国際情報誌「SAPIO 7/22号」(小学館)において、

『農業が日本を変える』


という特集が掲載されています。ここまでその記事を元に、もやし屋の視点を通して考えてきました。とりあえず今回で最後になります。実際、あまりにも広く、あまりにも深く、あまりにも多くの人達の思惑が絡んでいる野菜のことをまともに語りだしたら、私の残りの人生ではとても足りません。


 最近の国内の食(当然野菜も含みます)で特に思うのは、


『安易な足し算を信じている生産者・提供者・消費者が多い』


ということです。


 食(野菜を含む)は実は非常にシンプルなものではないかと思います。しかしその食を提供する立場のものは、資本主義経済の原理に則り、自ら提供する食で競争します。他所のと、ウチのは「ここが違う」と、いかに違う付加価値をつけるかで経営努力をします。野菜でいえば、いかに上手に育てたものを、鮮度の良い状態で届けられるか・・・・その部分に尽きるはずです。


 ところがこの大前提もある程度、インフラの整備やコールドチェーンをはじめとする物流システムの発展によって成し遂げられると、食の競争がそこで収まらず、次の段階へと進んでしまいます。そこで提供者は新たな付加価値を模索するのですが、それらは食の本質を損なう『安易な足し算』によって加えられた価値である場合が多いと思うのです。


 もやしで言わせてもらうと、


「他社のよりも、長持ちするもやしをつくろう」


「根の部分をあらかじめ切ったものを高く売ろう」


というところでしょうか。


 これまでにここで語ってきた


行過ぎた使用による「化学肥料・農薬・有機・食品添加物」の問題、不安はそのまま生産者、提供者による


『安易な足し算信仰』


に直結している気がするのです。


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 「SAPIO」の記事でも、


“健康・安心のイメージが先行して、逆に間違った食品が横行している”


と、警鐘を鳴らしています。私は行過ぎたイメージを作り上げたのは、安易な足し算を信じている生産者・提供者だと考えてます。もちろん私も含まれています。安倍氏は、


「塩分の取りすぎがよくないと言って、減塩梅干が増えていますが、塩を減らせばそのかわりに保存料や酸化防止剤が必要になる。本末転倒です。輸入食品には添加物が多いといいますが、それを日本が仕向けている面もあります。


と、厳しい意見を述べています。私も同感です。あまりにも日本の買い手の基準が厳しく細かいので、インドネシアやベトナムの食品工場からも不満が出ているようです。


さらに安倍氏は野菜についても、


野菜を買い付ける日本の商社の要求どおりの色や形、大きさに揃えるために、農薬が必要になると訴えている声は多い。そんな現地の声も知らずに『輸入野菜は危険だ』というのはおかしいのではないでしょうか」


と、国内の食の価値観の矛盾に刃を突きつけています。私の食に造詣の深い友人は、こういった風潮を


『悪しき手間インフレ』


と、喝破しています。「安易な足し算」を信じると「悪しき手間インフレ」という結果になるのだと思います。


 そしてこの記事は「必要なのは、正しい知識を得るための情報開示」であると締めています。


 私もこの意見に同調しつつ、もやし屋の視点で付け加えます。


 「野菜でしたら、まずはその本質を良く考えて野菜に向き合うことです。野菜の産地へ近づくことも必要かもしれません。その野菜の本来の形と味を知ることが出来れば、自分の中に一つの『価値基準』が出来上がります。そしてその『価値基準を超えたもの』が見えれば、それは『安易な足し算が施されたもの』という判断が出来ます」


 生産者・提供者による正しい情報開示と、消費者が積極的に本質に基づいた価値基準を得ることで、食の流れをあるべき方向へ変えるものだと信じています。