講談社より自著『闘うもやし』が出版されました。

講談社編集者のA様から話をいただいてから出版にこぎ着けるまで5年は要しました。

 

講談社側の会議では、書籍化にするにあたって

 

「だってこの人、もやし生産者として成功していないじゃないか」

 

といった反対意見が多かったようです。

まったくそのとおりでもやし製造・販売業の経営者としては、自分が就いてから14年間、一度たりとも黒字になっていません。常に経営破たん寸前なのが実状です。誰がそんな人間の書いた本など読むでしょうか。

 

ただ、食の生産・提供を生業とする一人の人間として考えたとき、私はどん底からもやしを伝えてきたこの8年間…多くの感動と幸せ、勇気と可能性をいろんな方々からいただきました。それは数字的に経営が順調だった20年前にはなかったことです。

 

なので「今が幸せかどうか?」と聞かれたら、どんなに経営的に苦しくても「幸せだ」と言えます。

 

「本当の成功とは何か?」を問い詰めたとき、私のこれまでの活動に共感した編集者の訴えが出版社に認められたのでしょう。…冒険ではあると思いますが。

 

先日、本の取材を受けたとき記者さんから

 

「タイトルは『闘うもやし』ですが、それでは何に闘っていたのですか?」

 

と質問されました。

 

バブルの頃、「これからはこういうもやしだよ」と飯塚商店のもやしが否定されたとき、先代社長である父も私も「そんなはずはない」と怒り、逆らいました。転落のきっかけになった判断でしたが、たとえ倒産の憂き目にあって、今でもあの判断に間違いはなかったと信じています。最初は生産者が良いと信じているものが通用しない理不尽さに対して、闘っていて、途中から本当の敵は誰だ?もしかしたらみな気づかずに利用されているのではないかと思うようになりました。そしてその本当の敵に対して闘い続けてきたのだと思います。

 

大手のもやし会社が多数集中している関東圏において、彼らの緑豆太もやしが1袋19~29円で売られ市場を席捲しているなか、今でも細くて根っこが長くて豆がついているブラックマッペもやしがその倍以上の価格で売られて存在している…それにはどれほどの闘いがあっただろうかと想像してもらいたいのです。ボロボロに傷つきましたがその先にある大きな幸せは得ました。

 

このたびの『闘うもやし』出版に際して、地元の飲食店が自発的に集って「深谷もやしWeek」なる深谷もやしの応援イベントを立ち上げてくれました。闘ってきた細いもやしで起きた幸せな出来事のひとつです。

 

守ってきたもやしを信じて、闘い続けたもやし屋一家の軌跡 、そこで私が得たものは…そんなことを感じ取っていただけると幸いです。