全国に100件ほどしかないと言われている、もやし屋は、農業のようで農業ではない非常に微妙な立場にいます。

 ただし、作って販売しているもやしは「紛れもない野菜」であるので、もやし市場は他の国内の野菜の動向と密接に繋がっているので、私は普段より極力野菜・農業に関する情報には注目をしています。



 昨日発売された国際情報誌「SAPIO 7/22号」(小学館)において、

『農業が日本を変える』

という特集が掲載されていました。そしてこれは最近よく見かける希望溢れる農業イメージとは全く異なる、大変現実を見据えた、議論する価値のあるすぐれた特集でした。そしてこの特集には農業のほかに、「国産農産物」についても鋭い切り口で語られています。その観点は、今までもやし屋として私が抱いてきた疑問点にも通じていました。今回はその特集記事のうちの一つ、そのタイトルは


本当は危ない『国産農産物』


について、考えてみます。


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 最近、都内へ出かけることがあるのですが、こだわりの国産野菜を使っていることを強調しているレストランをよく見かけます。私も足を運びましたが、どの店も大盛況であり驚きました。ああ、都会では野菜がブームなのだな、と実感しました。記事でも「健康志向を反映して、世は『安全な農作物』の大ブーム」と書いてあります。


 ただ、私は最近の野菜は荒々しさが失われた・・・・と感じていました。これはもやしに対する消費者の嗜好の変化を見ても顕著なのですが、多くの消費者は野菜特有の野趣溢れる「強い味」を求めていません。唯一「甘み」だけが突出して好まれる・・・・そのような気がしてました。


「甘みは豊かで、それ以外は余計なクセのない野菜」


が今の消費者の好みではないでしょうか。そして今は生産者もこぞって消費者のニーズに応えるべく、そのような特性の野菜を作り上げることに邁進しているようです。


 さてそのような野菜作りが進んでいる中で、失われたものもある、と記事にはあります。私は「その野菜特有の荒々しさ」と先に述べましたが、その他に失われたもの、それは・・・・


『野菜本来含まれるはずの栄養素』


が昔に比べて大きく激減しているようです。


 「野菜が壊れる」(集英社)などの著書を持つ、農業研究者の新留勝行氏は語ります。


「『日本食品標準成分表』の調査を見ても、栄養価の減少は驚くべきものだ。例えば100g当りに含まれるビタミンCは、この50年の間にキャベツでは半減、にんじんや春菊で3分の1に、ホウレン草ではなんと4分の1に激減している」


 激減しているのはビタミンCだけではないようです。新留氏は続けます。


「ミネラルや鉄分の減り方はもっと激しく、ホウレン草も春菊も今や50年前のわずか1割ほどしかない。にら、わけぎに至ってはさらに減っている」


・・・・いくら健康を気にして野菜を食べても、中身がこれじゃ意味がないのではないか・・・ということです。


 栄養価が激減した理由について、新留氏は


「土が変わったこと」


と、挙げています。新留氏の見解を全て書き出してみます。


「戦後使われてきた化学肥料は、窒素分を土に与え、これを作物の根に吸収させて、どんどん育てることに優れていました。ところが化学肥料の一部の成分は、植物の根が本来ならば土中に広げるはずの根毛を焼ききってしまう。実は鉄分やビタミンは、この根毛から根に吸収されます。見た目は立派な今の野菜に鉄分やビタミンなどの栄養素が少ないのは、当然の結果でしょう」


 私は土を耕す農家ではないので、こういった植物学的な情報には疎いのですが、もやし屋の目から語ることができます。手前味噌になって恐縮ですが、私のつくるもやしは味が濃いとの評価をしばしばいただきます。その理由は、もやしの根の力を活かして育てているからだと思います。


「もやしの根は大切なもの」


私はそのことを昔の農家の出である先代社長の父から学びました。


 なのでもやし屋の私には「一部の化学肥料の成分によって、養分吸収器官である根毛を焼ききられた野菜に栄養が少ないのは当然」、という新留氏の説には納得できるものがあるのです。


 記事とは少し離れますが、野菜の栄養価の減少についてですが、気になることがあります。現在ハウス施設などで野菜の通年栽培が当たり前となって「旬」というものが失われています。が、その味の強さからいっても「旬」の野菜の方が栄養価が高いだろうと私は信じています。今は消費者にとってありがたい「通年安定供給」という錦の御旗の元に、自然の力を活かし、野菜の力を活かして栽培する、という「本来の思想」がないがしろにされてきている感があります。


 消費者も安全でナチュラルで健康な野菜を愛する傾向にあるのなら、野菜の「旬」というものを考慮したほうが良いのではないでしょうか。




・・・・・・・次回は減った栄養価に伴い、増えた有害成分についてこの記事から考えていきたいと思います。もちろん、あくまでももやし屋の視線を通して、です。