こんばんは


 昨日は朝早く登校して時間をもてあまし、当直の先生を騒い

 で起こした話をした。 今日も「さんぱち」 シリーズを続ける。 

 

 

 当時私の高校には遠隔地出身の生徒のための寄宿舎が

 併設されていて、その舎監が、自分の身を運ぶのも一苦労

 と思わせるようなビヤ樽先生だった。 身体的特徴がそうで

 あっても愛すべき人間は大勢いるものだが彼女は違った。




 彼女の教科は家庭科。 教わったことはないが、自分がいか

 に身分の高い人間であるかをとくとくと述べまくっていることを

 彼女のクラスの生徒から聞いた。何でも公家の家系で宮中女

 官をしていたとかをキャッチチフレーズにしていたと知り、虫の

 好かないやつと思っていた。 



 

 人間のにおいからすれば彼女の話はどうも眉唾物くさかった。

 ものは知らないが、私の直感はそう悪くない。 たとえ彼女のい

 う宣伝文句が本当だとしても、昔の光今いずこのように、華や

 かだったと昔をひけらかすようなやつに限って、現在のお前は

 いったい何なんだという質問には答えられないものだ。



 そのほかにもむかつく点がある。 関東地方の言葉しか話せな

 いのはよくない。 秋田にきたら秋田弁を勉強しろと言う気持ち

 がこちらにはある。 できないというより、秋田弁を見下げている

 印象を受けた。 それがいただけない。




 こっちが嫌いだと相手もこちらに敵意を持つようだ。 ある日世

 界史の地図帳配布のために職員室に入った。 運悪く世界史

 の先生の席がビヤ樽の隣だった。 私を見るなり

 「あなたのセーラー服の色ちょっと違うんじゃありません? そ

 れは許されてませんことよ」

 という。 紺色のセーラーには少しばかり浅い色だが、ちゃんと

 白線は3本だし、それに校則にセーラー服の色の記述などなか

 ったはずだ。




 実はこっちも言い分がある。 その服は経費節約のために母

 が祖父のはかまをほどいて作ってくれたものだ。 焼け跡の土

 蔵から少しにじんだ状態で出てきたはかまを再利用したまでだ。 

 そのいわく付きのセーラー服を姉が3年間着用し、そのまま私

 がお下がりとして着用したまでだ。 休み時間が短かったので

 そのまま引き下がったが、コノャローという印象を持った。




 数日して遅めの下校時に生徒用の下駄箱のところで履き替え

 ていたらビヤ樽が近づいてくるのが見えた。 職員用の玄関が

 ペンキ塗り立て中で使えなくなっていたので生徒用の出口にや

 ってきたらしい。私には気づていなかった。ほとんど生徒の通ら

 なくなった昇降口だったのに安心したのか、 彼女は一応きょ

 ろきょろ辺りを見てから、数メートル先の廊下からハイヒール

 に履き替えて歩き出した。 この廊下ははわれらのクラスの掃

 除区域だ。 なにが宮中だよ。 宮中っていうところは家の中を

 泥んこ靴で歩く習慣かよ。




 その日駅へ急ぐ途中、町でビヤ樽にあったが先ほどのことが

 あったからむかつきっぱなしだったので、意識的にそっぽを向

 いた。 彼女は生徒の非礼にいやな顔をしたようだったが私は

 積極的に無視をして先を急いだ。




 その翌日だ。 またまた世界史に用事があって職員室へ入ると

 早速ビヤ樽が近づいてきた。

 「あなた、昨日私に会いましたでしょう。 あれは何ですか?

 先生に対してお辞儀もしないで!!」

 とかなり大声で私を非難した。




 「土足でずかずか廊下を歩くあなたに腹が立っていたんですよ」

 と言おうと思ったが、この日に限って反発するのをやめた。 あ

 のときなぜ弁明しなかったのかよく覚えていない。 想像するに

 は、こいつと渡り合うのも時間の無駄と思ったのかもしれない。

 一応けんかにも相手を選ばせてほしいと。




 朝のさんぱち軍団がビヤ樽の洗濯現場を目撃したことがある。

 寄宿舎の洗濯場があるのになぜ校舎についている宿直室の

 隣の小使い室の流しまで出張してくるのか分からない。たぶん

 そこへ来るとお湯が使えるからだったのか。




 ある朝、こともあろうに彼女が自分の下着をそこで洗濯していた

 のである。 ウエストが1メートル以上もある下着は普通の洗面

 器がもてあますくらいの大きさである。 せっせと洗っていた。




 その日の宿直はわれらの副担任だった。 例のように生徒

 たちに起こされてから、洗濯に使用した洗面器とも知らずに顔

 を洗っていた。



 さんぱち軍団ははやしたてる。

 「先生、おぐしのつやもよろしいようで。 お肌のつやも同じく」



 おぐしのつやがよくなった副担任は先週鬼籍に入ったと連絡が

 あった。 ご冥福を祈る。