始めよう!
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※この記事は、漫画作家であり、オイラの友人でもある猪原賽氏が運営するNewsACTに寄稿した連載中の記事です。以下のリンクからご覧ください。



2015/2/12
旧三部作から観るか、新三部作から観るかの論争に終止符か?新たなる見方。


2015/3/20
公開から現在まで『スター・ウォーズ』公開の歴史を紹介。


2015/3/21
『スター・ウォーズ』には多くのバージョンがあり、その違いに迫る。


2015/3/22
新たな『スター・ウォーズ』の誕生への想い。


2015/4/28
『スター・ウォーズ』旧三部作の舞台となった惑星を登場順で紹介。


2015/4/29
『スター・ウォーズ』新三部作の舞台となった惑星を登場順で紹介。


2015/5/29
六本木ヒルズで開催中の『スター・ウォーズ展』の見所をクイズにしてみたよ!


2015/07/15
クイズの答えと解説だよ!


2015/11/23
問題はEp.1ではなく、別の所にありました。


2015/12/11
本編でカットされてしまったエピソードについて。


2015/12/20
個人的な事と、イベントの内容を詳細にレポートしました。


2016/3/12
モニターキャンペーンに当たって、初めてのビジネスクラスに乗りました!


2016/3/13
ビジネスクラスのタダ乗りを詳細にレポートしました。

きっと、まだ続きますよ。
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「くまのパディントン」さんは、オイラが幼い頃に読んだ絵本だ。謙虚だけど、おっちょこちょいで失敗ばかりしながら、人間の生活に慣れようとする姿はとても愛らしく、大好きな絵本のひとつだった。「パディントンさんが大好きなマーマレード」と言われて初めて食べたその味は、今も覚えている。今思えば、マーマレードが嫌いにならずに済んだのは、パディントンさんのおかげである。そんな訳でオイラは幼い頃からパディントンさんの事は「パディントンさん」と呼んでいたので、オイラは彼の事を呼び捨てにできない。パディントンさんと呼ばないと、どうも居心地が悪い。

そんな作品が満を持して映画化された。テディベアのような、もふもふの毛並みで、丁寧にCGで描かれたパディントンさんは、生きたぬいぐるみのように愛らしかった。彼の声を演じるのは、中性的な魅力を持つ若手実力派俳優ベン・ウィショーである。落ち着きのある、英国発音の心地よいその声は、癒しの効果さえ感じられた。

人間役の俳優も負けていない。ブラウン一家の父親に、英国のコメディ俳優ヒュー・ボネヴィルが当たり、保守的な英国の父親をコミカルに演じている。優しい頑固者は彼の持ち味であり、見事なハマり役だった。
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また、僅かな登場ではあるが名優ジム・ブロードベンドが出ており、優しさが滲み出るような演技に思わずほっこりした。

悪役のニコール・キッドマンも見所である。シルバー・ボブが似合っていて、とてもキュートだが、想像以上に身体を張ってて驚いた。トム・クルーズのパロディを、文字通りの体当たりで見せるシーンは、思わず目頭が熱くなった!

カラフルなロンドン街並みと、多様なジャンルの音楽が相まって、見事な世界観を構築している。ステッペンウルフの名曲が流れたのも、パディントンさんがまさに“Born To Be Wild”なのだからなのだろう。英国は、紳士の国であるのと同時に、ロックの国でもあるのだ。

まるで絵本の中から飛び出しパディントンさんと出会えたような懐かしさを味わえた。それと共に、大人になってから気付く事もあった。

可愛らしいこの作品には、実は社会問題に対するメッセージが込められていたのである。劇中、カリビアンバンドが登場し、陽気なカリプソの名曲が流れる。一見、ミスマッチに思えるが、彼らは戦後にロンドンにやって来た移民であり、彼らの南国のリズムは、今やロンドンに定着した文化のひとつとなっている。そうか、パディントンさん移民なのかと気づかされる演出だ。彼の名前の由来であるパディントン駅には、きっと移民と関係があるに違いない。そんな思いで調べてみる事にした。

オイラも初めて知ったが、パディントンさんの歴史は古く、1958年に初版された事がわかった。
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1958年10月に発売された初版本

そこで、その時代のロンドンを調べてみた。
1950年代の英国は戦後の復興により、インドやカリブ海の旧植民地からの多くの移民労働者を受け入れた。移民労働者たちは皆、港から英国鉄道に乗ってパディントン駅を降り、ロンドンにやって来た。彼らは駅の周辺にある地区に住み着いた。今では流行の発信拠点と知られるノッティング・ヒルは当時、カリブ系移民の街になっていた。
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当時のノッティング・ヒルの様子

だが、移民労働者に職を奪われたと思う白人労働者の不満は募っていった。
そして1958年8月、ついに大規模な暴動が起きてしまった。事の発端は、ロンドンから離れたノッティンガムの街のパブで、黒人の青年が白人男性を刺殺したという事件だった。そのニュースを見たロンドンの少年たちが集まり、鉄パイプやチェーンを持って、ノッティング・ヒルカリビアン達を次々に「黒人狩り」と称して襲撃したのである。更に、ロンドン中から不満を爆発させた白人労働者が数千人以上も集まり、暴徒と化した。
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暴動が起きた当時のノッティング・ヒル

家屋に火炎瓶レンガを投げ込むなどをして、ノッティング・ヒルは、戦場のような様相となった。この暴動は警察隊が鎮圧するまで一週間も続き、多くの死傷者が出た。この暴動以降も襲撃は続き黒人たちは長い間、白人からの不当な差別を受けた。

絵本の「くまのパディントン」さんが出版されたのは、この事件の2ヶ月後の事である。

そんな時代に生まれながら、この絵本では一般的な英国人家庭のブラウン一家が、異国から来たパディントンさんの起こす騒動に戸惑いながらも、彼を受け入れていく姿が描かれた。パディントンさんは、いつも失敗して騒動になるが、彼に悪意はなかった。ただ、少しだけ常識が違うだけで、文化の違いに戸惑っているだけだ。時には誤解されてしまう事もあった。だがそれは、失敗して学ぶ事で、ロンドンの生活に少しずつ馴染んでいく過程であり、謙虚さには紳士的に返し、笑って許そうという英国流の精神が描かれている。
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人種や文化の多様性を受け入れる事の尊さを説いた絵本だったのである。

ノッティング・ヒルでは、事件から7年後の1965年、事件の起きた8月に、カリブの文化を英国に伝えるノッティング・ヒル・カーニバルを開催した。カリブのリズムで歌い踊る、リオのカーニバルのようなお祭りである。
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暴動事件を記憶に残し、二度と起こさない願いが込められ、このカーニバルは毎年開かれた。70年代頃まで襲撃事件は起こっていたが、それでもノッティング・ヒル・カーニバルは続けられ、次第にカーニバルを楽しむ英国人も増え始め、年々規模も大きくなり、ノッティング・ヒルは平和な街になった。今では英国女王陛下が開会式で開会宣言するようになり、ヨーロッパ最大のカーニバルとなった。
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今では黒人だけでなく白人も参加している

毎年8月のノッティング・ヒルは、多くの観光客で賑わう。こうして数十年の歳月を経て、カリブの文化が英国にもたらされ、英国流にアレンジされ、ファッション音楽へと昇華していった。90年代には『ノッティングヒルの恋人』に見られるような、ロンドンで最もオシャレな街へと発展したのである。この影に絵本「くまのパディントン」さんがもたらした影響も、少なからずある。ノッティング・ヒル・カーニバルパディントンさんは、ロンドンにおける人種差別を乗り越えた歴史の象徴なのである。

この映画では、舞台は現代のロンドンに置き換えられており、その中に、カリブ系移民のバンドが狂言廻しとして登場する。
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彼らが演奏しているのは、カリプソという音楽だ。ジャマイカなどのカリブ海で発達した音楽で、レゲエのルーツだと言われている。元はアフリカからカリブ海に連れて来られた黒人奴隷たちの歌であり、アフリカからカリブ海を経由して、英国にもたらされた音楽である。このバンドのメンバーを見ると殆どが高齢で、かつての暴動時代を知るメンバーもいるようだ。そんな彼らが、歌うのが
“London Is the Place for Me”
である。



ロンドンは私の街
ロンドンは素敵な街
フランス、アメリカ、
インドやオーストラリアに行っても、
戻って来たくなる街はロンドンだけ。

と、陽気なカリプソのリズムで、ロンドンへの愛を歌っている。

それは、憎しみの連鎖を断ち切り、悲劇を乗り越えた移民の歴史を背負った歌である。彼ら陽気なリズムの裏には、そんな歴史があったのだ。

この映画がこの時期に製作されたのは偶然ではない。現在、ヨーロッパに広がる難民の問題は深刻だ。先日もドイツでは、市民が難民の居住地区に手榴弾を投げ込む事件が起こり、デンマークでは、ムスリムが食べる事を禁じられている豚肉を、学校給食に使用する事を義務付ける法案が可決したというニュースが流れた。
難民を受け入れて助けてやりたいと思う気持ちと、受け入れるには数が多過ぎて対応しきれない現実。数を制限する国や、難民の受け入れ自体を拒否する国など様々だ。確かに難民を受け入れれば、経済にも影響が出るだろうし、文化の違いによる衝突も起こるかも知れない。この問題をどう考えるかは国や人それぞれであり、それはすぐには答えの出ない難しい問題だと思う。


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だが『パディントン』さんには、大きな問題の中の、忘れてはいけない本質が描かれているように思う。
我々個人にとっての難民問題とは、として難民を受け入れられるかではなく、助けを求める目の前の人と、どう向き合うかである。我々個人にとって、難民と向き合う事は、決して難しいことではない。所詮、人と人の出会いに過ぎないのである。難民だから、〇〇人だから、〇〇教徒だからではなく、ひとりの人間として向き合えばいいのであると、この『パディントン』さんは説いているのではないだろうか?少なくとも、現実のと意思疎通を図るよりは、難しい事ではないだろう。
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『キングスマン』はとても面白い作品だ。以前、作中に出てくるお酒について『キングスマン』お酒を解説。スパイはマティーニか?(☜Link)を書いてみたが、大変好評をいただいた。お酒ひとつ取っても、いろいろな意味を持っている事が分かった。
今回はDVDも発売されたので、じっくりと鑑賞してみると、劇伴とは別に、既存の音楽の使い方に興味をそそられた。マシュー・ヴォーン監督の選曲センスがいいのは『キック・アス』で実証済みである。そんな訳で、『キングスマン』のサントラを漁ったが、使用楽曲のアルバムは発売されていないので、自分のiPhoneに、プレイリストを作る事にした。
今回は、それらの音楽をじっくり聞き込みながら、選曲の意図を探ってみようと思う。


1.Money For Nothing
Dire Straits 
1985年
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『キングスマン』はこの曲から始まる。
中東の某国に突如現れたヘリコプターからぶら下がり、銃を構えた2人の黒ずくめの男が、見張りのテロリストを手際よく始末する。不規則なドラムが静寂を割き、ヘリが要塞を攻撃すると、ディストーションの効いたギターリフが高らかに鳴り響く!スパイ映画の最高にクールな幕開けだ!

この冒頭に流れる曲は1985年にヒットした英国の人気ロック・バンド=ダイアー・ストレイツの5枚目のアルバム“Brothers In Arms”に収録された“Money For Nothing”である。
Dire Straitsは、ロンドン出身のボーカル、マーク・ノップラーを中心としたロックバンドで、1978年にリリースしたファースト・アルバム「悲しきサルタン」でデビュー。当時の流行と一線を画すジャンルながら、その高い音楽性と新鮮さが受け、全米2位、全英8位の記録を残すヒットを飛ばした。

バンド名のDire Straitsとは「崖っぷち」との意味。デビュー前に給料を音楽につぎ込んで生活に困窮していた事から、自分たちを皮肉って付けたバンド名である。
この“Money For Nothing”は、1985年にリリースされ、全米1位、全英4位となり、グラミー賞を受賞した。作曲の段階からスティングが関わっており、マーク・ノップラーと共同で作業が進められた。また、スティングは、この曲のバックコーラスとしても参加している。映画の冒頭で聞こえる声はスティングの歌声である。

“Money For Nothing”とは、何もない所から得た「あぶく銭」と言う意味。マークが家電量販店へ買い物に行った際、テレビを見ながらぶつくさ言っていた男の言葉をヒントに作詞されたという。
MTVが登場した事で、プロモーションビデオが大量に作られた。売れるかわからない音楽のプロモーションに大金が使われ、大きなビジネスとなった。本来、音楽を売る為のコマーシャルビデオに価値が付き、PVの放送権をTV局に売るという、本末転倒なビジネスが生まれた。
ミュージシャンは、音楽こそが本業なのに、歌手が音楽に合わせて慣れない演技を見せる映像に金をかける、ビジネスそのものを、この曲は批判しているのである。

おいこのTV見てみろよ。
変な髪型して、イヤリング付けて歌ってるこのオカマ野郎を。
MTVでギターを弾くだけで儲けてんだぜ。
タダで女が抱けるのに、
金なんか稼いで何の意味がある

と、MTVが垂れ流す量産された映像を皮肉った。
家電量販店でぶつくさ言っているオヤジの無意味な言葉から、皮肉に応用し名曲を生み出すマークの手腕に思わず唸らせられる。

しかし、歌詞に同性愛者たちへの差別的な表現があると批判され、大きな問題となった事もある。当時のテレビやラジオでは、その部分の歌詞を差し替えたバージョンが流された。だが、この曲に同性愛差別の意思はなく、現在でもアルバムには、オリジナルのバージョンが収録されている。
この“Money For Nothing”は、当時の最先端だった3DCGでPVが作られ、皮肉にも揶揄した相手であるMTVで流され大ヒットした。当時のMTVアワードで最優秀ビデオ賞も受賞している。


さて、この曲の背景を知れば『キングスマン』の冒頭で使われたのは決して、クールなだけで選ばれたのではないと気付くだろう。MTVを批判したこの曲、つまりアメリカの音楽ビジネスを批判したこの曲が冒頭で使われた事で、この映画がアメリカ批判のテーマを持っているという、マシュー・ヴォーン強いメッセージを汲み取る事ができるのである。




2.Bonkers
Dizzee Rascal
2009年
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エグジーがチンピラどもの車を盗んで騒ぎを起こすシーンで、クールなヒップホップが流れる。
英国の人気ヒップホッパー=ディジー・ラスカルが2009年にリリースした “Bonkers”である。
“Bonkers”とは「狂ったヤツ」の意味。

俺の事をクレイジーだと言う奴らもいるけれど、
俺は自由にしているだけ。
金でスリルを求める奴らもいるけれど、
俺はタダでスリルを味わえる。
俺はただ人生を生きているだけ。
狂っちゃいないぜ

虚無感の中で生きる若者の、生きにくさを代弁する歌詞が共感を呼び、全英シングルチャート1位を記録した。
まるでエグジーの日常を代弁するかのようなラップである。

ディジー・ラスカルは、ロンドン郊外の公営団地で育ち、少年時代からケンカなど問題を起こしていた。そのため退学処分で学校を転々とした。そして、何度目かの転校先で、熱心な音楽教師の指導により感化され、音楽に目覚めたという。海賊放送などで、自主制作した曲を流していた所をXLレコードが発掘し、2004年、19歳でファースト・アルバムをリリース。スマッシュ・ヒットを記録し、各アワードでも高く評価され、新人賞を総ナメにした。
英国の下層階級から音楽でのし上がったディジーのヒストリーは、そのままエグジーのソレと重なる。エグジーのような人生を歩んだディジーが、そのままエグジーの日常を歌ったような曲が使われているのである。



3.Feel The Love
Rudimetal
 (feat.John Newman)
2012年
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初めてこの曲を聴いた時は、80年代に英国で活動していたバンド、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの再来かと耳を疑った。ソウルフルな歌声でパワフルに唄い上げるこの声は、ブライアン・デ・パルマ『ボディ・ダブル』で、クラブのシーンで流れた“Relax”ホリー・ジョンソンの歌声だと思った。だが、それは間違っていた。ジョン・ニューマンという新人歌手だった。しかも若干22歳にして、コレがデビュー曲だと言うではないか!

英国のドラムンベースのDJ集団ルディメンタルのメンバーが発掘した若干22歳のジョン・ニューマンをボーカルとして迎えた“Feel The Love”は、2012年にリリースされ、UKチャートの1位に輝いた。
若くしパワフルな歌声を持つ彼は、ルディメンタルと供にツアーを廻り、一躍スターダムにのし上がった。
ハウスやヒップホップなどを追求して作り上げた、ヴィンテージソウルというジャンルを確立した彼の独特の音楽は、英国で最もホットなサウンドの一つとなっている。

しかし、彼のデビューまでの軌跡は決して華々しいものではなかった。英国の田舎で生まれた彼は、盗んだバイクで不法に畑で乗回すような少年だった。地元のクラブでハウス系のサウンドにハマり、独学でギターを習い、古いノートパソコンと安物のスピーカーで、インストの曲を作曲し、インターネットにアップし始めた。ゴーカートを自作するほど機械好きで、機械工を目指して専門学校に入学したが、バンド活動が忙しくなり、音楽の道に進むことを決意し、音楽大学へ入学。在学中、親友2人を交通事故で失うベビーな体験を乗り越えながら、彼は必死に音楽を学んだ。卒業後、レストランのアルバイトで、後にルディメンタルを結成するピアース・アゲットと知り合った。
2011年に、彼に招かれこの“Feel The Love”のレコーディングが始まった。
しかし、この曲が世に出る前にジョン脳腫瘍で倒れてしまう。そして、摘出手術を経て彼が目覚めた時に、病院のラジオからこの曲が流れていたという。死の淵から目覚めた時には、彼はスターになっていたのである。

君はそれが真実だと知ってるね。
僕が愛を感じている事を。
君も感じるよね

と繰り返し愛を囁くこの歌は、英国のクラブでへビー・ローテーションされる人気曲となった。

『キングスマン』では、エグジー、ロキシー、チャーリーの三人が、与えられた試練の為に訪れたクラブで、曲調が幻想的に変化する部分が流れている。英国のクラブシーンを盛り上げる、欠かせない音楽となっているのである。

現在ジョン・ニューマンは、ソロ活動をしており、英国では、サム・スミスと並んでブレイクしているミュージシャンの一人となっている。まだ、日本ではまだ有名ではないが、人気上昇中のアーティストであるので、早めのチェックをオススメしたい。とにかく彼のインパクトある歌声は必聴だ!



4.Free Bird
Lynyrd Skynyrd 
1973年
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『キングスマン』を観た者なら教会のシーンと言えば説明不要だろう。
ハリーが、あの見事なアクションを魅せるアレである。
今更解説するのもおこがましいが、まあ、何も書かない訳にはいかないので書かせて頂く。

レイナード・スキナードは、アメリカのバンドでボーカルのロニー・ヴァン・ザントが高校時代に「髪を切れ!」とうるさく言っていた高校教師、レオナルド・スキナー先生の名前をもじって付けられたバンド名となっている。

1973年にデビューし、アメリカ土着のカントリーブルース・ロックブリティッシュ・ロックなどを取り入れた、彼ら独自のサウンドでサザン・ロックのイメージを革変させたバンドである。1974年にリリースされた「スイート・ホーム・アラバマ」は、全米チャート8位となり、その名は世界に知れ渡る事になる。この曲で、レイナード・スキナードサザン・ロックの不動の地位を築いた。南北戦争時代の南軍旗をジャケットに用いた事で論争となった事もあったが、返って南部では、熱狂的に支持される要因となった。
1977年には来日も果たしている。しかし、同年、悲劇が訪れる。全米ツアー中に主要メンバーとスタッフ28名を乗せた自家用ジェットが墜落してしまったのである。この事故はファンのみならずロック界を震撼させ、日本でも大きなニュースとなった。レイナード・スキナードは主要メンバーを失い、解散してしまう。
だが、その10年後、ロニーの弟をボーカルに招き、再結成し、かつてのサウンドを復活させている。
今でもレイナード・スキナード「南部の心」とも呼ばれ、熱狂的ファンは少なくない。
“Free Bird”は、彼らのファースト・アルバム「レイナード・スキナード」のラストを飾るナンバーとして収録されている。

お前とは別れたくないが、
俺は自由な鳥だから
ここから去らなきゃいけない。
お前が悪いんじゃない。俺が悪いのさ

という別れのバラードだ。
歌詞を考えるとハリーエグジーに語っている様にも聞こえて、目頭が熱くなる。
ゆっくりした曲調だが
俺は変われないが、お前も自由な鳥になって、飛んでみないか
と、投げかけ4分半もの激しいギターリフになる。

『キングスマン』教会のシーンでは、このギターリフのパートを使っているのだが、物凄く手の込んだ編集をしてる。バトル前はオルガンの前奏パートを薄っすらと使用し、教会らしいサウンドの演出をしている。そして轟く銃声からアップテンポのパートにクロス・フェード。途中、ギター旋律を消した伴奏だけのパートを聞かせたり、別録りのドラムだけを挿入したり、エフェクトかけたりと凄まじい編集をしている。そして、全てが終わると別のピアノバージョンで、この曲のメロディを静かに流しているのである。このシーンに対する力の入れ具合が尋常じゃない!

“Free Bird”を教会で選曲したのは、ブラックなユーモアだけでなく、マシュー・ヴォーンアメリカへの強い批判精神を感じる。この教会はアメリカで最も信仰されている、プロテスタント系バプテスト排他的思想を持つ一派である。同性愛差別人種差別を公然と行う宗派だ。南北戦争での南軍の敗北が未だに受け入れられず奴隷制度があった時代への回帰を本気で望んでおり、自己の幸福のみを追求する思想を持っている。この事が今のアメリカの傲慢さの根底にある。『キングスマン』では、彼らの思想を異様な光景として描き、その彼らが制裁される場面で、南部の彼らが大好きな「南部の心」を選曲するという、過剰なブラック・ユーモアを観せている。最近ではニール・ブロムガンプ監督『チャッピー』でも、バプテスト信者の登場人物を出し、アメリカ批判を行っており、近年、諸外国の映画から、アメリカの宗教観に対する問題提起がなされている。『キングスマン』でも、この辺りはかなり強烈に描いている部分である。アメリカへの批判的精神は、冒頭の“Money For Nothing”でも触れたように、この映画の大きなテーマである事がわかる。
(一応、誤解のないように言っておくが、米バプテストは多岐にわたる宗派があり、過激な思想を持つ宗派はごく一部である。それでも近年、信者は増えており、この事が次の大統領選に大きな影響を与えるのではないかと目されている)




5.行進曲「威風堂々」第1番
エドワード・エルガー
1907年
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(写真はイメージです)

クライマックスの「大花火大会」で流れるこの曲は1907年に発表された、英国の作曲家エドワード・エルガーの全6曲からなる行進曲である。あまりに有名な第1番の旋律は、エドワード7世の指示により、国王を讃える歌詞が付けられ“Land of Hope and Glory”(希望と栄光の国)として、英国の第二国家と呼ばれ親しまれているメロディである。
英国の戴冠式だけでなく、学校の卒業式の入場曲、サッカーの応援歌など、英国人なら誰もが歌える愛国歌だ。


☝︎こちらは歌入り。

絶体絶命のピンチからの大逆転で流すには、これ以上相応しい曲はないだろう。相応し過ぎて、普通は誰もやらない…普通は!だが、マシュー・ヴォーンは違った!僕らのマシュー・ヴォーンは、やってくれた!ここまで散々ロック・サウンドで攻めてきて、ここでこの曲はズル過ぎる!しかもリアルな映像ではなく、滑稽なまでにカラフルな爆発で、見ているこちらもブッ飛ば去るを得ない!これはヤバイ中毒性がある!オイラはこのシーンの為だけに、思わず立川シネマシティの爆音上映で再鑑賞してしまった!その時は当然、一番上等のスーツを着て行った。勿論メガネもかけたよ!(視力は裸眼で1.5ありますが、何か?)2015年、最もエキサイティングなシーンであった。


この曲は『時計仕掛けのオレンジ』でも使用されている事から、キューブリックへのオマージュではないかと言われている。確かに『博士の異常な愛情/または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』を彷彿とさせる国際会議場のシーンも出てくるが、明らかにキューブリックの意図とは別の使い方がされており、オマージュではないとオイラは考察している。




6.Give It Up
K.C.& The Sunshine Band
1983年
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ヴァレンタインの計画が予定通り実行されていれば、人類の大半が滅亡するその時、選ばれた者たちが集うクラブで、乱痴気騒ぎとなっていた筈だ。その会場で、騒ぐ者が誰もいない中、場違いなまでに陽気に流れるのがこの曲だ。

K.C.&サンシャイン・バンドは、1973年にアメリカで結成された。陽気でポップな弾けた軽いノリのディスコサウンドが特徴で、初めは米国よりも英国で火がついた。次第に米国へもその人気が波及して、ディスコで流れる人気の定番曲として定着した。1975年にリリースした“That's The Way”は、日本でも人気となり

ザッ!ダッうぇい! アハ!(アハ!)
アッら~いキッ! アハ!(アハ!)

というキャッチなフレーズで、全米、全英共に1位の大ヒットとなり、70年代の人気バンドとなった。


80年代に入り、ディスコが下火になり、ブーム末期の1983年にリリースされたのが、この“Give It Up”である。

みんな君が欲しいのさ。
みんな君の愛が欲しいんだ。
僕はただ、君が僕のものになってほしいだけなんだ。
そろそろ観念して、僕のものになってくれよ

と歌うこの曲は、大ヒットとはいかなかったものの、そこそこ売れた曲である。

底抜けに明るい雰囲気に似合わず、プロモーションビデオは、歌うK.C.のバックで二人のダンサーが踊るだけのビミョーな雰囲気で、ディスコ時代の終焉を彷彿とさせる。ドライアイスの演出がもう…泣けてくるよね。PVを見れば、なぜこのシーンでこの曲が選曲されたのかが、なんとなくわかる気がする。この絶妙な微妙さ加減が、あのシュールな雰囲気を見事に醸し出す事に成功している。




7.Slave To Love
Bryan Ferry
1985年
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世界を救ったエグジーが、囚われていたスウェーデン女王ティルデを救いご褒美を賜るシーンで流れた曲だ。エグジーは、シャンパンとグラスを2つ持ち、希望に胸を踊らせ駆けていく…。(若者が希望を抱いて駆ける姿が描かれる映画は、だいたい傑作が多い)
ここで流れるのは、英国のロックバンド、ロキシー・ミュージックのボーカルだった、ブライアン・フェリーのソロ・アルバム「ボーイズ・アンド・ガールズ」に収録されている“Slave To Love”である。
ブライアンは、クールダンディなスタイルで人気を博し、世界中に熱狂的ファンを生み、彼のスタイルを真似たロキシー・ファッションが流行した。(女性ブランドのロキシーとは関係ない。だが、ロキシーの名前は、このバンドから取ったのかも知れないね)

この曲は、キム・ベイシンガーミッキー・ロークが主演した1986年の映画『ナインハーフ』の挿入歌として有名で、二人のラブラブなシーンで使用されている。キケンな男を演じたミッキー・ロークイケメンだった事で(☜過去形)女性に支持されヒットした。この映画は倒錯愛がテーマで、際どい性描写が話題となり、カップルの間でナインハーフごっこが流行した。今これを読んでる読者の中にも『ナインハーフ』を見ていれば、映画で描かれた蜂蜜プレイ氷プレイ実践した過去を持っている者は少なくないはずである。そんな訳でこの曲は『エマニュエル夫人』の主題歌に並ぶエロい歌の代名詞となっている。
劇中で、マーリン「見てられない」とモニターの扉を閉めた後、この曲が流れ続ける事で、我々はその先で繰り広げられるであろうシャンパン・プレイ窺い知る事ができるのである。





8.Get Ready For It
Take That
2014年
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エンドロールで流れるこの曲を歌うテイク・ザットは、90年代のUKポップスを牽引する「ビートルズ以来の老若男女に愛されるポップ・スター」言わしめる大人気のボーイグループだ。
当初は5人で活動していたが、メンバーの脱退、解散、再結成などがあり、現在は3人で活動している。

マシュー・ヴォーン監督はこのバンドをとても気に入っているようで、たびたび主題歌を任せている。
『スターダスト』(2007)での主題歌を依頼され“Rule The World”を書き下ろした事から始まり、後に『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011)でも、主題歌“Love Love”を書き下ろしている。
今回の“Get Ready For It”『キングスマン』の為に書き下ろした曲で、歌詞の中に“Kingsman”と入れるなど、エグジーへのオマージュソングとなっている。


劇中のロケ地で撮影され、メンバーがスーツを仕立てる内容が面白い。ガゼルちゃんが出演しているのも、見どころ。
さあ、準備をしろ。さあ準備をしろ。
あなたは言ったよね。
自分がした事は自分に返ってくると。
準備ができたら全てを吐き出せと。
僕らが一緒なら今夜、世界を救えるんだ。
さあ準備をするんだ

まるでエグジーが、戦いの前にハリーに教わった事を、思い出しているような歌詞となっている。




9.Heavy Clown
Iggy Azalea
2014年
{DBB4EF81-33A4-4D41-93EA-B9EA3AB611A6:01}
エンドロール2曲目は、シドニー出身のモデルであり、女性ラッパーでもあるイギー・アゼリア“Heavy Clown”だ。力強いラップセクシーさを同居させる音作りで人気を集めている。

この歌は、彼女自身の生き様を歌った内容だが、サビの部分にはこんな歌詞になっている。

この重たい王冠。
これでみんなを楽しませる事は出来ない。
でも私はまだ手放すつもりはない。
時期が来たら喜んで手放すつもり。
でも今は私の物だよ。ビッチ!

なんとなく、アーサーの事を思い浮かべてしまう…。

『キングスマン』の続編が決まったようだが、アーサー不在のキングスマンに、明日はあるのか?後継者問題も内包する次回作も楽しみである。





ざっと、挿入曲を解説してみたが、ここで気づくのは、エグジー世代の音楽と、ハリー世代の音楽で構成されている事だ。スパイの世代交代を描いたこの作品から、音楽の世代交代も感じる事ができる選曲となっている。

英国にゆかりのある、新旧名曲揃いのナンバーで、楽しい構成となっている。どのアーティストも素晴らしいので、是非とも彼らの他の曲にもアクセスしてみて欲しい。きっと楽しいミュージック・ライフが広がるはずだ。
挿入歌を収録したアルバムは発売されていないが、是非ともiPodに、プレイリストを作っておきたい。
そこで、Apple Musicでプレイリストを作ってみたので、Apple Musicに登録している人はここからDLできるようにしておいたので、試聴して欲しい。

Google Play Musicでもプレイリストを作成してみたが、どうやらうまくシェアできないので、上記の9曲のタイトルを検索して、プレイリストが作れる。ものの5分程度で9曲揃える事が出来たので、余り手間ではないと思う。


映画は、音楽との相性がとてもいい。ギネスマティーニを楽しみながら、この痺れるナンバーに酔いしれよう!