『農業が日本を変える』
という特集が掲載されています。前回はこの記事にある、食品添加物に詳しい安倍司氏の
「見た目がきれいで便利な野菜や食品ほど、農薬や添加物は増える」
というコメントから、国内の加工野菜の実情と、自らの体験から滅菌のために
※次亜塩素酸水で漬け込まれた野菜は菌数と共に、味もなくなる
のではないか、という考察をしました。
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※次亜塩素酸水
・・・・・次亜塩素酸水は殺菌料の一種であり、塩酸又は食塩水等を電解することにより得られる次亜塩素酸を主成分とする水溶液。
わが国では平成14 年6 月に食品添加物として指定されており、現行の成分規格で
は、次亜塩素酸水には、強酸性次亜塩素酸水及び微酸性次亜塩素酸水がある。
また、同様のハロゲン系の殺菌剤として、次亜塩素酸ナトリウムが昭和25 年に、
高度サラシ粉が昭和34 年に食品添加物として指定されている。
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ここで私のところのもやしと次亜塩素酸ナトリウムとのかかわりについて語らせてください。ただ、これはあくまでも飯塚商店のケースであります。
私のところも殺菌、漂白作用のある次亜塩素酸ナトリウム(次亜塩素酸ソーダ) を昔から使っていました。もっともその用途は、もやしの栽培枠、包装ラインに使う機械の洗浄、殺菌用でした。汚れの分解能力が高く、どんなに頑固にこびりついた汚れも、原液を少し垂らしただけで簡単に分解させてしまいます。しかし少し原液を使っただけでも、作業場内は強い酸で充満され、目を開けることができず、咳が止まらず、喉が焼けるような感覚に襲われます。もちろん指が触れれば指紋が溶けます。それだけ強い薬品なのでしょう。
今から8年前のことです。定期的に実施している水槽で使う地下水の水質検査を地元の保健所に依頼に行った時です。そこで担当者から、
「地下水を使っているのですか?地下水はいつ大腸菌群が検出されるかわかりません。滅菌処理をした水を使ってください」
との指示を受けてしまいました。行政に逆らうことは出来ないので、早速塩素注入ユニット を地下水を汲み上げるポンプのところに設置し、市水道水レベルの塩素(1ppm以下)を注入した水を洗い場に使いました。それでも最初のうちは、もやしについた塩素臭さが気になって、私も、もやしを洗う工場長も滅入ったものでした。
その後、取引先である野菜加工会社の品質管理担当の人が、このようなことを電話で伝えてきました。
「実はスーパーから、焼肉セットに使う野菜を依頼されていて、飯塚さんのところのもやしも一緒に出したのだが、どうしてももやしだけは規定の菌数を超えてしまう。何とか菌数の少ないもやしが出せないだろうか」
ということでした。基本的にもやしは生で食べるものではないので、正直今まで菌数についてはあまり気にしていなかったので、菌数を減らせ、と言われても返答に困り、逆にこちらから、
「御社ではどうやって野菜の菌数を減らすのですか?」
と質問をしたところ、品質管理担当者は
「お宅でも、次亜(次亜塩素酸ナトリウム)を使っているはずです。次亜の濃度を濃くしたブールに一定時間漬け込んで、その後、真水でリンスすればいいと思います」
と答えました。私はどうしてもあの匂いが気になっていたので
「しかしそれだともやしは漬け込んでいる間にどうしても濃い目の次亜塩素酸水を吸収してしまい、たとえ表面を洗い流しても塩素臭さがついてしまうはずです。お客様からクレームは来ないでしょうか?」
と疑問を呈したところ
「次亜は食品添加物として認められているからいいんですよ」
と強く言われました。
結局水槽に塩素濃度の強い水を張ってしまうと、その取引先だけでなく、すべての市場に出るもやしまで影響を受けてしまうので、私は塩素の匂いが残るようなことは出来ない、と答えて、仕事を断ってしまいました。
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取引先も、相手のスーパーに厳しく指示されてのことでしょう。時代の流れに沿って頑張っているわけですから、取引先の考えと私の考えに良し悪しをつけることは出来ないと思います。
「たとえ野菜の風味を失っても菌数で安全を測る」
か
「極力野菜の味を残したものを提供したい」
か、どちらの主義を貫くかの違いだけなのだと思います。
私はあくまでももやし屋なので、野菜たるもやしを提供するのが使命です。野菜の中でも最も走りが早い(鮮度の劣化が早い)のがもやしです。だからといって薬品(食品添加物)で野菜の風味を取り除いてまで、広く遠くまでもやしを売ろうとも考えていないのです。ともかく量を売るために、広く遠くまで運ぶもやし屋さんもいるでしょう。もちろんそれも会社経営のためなら正しいことです。
もやし屋の視点を通して語る食品添加物のことをまとめますと、
大切なのは
作り手が「何を信じて」作ったものを提供するのか。
そして
消費者は何を信じて買うのか。
・・・・・その部分ではないでしょうか。
・・・・・・・・次回は再び「SAPIO」の記事に戻って、食の安全と現状について話します。