国際情報誌「SAPIO 7/22号」(小学館)において、

『農業が日本を変える』


という特集が掲載されています。それは日本の農業に大いなる期待を持って・・・・というよりも、さらなる飛躍のために、今のうちに蓄積されてきた膿を出しておこう、との意図が伺える記事です。そして今回は「有機野菜」について、記事の紹介ともやし屋の視点からの考察を交えて書いてみます。


 まず豆の養分と水だけでもやしを育てているもやし屋にとっては、「有機栽培」とはまったく未知の世界であります。しかし もやしと他の野菜は運命共同体のような関係です。スーパーでは「無農薬」「オーガニック」「自然農法」などの宣伝文句付きで脚光を浴びている「有機野菜」について気になってしまいます。


 有機野菜・・・それなりの定義 に基づいて栽培、然るべき機関 で認可されたものを「有機野菜」と名乗れるようです。その然るべき機関、天から降りてきた人達が絡んで運営しているような気もしますが・・・まあともかく、とても厳しい基準のように思えます。


 

 その有機野菜にも落とし穴がある、と著書に「本当は危ない有機野菜」、「野菜畑のウラ側」を持ち、また現役の施肥技術委員である松下一郎氏が話します。


 「テレビ報道などで、有機栽培の畑を訪ねたレポーターが、土のついた大根をその場でかじり感動している映像を見ると、心配になります。その土に何が肥料として使われ、その結果何が入っているのか、本当に知っているのだろうか」


 当たり前かもしれません。有機と聞けば私なんかはすぐ糞尿を利用した堆肥を使うというイメージがあります。私が小学生のころ(30~40年前)は近くの畑のあちらこちらに、肥溜めがありました。畑で遊んでいると、必ず落ちる子供もいましたし、事実私は片足を突っ込んでしまったし、姉は完全に落ちました。あの肥溜め、一体どのように糞尿を運び入れていたのだろう。やはり農家の外にあった便所の糞尿を桶で汲んでは、肥溜めに溜めておいたのでしょうか・・・・。


 話がそれましたが、どう考えてもあの肥料は衛生的ではなく、その土のついた野菜をかじるというのは、野菜は甘いかもしれませんが、あまり体内に取り入れては好ましくないものまで胃袋に納めてしまうでしょう。


 そう言えば昔はよく学校でお尻にセロハンテープを貼り付けて検査する、「ギョウ虫検査」をやりました。何人かが「卵がついていた」ということを指摘されてました。つまり有機野菜が広まることは、「ギョウ虫検査の復活」もあるということかもしれません(笑)。


 松下氏が付け加えます。


「現場を回っていると、異臭がする畑があります。減反田を転換したような水はけの悪い畑に大量の有機物を入れたため、硫化水素やメタンが発生して臭っているのです」


と、扱いによっては有機肥料も問題があると説明していますさらにこの記事では堆肥が作られる過程も指摘しています。つまり、


「大型畜産では、輸入される穀物が与えられる。この穀物主体の飼料に混ぜられる妨カビ剤や抗生物質が問題。また家畜の成長に必要な重金属があり、エサに添加される。こうして取り込んだ重金属や成長過程で投与された化学物質は家畜の体内で濃縮されてフンに出るが、それがたい肥化されることでさらに濃縮される」・・と。


 ・・・・堆肥に残留されている重金属や、化学物質。簡単に有機肥料といっても、その出所が健康でなければいけないということなのでしょう。


 「有機JAS栽培でも、天然に存在する無機肥料や30種類の農薬の使用が認められていることを大概の消費者は知りません」


・・・・・ここでも消費者の持つイメージと現実の乖離が垣間見えます。早速有機農産物の日本農林規格 で調べてみました。なるほど確かに、第3条の使用禁止資材の定義のところでは、


「肥料及び土壌改良資材(別表1に掲げるものを除く。)、農薬(別表2に
掲げるものを除く。)及び土壌又は植物に施されるその他の資材(天然物
質又は化学的処理を行っていない天然物質に由来するものを除く。)をい
う。」


と、謳ってあります。そしてその別表を眺めた限りでは、どうにでも解釈がつけられるような感があります。これで有機栽培と謳ってよいものか・・・。


 もっともこれは私の主観でありますので、有機野菜に興味のある方、肥料・農薬に詳しい方は1度この「別表に掲げられたもの」を見る事をおすすめします。先にも話しましたが、肥料・農薬と比較的遠い位置にあるもやし屋の私は、これらの薬品名を聞いてもまるでピンときません。しかし、現在日本で言うところの「有機」という言葉の意味は見えてきた気がします。


 ゆきすぎた有機信仰とは、


「現実から離れて、イメージだけが先走ってしまった」


私達の悪いクセから生まれたものなのかもしれません。



・・・・・・次回は、加工された野菜、つまり冷凍野菜、カット野菜への添加物について考えてみます。これはもやし屋も大いに絡んでくることです。