TPPと国民国家。グローバリゼーションとグローバリズムは異なる。~松田まなぶのビデオレター~ | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

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日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

 トランプが次の大統領に決まり、米国がTPPを承認するのは絶望的となる中で、なぜ日本は関連法案成立にこだわるのか、そんな声が聞かれます。

 このTPPには、米国主導、米資本の利益といったイメージがもともと強いようですが、私はかねてから、「米国が」という発想ではなく、「日本が」という発想で、TPPを捉えるべきだと論じてきました。

 私が予想していたとおり、交渉参加国の中からは、まずは米国抜きでも、発効要件の規定を変えて、TPPを発効させるべきだという声が出てきました。

 日本がなぜTPPにこだわるのか、そこには国益をかけた大事な理由があるからです。

 

●中国が主宰するアジア太平洋秩序の形成

 TPPとは、そもそも我々日本が「中国が主宰するアジア太平洋秩序」のパーツに組み入れられることを容認するのか否かの大問題に関わるものとだと思います。

 「偉大なる中国」の復活をめざす習近平は、ユーラシア大陸、及び、その周辺海域を包摂する「一帯一路」構想を提唱していることはよく知られています。

 これは、中国が世界経済の中心だった古代シルクロードの再現として、アジア、欧州、アフリカ大陸にかけて、交通網などのインフラ整備を切り口に、陸海にまたがって、

(1)「シルクロード経済ベルト」(①中国⇒中央アジア⇒ロシア⇒ヨーロッパ、②中国⇒西アジア⇒ペルシア湾⇒地中海、③中国⇒東南アジア⇒南アジア⇒インド洋)、

(2)「21世紀海上シルクロード」(①中国沿海の港⇒南シナ海⇒インド洋⇒ヨーロッパ、②中国沿岸の港⇒南シナ海⇒南太平洋)

を通じ、ルート沿線60カ国、人口で44億人(世界の62%)、GDPで21兆ドル(世界の29%)の巨大経済圏を構築しようとする構想です。

 現に中国は、ベトナムなど周辺諸国と積極的にFTA(自由貿易協定)を締結する動きを進めています。

 そこからさらに、太平洋に向けては、米国との間で「新型の大国関係」を構築することを米国に提案しています。広大な太平洋を西と東とで中国と米国が分割統治しようとする発想が透けて見えます。

 

これに対して、米国は「法の支配」を主張しています。南シナ海問題を巡り、この点で日米が共通の利害を有することは言うまでもありません。

この構造は、TPPも同じです。TPPに参加しなかった場合、それが地政学的にも経済的にも国益に大きく反するのは、日本も米国も同じです。

 

●国際経済秩序形成の扇の要

 いま、世界では、国際経済秩序の形成に向けて、大きく言って3つの流れが動こうとしています。

 一つは、環太平洋、すなわちTPP。これは日米が主導して、将来、APECワイドでFTAAPを形成し、中国やロシアまで取り込んでいく可能性を秘めた経済圏構想です。

 もう一つは、TPPが挫折すれば、アジア太平洋を中国が主導する枠組みとなりかねないRCEP、すなわち、ASEAN+6(日中韓、豪州、NZ、印)です。

 さらにもう一つが、日米欧です。米国とEUとの間には、TTIPという大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定構想がありますが、日本とEUとの間でも、EPA(経済連携協定)の交渉が進むかどうかという局面にあります。それはTPPの成功次第と言われてきました。簡単な道ではありませんが、この2つが結び付けば、壮大な経済秩序になります。

 以上3つのいずれの経済圏にも属しているのは、世界の中で日本だけです。日本は国際経済新秩序の形成において「扇の要」の位置にあります。これは日本のチャンスです。

 

 環太平洋の秩序形成を目指すTPP交渉に参加してきた12カ国のGDPは世界のGDPの4割を占めますが、これら12カ国に占める日米のGDP比率は78%です。

 まるで日米FTAだ、米国の狙いは日本だ、と言われることがありますが、そうではありません。

 そもそも米国がTPP交渉に参加した動機は、日本以外のアジア太平洋諸国でした。

 よく、日本は交渉で米国にやられると懸念されてきましたが、日本への内政干渉にも近かった、かつての日米構造協議などを連想した知識人も多かったようです。

 多国間交渉というマルチの場は、国と国との間の力関係が大きく左右する二国間交渉(バイ)とは大きく異なります。アクターは多数、一国一票で平等な国連のようなもので、その複雑な方程式の中で、小国も堂々と米国と戦いました。

 ですから、TPPがダメになるなら米国とFTAをやればいいという人がいますが、FTAよりもTPPのほうが、日本にとっては有利な結果になっているはずです。

 

 そもそもTPPの原型は、シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイという4カ国で進められていた自由貿易の枠組みで、この「P4」に米国が加わってきたものです。

 その後、参加国が増え、TPPという枠組みで9カ国が交渉をするようになりましたが、当時、オバマ大統領は米国の「輸出倍増」を唱えていました。

 近年、米国の輸出における日本のシェアは5%程度にまで低下し、9カ国で交渉していたときの米国の他のTPP参加8カ国に対する輸出のシェアは7%と、日本を抜いていました。

 これら8カ国が力強く成長する国々なのに対し、成長率が低下し、人口も減少している日本の場合、そこへの輸出を増やしても、とても「輸出倍増」などできません。しかも、日本ではすでに工業製品の関税はほとんどなし。交渉しても大きな成果が期待できるマーケットかどうか疑問だったでしょう。

 米国がTPP、そして、将来のFTAAPで狙ってきたのは、成長するアジア太平洋地域であり、その中で日本の存在は縮小してきました。この米国の狙いと同じ立場に立つのが日本です。

 日米はこの点で利害を一にしているはずです。

 

●TPP興国論

 私はかつて、衆議院議員に当選する少し前の2012年の春に「TPP興国論」という本を上梓しました。

 このタイトルは、当時出回っていた「TPP亡国論」という本に対抗したものでしたが、亡国論が20万部売れたと聞いているのに対し、私の興国論は2万部程度。それでも、私が書いたいくつかのお堅い本の中では売れたほうで、当時の山口壯・外務副大臣が書店でみつけて、外務省にチェックさせて内容の信頼性にお墨付きまでいただき、また、私の国会質問に備えてか、各省庁の書店にも随分と置かれていたようです。

 ただ、この本を出すには勇気も要りました。当時は保守系の方々の中でTPPへの反対論が強く、私が属していた「たちあがれ日本」でも皮肉られたことがありました。

 しかし、私がこの本で立脚していた立場は、まさに保守勢力が追求しているはずの独立自尊の強いニッポン国であるのは、お読みいただければわかります。

  真の国益とは何かを論じる上で大事なのは、自国と自国を取りまく状況についての冷静な事実認識です。TPPには誤解に基づく反対論が極めて多かったので、それを解消することも本書の狙いの一つでした。

 例えば、TPPとは日本の「開国」ではないということです。

 TPPに最初に言及したのは菅総理でしたが、その際に「開国」という言葉を使ったのがミスリードしてしまいました。

 逆です。日本にとってのTPPの意味とは、アジア太平洋諸国を日本に対して開国してもらうことです。日本から海外に進出する事業や投資を促進し、保護するということです。

 日本は世界で最も開かれた、完成度の高い市場が中心の国家です。

 モノの平均関税率は世界一低い部類。私が中曽根政権のもとで携わった「アクションプログラム」では、工業製品はほとんど全部、関税撤廃されましたし、基準認証や政府調達、金融市場など、これだけよくぞ、内外無差別原則を徹底させたものだと感心したものです。

 長年にわたった欧米との経済摩擦を通じて、政府ができる措置としては、日本は高い開放度と公正で洗練された市場制度を、ほぼ実現し終えています。

 TPP以前の問題として、私は、むしろ日本は開かれ過ぎているようにすら感じます。日本の各所にどんどん外国勢が入っています。

 企業や社会の閉鎖性などがよく指摘されたものでしたが、それはTPPが対象とするような政府の措置ではありません。

 農業やISDS条項など、議論を呼んでいる各論は別の機会に論じますが、全体としてみれば、TPP交渉への参加とは、世界で進む各分野での国際スタンダードの形成に、日本の国益を反映させる、あるいは国益を守るための場を得ることであって、日本が参加せずに、別の場所でスタンダードが形成されて、これを事後的に受け容れることのほうが、より大きな国損を招きかねないと考えるべきものです。

 現に、某国際機関は、TPP交渉結果で最も利益を得ることになった国は日本だと指摘しています。

 

●ザインとゾルレン、グローバリゼーションとグローバリズム

 TPPとは、多国籍企業や米国巨大資本の利益に奉仕する「グローバリズム」なのだと言われます。今回、トランプが支持されたのも、格差拡大の原因の一つであるグローバリズムに対する米国社会に蔓延した反感ということが要因の一つでしょう。

 しかし、「弱肉強食」のグローバリズムの「強食」にもルールの網をかけるのが「法の支配」であり、全てのパワーを国際的に合意されたルールに従わせようという志向を持つのがTPPであるという面も否定できないと思います。

 これはカネの力で支配圏を拡大している中国勢に対する対抗軸にもなります。明確な国際秩序の構造物が先に構築されていれば、そして、それが多くの国をカバーするものであれば、中国企業もそれに従ったほうがビジネスが円滑になるはずです。

 かつて、事業の国際展開をしてきたのは日本でも大企業でしたが、いまや、地方の中小零細企業にとっても、自ら直接、サプライチェーンで海外と円滑につながることが死活問題になっている時代です。これは、これからの日本の農業も同じです。

 自ら海外に商機を見出さねば生き残れないと多くの中小企業経営者が自覚するこんにち、対外取引や海外事業や対外投資を円滑化し、利益を確保して還流させ、国内に所得と雇用の場を生むことに資するのが、TPPで定める「法の支配」であります。

 ここで大事なのは、「事実はこうだ」、つまり「存在」、ドイツ語ではSein、と、「かくあるべし」、つまり「当為」、Sollen、とを、明確に区別することです。色々な議論を聞いていると、この両者を混同している場合が極めて多いように思います。

 「グローバリズム」は、「イズム」であり、主義であり、価値観です。

 これに対して、経済の必然的な流れとして後戻りできない形で世界的に滔々と進んでいく「グローバリゼーション」とは、誰も押しとどめることができない、また、押しとどめれば破局に至るような「事実」であり、ファクトです。

 もはや、世界経済の循環構造そのものになり、身体でいえば血流のような存在です。止めると大変なことになります。

 Seinの世界で必然であるなら、流れに乗った方がトクです。

 しかし、流れに押し流されてはいけないということだと思います。必然の流れの中で自分の立ち位置をしっかりさせる。

 そこに、『イズム』があるのだと思います。

 だからこそ、グローバリゼーションという事実が進んでいく流れにうまく乗り、それを活用しつつも、逆に、イズムの次元では、「グローバリズム」に対抗して「国民国家意識」というSollenを強めるべきなのだと考えます。

 独自性を創出し続ける能力や営みを「コア・コンピタンス」と言いますが、それがあってこそ、世界大競争時代にあって日本は本物の競争力を身につけられるということは、言われて久しいことではないでしょうか。

 日本はそうした営みで各分野で世界一を築いてきた国ですし、これからも、考えようによっては、それができるだけの潜在力が十分にある国だというのが、私の興国論の基調です。

 関連法案は与野党攻防の紆余曲折を経て、ようやく衆議院を通過しましたが、国会審議を通じて国民に見えていたのは、TPPが政争の具となっている姿ばかりでした。

 参議院で中身についての実のある本質的な議論がもっとなされることを期待するものです。

 

松田まなぶのビデオレター、第49回は「TPPで独立自尊の強い日本へ!。チャンネル桜、11月8日放映。