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日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。


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 米国大統領選でトランプが勝利しましたが、あなたは、どちらが勝つと思っていたでしょうか。私の周囲には、トランプだと思っていたと言う人が意外と多いです。本当に?と思いますが、本当だとしても、トランプだとは言えなかった。

 ましてや米国では、トランプ支持とは言えなかった人が多かったようです。

大統領選直前に開催された言論NPO主催の、あるシンポジウムで、米国の世論調査の専門家であるブルース・ストークスさんという方が、

…自分たちが子どもだったときの母親は専業主婦だったのに、今や職場では女性が進出して大活躍、50年代の偉大なるアメリカの時代まで黒人はバスに乗れなかった、いまや同性愛者たちまでマイノリティーではなくなった、そんな米国社会の変化についていけないと感じている白人男性たちの『時計の針を巻き戻せる人間』への期待がトランプ現象につながった…

という趣旨の指摘の発言をしていました。

 権利平等を進めてきた米国は正しいことをしてきたのですが、人間の深層心理には、建前では割り切れない非合理な面があることが如実に現われたということでしょうか。

 こんな、人には公言できない本音が、世論調査ではつかみきれなかった。

 しかし、それが「民意」になったとすれば、それだけ、格差拡大、実質所得の低迷など、米国民の閉塞感が強かったということでしょう。

 次の図のように、トランプ・ショックが示唆するキーワードとして、「本音」、「自立」、「金利上昇」、「ビジネス」、「米国抜きのTPP?」を挙げてみました。

●「本音」の時代と民主主義

 アメリカ第一主義と孤立主義と保護主義の3つを特徴とするトランプの勝利は、欧州で台頭するポピュリズムと連動する動きだと指摘されています。

 ただ、私は少し別の角度から物事を捉えるべきではないかと考えています。最近、インテリ層は、世界的な民主主義の危機をさかんに議論していますが、ポピュリズムをいくら嘆いてみたところで、世界の潮流には無力です。

 トランプ現象は、既成の政治やエスタブリッシュメントたちに対する不信の現われとされますが、これは、かつて「チェンジ」を唱えたオバマのときもそうだったと思います。

 国民が変化を求めるとき、それを投票のかたちで体現できる民主主義のダイナミズムが米国にはあると受け止めるべきなのかもしれません。

 今回の選挙戦中には中傷合戦のようなこともありましたが、それでもそこには、世界の潮流であるグローバリゼーションや格差の拡大などにどう向き合うのか、多くの米国民が国政の方向についてテーマ性を意識して参加できる選挙プロセスがあったことは否定できません。

 翻って、日本の最近の国政選挙はどうかいえば、どうも、消去法的政党選択という色彩が強く、政策といっても、いずれは不可避と多くの国民が分かっている消費税率引上げについて、その時期をどうするかぐらいでしょうか。

 与党への信任が、国の行方についての国民による積極的選択の結果であるためにはどうすべきかが日本の課題だと思います。

 長年にわたり多くの国民の実質所得が増えない、格差も拡大している、そこで中間層が崩壊する、となると、建前や理念に即した健全な民主主義は実現しなくなります。

 課題は、中間層に夢を与える政治をどう創るかにあります。近年、多くの先進各国の政治的指導者たちは、その責務を果たしていないのではないでしょうか。

 インテリたちの間でも、特に日本では、そうした本質的な議論が不足してきました。

 ポピュリズムはエリートたちの怠慢がもたらした現象ともいえるものです。ヒトラーの台頭を懸念する前に、自分たちの知的後退現象をこそ反省すべきでしょう。

 国民の閉塞感や不平不満が、「排他的極右」とは異なるコンサーバティブを生むために、私は「保守政治とは一般国民に何を実現してくれるものなのか」を考え続けてきました。その政策体系を完成する前に議席を失ってしまいましたが、今後とも、その営みを続けたいと思っております。

 

●日本の「自立」とリーダーシップ

 「大方の予想」が相次いで覆っています。英国の「ブレグジット」に続き、米国では「トランプ276」、勝利確定の票数276票、これで、2(日本は)、7(泣く泣く)、6(無理を聞く)にならないことを祈ります。

 不確実性が高まる国際社会に、日本はどう向き合うべきか。

 すでにオバマの時代から米国は「世界の警察官」から撤退の兆候をみせていましたが、トランプでますますそうなるとすれば、日本の安全保障は米国依存がますます許されなくなるでしょう。世界各国の安全保障問題に関して、トランプは基本的に軍事介入をしないスタンスを採るだろうとされます。

 米国でも、日本の自衛隊についてと同様、お母さんたちが「世界の民主主義のために息子たちが血を流す」ことへの拒否感を強めています。軍事介入はあっても、それは「選択的介入」になり、トランプのもとで、選択の条件が厳しくなっていくでしょう。

 いくら日米安保体制があるからと言って、日本有事の際に米国が軍事行動に出てくれるための条件は、大きく狭められることになります。

 経済面では、トランプのもとで米国も、あるいは世界的にも、保護主義が強まっていくとすれば、人口減少、マーケットの縮小で海外の成長に活路を求めねばならない運命に置かれた日本は、米国に依存しなくても、むしろ米国を先導するように、自由貿易の推進、自由経済圏の構築について独自のポジションを確立していかなければならなくなります。

日米関係についてはこれまで、「従米」か「反米」か、という軸で捉えられることが多かったですが、私はTPPに臨むに当たって、これからはそのいずれでもなく、「諫米」、すなわち、時には「米国を諌める日本」であるべきと主張したことがあります。

 それであってこそ米国からの「自立」であり、両国間に真の信頼関係を築く基礎になる。

TPPの国会承認も、あえて自由貿易の先導者としての存在を国際社会で築き、その指導的立場から「諌米」ができるようにするための重要な布石なのだと思います。

 トランプは選挙戦で様々な非現実的な公約を乱発しました。なかには、相互に矛盾し、支離滅裂なものもありました。米軍基地の撤退などと言っても、軍事はシステムで動いています。いまや日米同盟がここまで機能的に一体化している以上、いくら大統領といえども、システムまでは簡単に変えられません。

 特に日本は、軍事面では米国の本社機能の相当部分を国内に有する、他国に類例のない位置づけにある国です。日米関係とは、世界の中でも例のない特別な関係です。

 安倍総理が首脳として最初にトランプと会談しても、全くおかしくないものでした。

 選挙時の公約と、政権をとってからの実際の政策との乖離について、国民が納得できる説明をするのも政治家の重要な仕事です。トランプの大きな仕事が、この仕事になる可能性もあります。

 日本は「諫米」でその材料を提供する。公約と異なる政策が取れるよう、その環境を整備する。これは絶大なる指導力であり、国際的影響力です。

 日本はそのような国になれるチャンスを得たのだと思います。

 少なくとも、トランプ大統領の誕生が日本に迫っているのは、「自立的戦略思考」でしょう。トランプ・ショックは、それに向けた覚醒を日本人に促す事態だといえます。

 かつて、クリントンからブッシュ(ジュニア)へと大統領が代わる少し前、共和党政権誕生を期して日本で「日米保守会議」が開催され、のちに経済担当の大統領補佐官になるリンゼー氏が講演した際に、当時、現役の財務官僚だった私は立ち上がって、こんな質問をしたことがあります。

「米国政府は日本に対し、景気刺激のために財政拡大策をとるべきだと、Gなどの国際会議の度に圧力をかけてきたが、共和党政権になると、どうなるのか」と。

 これに対するリンゼー氏の答は明確でした。

 「日本の財政政策をどうするかは米国ではなく、日本が自ら決めるべきことだ。」

 トランプ氏にも、こうした共和党精神は十分にうかがわれます。

 

●想定外の「高金利」とトランプノミクス

 大方の予想では「想定外」だった事態が起きたのは、金融市場もそうでした。

 ヒラリーの勝利を想定していた人々は皆、トランプが勝てば米国経済がダメになり、GDPが大幅に低下する可能性が高くなるので、米国の株式とドルは暴落し、景気が冷えて、さらなる金融緩和期待の中で、金利は急低下すると見ていました。

 トランプ勝利確定直後、最初は円高、日本株安と、そのような動きになりましたが、すぐに状況が反転し、円安、日本も米国も株高という展開になりました。勝利後のトランプ演説が影響したのかもしれません。その背景は、高金利経済への転換予想です。

 同じく共和党のレーガン政権が誕生したときも、米国高金利、ドル高になりましたが、その背景は、大幅減税と、米ソ・パリティー達成に向けた軍事費増大による財政赤字拡大でした。いわゆる「レーガノミクス」への期待です。

 「トランプノミクス」には、減税と、インフラ整備に向けた財政支出の拡大、高金利は放置?という点で、レーガノミクスを連想させるものがあります。

 ただ、軍事費を拡大したレーガンとは異なり、実際に財政赤字が拡大するかどうかには異論もあります。米国では歳出の権限は政府ではなく、議会にあり、その議会は上下両院とも、財政拡大に反対する共和党が多数を占めています。

 イェレンFRB議長も、米国は財政を悪化させられる余地はないと牽制を始めています。

 また、インフラ整備といっても、実際には、都市のスラム街の再整備が中心という見方もありますし、減税の財源が必要だとしても、その資金は、多国籍企業から得るオフショアーの税金と、同盟国が米国に払う軍事費の増額(駐留米軍基地負担の増大)で賄うとも言われています。

 高金利については、トランプは選挙中から、イェレンがいつまでも金融を正常化しないことを怒っていました。金利上昇期待は、財政赤字予想よりも、トランプがハト派的なイェレン解任を言っていたことから、FRBの金利引き上げ予想が強化されたことによる面が大きいかもしれません。

 こうした状況のもとで、日本円には多くの人々が予期しない事態が起こりました。円安への急転換と、その継続です。

 一般に、「世界中で金利が低下する時は、金利(利率)の水準が一番低い通貨(円)の(短期も含む)固定利付債が最も値上がり幅が大きいので買われる。」一方、「世界中で金利が上昇する時は、金利(利率)の水準が一番低い通貨(円)の(短期も含む)固定利付債が最も値下がり幅が大きいので売られる。」というのが正しい見方です。

 利率の低い固定利付債とは、言うまでもなく日本国債です。世界のマーケットが「リスクオフ」のときには、これに資金が集中するので円高になります。この動きが逆転しました。短期市場での国債こそが、多通貨間では大きな資金が動きます。

 スイスの金利水準も低いですが、国債残高が少なく、運用対象にはなりにくいようです。

世界的な金利上昇期待が生じたもとでは、極めて低金利の固定利付債は、その金利の低さのみならず、債券価格の変動リスクも大きくなるため、最も魅力のない金融商品になります。日本の低金利の固定利付債はあたかもゼロクーポン債の如くで、世界金利が歴史的低金利から上昇し始める時には最も嫌われることになるというわけです。

 そうであれば、トランプノミクスは円安、株高要因なので、日本経済は当面、その恩恵を受けることになります。

 ただ、中長期的にみると、いくつかの懸念材料もあります。その一つが保護主義です。

 

●「ビジネス」と「米国抜きのTTP?」

 トランプがビジネスマンであることを考えるべきなのは、彼の外交政策に関してもそうです。ビジネスでの大きなディール、駆け引きで成功してきた人です。

 米軍基地撤退をちらつかせて米軍駐留経費を日本を始めとする各国に出させて、財政収入に充てるということぐらい、当然に考えられるでしょう。

 そのトランプが、選挙戦を通じてTPPは「最悪の協定だ」と批判し、選挙勝利後には早速、大統領に就任時点で直ちにTPPから脱退すると宣言しました。

 それだけでなく、選挙戦中には、米国がカナダとメキシコと締結しているNAFTA(北米自由貿易協定)についても、「米国から雇用を奪っている」などと批判し、一貫して自由貿易に反対する姿勢を鮮明にしてきました。

…駆け引き外交をするトランプが相手ならば、日本も駆け引きをすればいい、トランプが真のビジネスマンであるならば、TPPが米国ビジネスにとって有利なのは、よく勉強すれば自明である、ならば、米国抜きでのTTPを発効させてしまえばよい。米国以外の11カ国で発効させる動きに出れば、米国はついてくるはずだ、もし、米国の参加が遅れれば、TTPは日本主導の秩序になる、あとで入ってきた米国の立場は弱くなろう…。

 そんな物語も語られないではありません。「米国抜きでのTTP」には、現在、内閣府でTTPの最高責任者の一人である某氏も言及していました。

 しかし、現状のTTP協定では、米国抜きでは発効できません。

 上図のとおり、TPP協定は、署名から2年以内に参加する12カ国すべてが議会の承認など国内手続きを終えれば発効するが、2年以内にこうした手続きを終えることができなかった場合には、12カ国のGDP85%以上を占める少なくとも6か国が手続きを終えれば、その時点から60日後に協定が発効する、これが発効要件です。

 2016年2月4日が環太平洋経済連携協定(TPP)の参加12カ国の閣僚らによる協定署名の日でした。日本のGDPと米国のGDPを足し合わせると、この2国だけで加盟国の全体の78%に達するため、日本と米国のほかにGDPが比較的大きな4か国が手続きを順調に終えれば、TPPは2018年4月に発効することになります。

 これは、GDP比率が60.4%である米国が議会承認手続きをしない限り、TPPは発効し得ないことを意味します。

 ただ、この発効要件規約を改訂さえすれば、米国抜きの11ヶ国だけで先にTPPを発効させることは不可能ではありません。トランプ勝利後。早速、メキシコの経済大臣は、規約の変更によって11ヶ国で発効の道を検討することに言及しました。

…トランプがビジネスマンであることを考えれば、そして、TPPがアジア太平洋地域における米国にとっての地政学的なメリットだけでなく、米国のビジネスにプラスであることに気がつけば、米国も乗ってくる。そのとき、駆け引きで米国にさらに有利な形に変えろと言われないためにも、現行の形でスタートしてしまう。入りたいなら、まず、ここに入れ、中身の交渉をしたいなら、まず、ここに入ってからだ。デファクトスタンダードがもうできている。…

 そうなれば理想的ですが、この道は決して容易ではありません。

 第一に、発効要件改訂のためには、本体の現行協定と同様、各国における議会手続きが必要です。米国と色々なディールをしての協定ですから、「米国抜きで発効できるような改訂」となると、そもそもの交渉の趣旨は異なってくるとして、各国政府が議会への説明に苦しむことが予想されます。

 この問題をクリアーするためには、いずれ米国が参加することを前提にしつつ、参加が遅れた場合であっても、11カ国だけで発効させ、米国の参加を待つ協定であるというスタンスを明確にする必要があるでしょう。

 第二に、すでに11ヶ国の中から、早速、中国への傾斜を示す国がいくつか現れているという問題です。

 前図のとおり、メキシコは11ヶ国での発効を提起し、ニュージーランドはすでに議会手続きを完了させたのは心強いですが、米国が参加しないならと、ペルーは中国、ロシアを含めた協定へ、豪州やマレーシアは中国主導の貿易協定参加へと傾斜、ベトナムは参加そのものに否定的という構図が生まれてしまいました。

 これに対しては、12カ国でのペルーでの首脳会議で、各国が国内手続きを加速させる方針でいったん合意されたものの、GDP比率6割を占める米国市場に期待していた国々にとっては、それに代わる市場として中国への誘惑には抗しがたい状況が続くことは否定できません。

 実は、このことが最大の問題につながります。

 

●世界のルールメーカーとしての日本へ

 私は5年ほど前に、南太平洋にあるバヌアツ共和国を訪れたことがあります。

…街を走る自動車はほとんどが中国製、それより数年前までは日本車が中心でしたが、それにとって代わった。政府の建物は中国からの無償資金で整備され、連日、中国からの訪問団が政府首脳などを訪問、銀行も中国系…。

 かつては英仏の植民地だった同国も、今や経済的には中国の支配下にあることに、恐ろしさを感じたものでした。

 日本人が長年かけて育てた植林事業も、中国資本は買収を狙っていましたが、その場合、パーム油製造のために環境負荷を高める事業となりかねません。港湾整備も、日本のODAよりは中国の民間資金でとのオファー、バヌアツの港はかつて、冷戦次第にソ連が支配権を狙い、米国がこれを阻止した経緯があります。米国がフィリピン基地から撤退したあとに太平洋地域に生じた空白を、中国が埋めようとしている姿も確認されました。

 その後、どうなったかはフォローしていませんが、アジア太平洋地域の現場では、この地域に「中国が主宰する国際秩序」が着々と形成されていることを示す実例です。

 これを阻止するためにも、11カ国でTPPを発効させた場合、今の協定案のまま、米国の参加を待つべきでしょう。改訂すると、そこに中国などが入ってくるオープンシステムになってしまう可能性があります。

 まずは、自由経済圏によるルールを固め、それを土台として、将来のAPECワイドの秩序を形成していくことが求められます。

 現行のTPPであれば、国営企業中心体制で「国家資本主義」の中国は参加が困難です。中国に自由市場経済と調和する改革を迫れるようなTPPであるべきです。

 当面は米国抜きなら、TPPでのルールメーカーとして、日本は日本主導の経済圏創りを目指せないことはないかもしれません。

 日本が世界の課題解決を先導することで創られていく「日本新秩序」を、「世界新秩序」にと向かわせる最初の制度的契機になれば、理想的でしょう。

 ただ、経済圏構想については、中国主導のRCEPをどうするかという問題があります。他方で、欧州との間では、日・EUの経済連携協定(EPA)交渉もあります。

 日本の選択はどうあるべきか。この問題、次回もさらに論考を進めたいと思います。

 

 松田まなぶのビデオレター、第50回は「「トランプ現象、日本は自立とリーダーシップを!」。チャンネル桜、11月22日放映。

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 トランプが次の大統領に決まり、米国がTPPを承認するのは絶望的となる中で、なぜ日本は関連法案成立にこだわるのか、そんな声が聞かれます。

 このTPPには、米国主導、米資本の利益といったイメージがもともと強いようですが、私はかねてから、「米国が」という発想ではなく、「日本が」という発想で、TPPを捉えるべきだと論じてきました。

 私が予想していたとおり、交渉参加国の中からは、まずは米国抜きでも、発効要件の規定を変えて、TPPを発効させるべきだという声が出てきました。

 日本がなぜTPPにこだわるのか、そこには国益をかけた大事な理由があるからです。

 

●中国が主宰するアジア太平洋秩序の形成

 TPPとは、そもそも我々日本が「中国が主宰するアジア太平洋秩序」のパーツに組み入れられることを容認するのか否かの大問題に関わるものとだと思います。

 「偉大なる中国」の復活をめざす習近平は、ユーラシア大陸、及び、その周辺海域を包摂する「一帯一路」構想を提唱していることはよく知られています。

 これは、中国が世界経済の中心だった古代シルクロードの再現として、アジア、欧州、アフリカ大陸にかけて、交通網などのインフラ整備を切り口に、陸海にまたがって、

(1)「シルクロード経済ベルト」(①中国⇒中央アジア⇒ロシア⇒ヨーロッパ、②中国⇒西アジア⇒ペルシア湾⇒地中海、③中国⇒東南アジア⇒南アジア⇒インド洋)、

(2)「21世紀海上シルクロード」(①中国沿海の港⇒南シナ海⇒インド洋⇒ヨーロッパ、②中国沿岸の港⇒南シナ海⇒南太平洋)

を通じ、ルート沿線60カ国、人口で44億人(世界の62%)、GDPで21兆ドル(世界の29%)の巨大経済圏を構築しようとする構想です。

 現に中国は、ベトナムなど周辺諸国と積極的にFTA(自由貿易協定)を締結する動きを進めています。

 そこからさらに、太平洋に向けては、米国との間で「新型の大国関係」を構築することを米国に提案しています。広大な太平洋を西と東とで中国と米国が分割統治しようとする発想が透けて見えます。

 

これに対して、米国は「法の支配」を主張しています。南シナ海問題を巡り、この点で日米が共通の利害を有することは言うまでもありません。

この構造は、TPPも同じです。TPPに参加しなかった場合、それが地政学的にも経済的にも国益に大きく反するのは、日本も米国も同じです。

 

●国際経済秩序形成の扇の要

 いま、世界では、国際経済秩序の形成に向けて、大きく言って3つの流れが動こうとしています。

 一つは、環太平洋、すなわちTPP。これは日米が主導して、将来、APECワイドでFTAAPを形成し、中国やロシアまで取り込んでいく可能性を秘めた経済圏構想です。

 もう一つは、TPPが挫折すれば、アジア太平洋を中国が主導する枠組みとなりかねないRCEP、すなわち、ASEAN+6(日中韓、豪州、NZ、印)です。

 さらにもう一つが、日米欧です。米国とEUとの間には、TTIPという大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定構想がありますが、日本とEUとの間でも、EPA(経済連携協定)の交渉が進むかどうかという局面にあります。それはTPPの成功次第と言われてきました。簡単な道ではありませんが、この2つが結び付けば、壮大な経済秩序になります。

 以上3つのいずれの経済圏にも属しているのは、世界の中で日本だけです。日本は国際経済新秩序の形成において「扇の要」の位置にあります。これは日本のチャンスです。

 

 環太平洋の秩序形成を目指すTPP交渉に参加してきた12カ国のGDPは世界のGDPの4割を占めますが、これら12カ国に占める日米のGDP比率は78%です。

 まるで日米FTAだ、米国の狙いは日本だ、と言われることがありますが、そうではありません。

 そもそも米国がTPP交渉に参加した動機は、日本以外のアジア太平洋諸国でした。

 よく、日本は交渉で米国にやられると懸念されてきましたが、日本への内政干渉にも近かった、かつての日米構造協議などを連想した知識人も多かったようです。

 多国間交渉というマルチの場は、国と国との間の力関係が大きく左右する二国間交渉(バイ)とは大きく異なります。アクターは多数、一国一票で平等な国連のようなもので、その複雑な方程式の中で、小国も堂々と米国と戦いました。

 ですから、TPPがダメになるなら米国とFTAをやればいいという人がいますが、FTAよりもTPPのほうが、日本にとっては有利な結果になっているはずです。

 

 そもそもTPPの原型は、シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイという4カ国で進められていた自由貿易の枠組みで、この「P4」に米国が加わってきたものです。

 その後、参加国が増え、TPPという枠組みで9カ国が交渉をするようになりましたが、当時、オバマ大統領は米国の「輸出倍増」を唱えていました。

 近年、米国の輸出における日本のシェアは5%程度にまで低下し、9カ国で交渉していたときの米国の他のTPP参加8カ国に対する輸出のシェアは7%と、日本を抜いていました。

 これら8カ国が力強く成長する国々なのに対し、成長率が低下し、人口も減少している日本の場合、そこへの輸出を増やしても、とても「輸出倍増」などできません。しかも、日本ではすでに工業製品の関税はほとんどなし。交渉しても大きな成果が期待できるマーケットかどうか疑問だったでしょう。

 米国がTPP、そして、将来のFTAAPで狙ってきたのは、成長するアジア太平洋地域であり、その中で日本の存在は縮小してきました。この米国の狙いと同じ立場に立つのが日本です。

 日米はこの点で利害を一にしているはずです。

 

●TPP興国論

 私はかつて、衆議院議員に当選する少し前の2012年の春に「TPP興国論」という本を上梓しました。

 このタイトルは、当時出回っていた「TPP亡国論」という本に対抗したものでしたが、亡国論が20万部売れたと聞いているのに対し、私の興国論は2万部程度。それでも、私が書いたいくつかのお堅い本の中では売れたほうで、当時の山口壯・外務副大臣が書店でみつけて、外務省にチェックさせて内容の信頼性にお墨付きまでいただき、また、私の国会質問に備えてか、各省庁の書店にも随分と置かれていたようです。

 ただ、この本を出すには勇気も要りました。当時は保守系の方々の中でTPPへの反対論が強く、私が属していた「たちあがれ日本」でも皮肉られたことがありました。

 しかし、私がこの本で立脚していた立場は、まさに保守勢力が追求しているはずの独立自尊の強いニッポン国であるのは、お読みいただければわかります。

  真の国益とは何かを論じる上で大事なのは、自国と自国を取りまく状況についての冷静な事実認識です。TPPには誤解に基づく反対論が極めて多かったので、それを解消することも本書の狙いの一つでした。

 例えば、TPPとは日本の「開国」ではないということです。

 TPPに最初に言及したのは菅総理でしたが、その際に「開国」という言葉を使ったのがミスリードしてしまいました。

 逆です。日本にとってのTPPの意味とは、アジア太平洋諸国を日本に対して開国してもらうことです。日本から海外に進出する事業や投資を促進し、保護するということです。

 日本は世界で最も開かれた、完成度の高い市場が中心の国家です。

 モノの平均関税率は世界一低い部類。私が中曽根政権のもとで携わった「アクションプログラム」では、工業製品はほとんど全部、関税撤廃されましたし、基準認証や政府調達、金融市場など、これだけよくぞ、内外無差別原則を徹底させたものだと感心したものです。

 長年にわたった欧米との経済摩擦を通じて、政府ができる措置としては、日本は高い開放度と公正で洗練された市場制度を、ほぼ実現し終えています。

 TPP以前の問題として、私は、むしろ日本は開かれ過ぎているようにすら感じます。日本の各所にどんどん外国勢が入っています。

 企業や社会の閉鎖性などがよく指摘されたものでしたが、それはTPPが対象とするような政府の措置ではありません。

 農業やISDS条項など、議論を呼んでいる各論は別の機会に論じますが、全体としてみれば、TPP交渉への参加とは、世界で進む各分野での国際スタンダードの形成に、日本の国益を反映させる、あるいは国益を守るための場を得ることであって、日本が参加せずに、別の場所でスタンダードが形成されて、これを事後的に受け容れることのほうが、より大きな国損を招きかねないと考えるべきものです。

 現に、某国際機関は、TPP交渉結果で最も利益を得ることになった国は日本だと指摘しています。

 

●ザインとゾルレン、グローバリゼーションとグローバリズム

 TPPとは、多国籍企業や米国巨大資本の利益に奉仕する「グローバリズム」なのだと言われます。今回、トランプが支持されたのも、格差拡大の原因の一つであるグローバリズムに対する米国社会に蔓延した反感ということが要因の一つでしょう。

 しかし、「弱肉強食」のグローバリズムの「強食」にもルールの網をかけるのが「法の支配」であり、全てのパワーを国際的に合意されたルールに従わせようという志向を持つのがTPPであるという面も否定できないと思います。

 これはカネの力で支配圏を拡大している中国勢に対する対抗軸にもなります。明確な国際秩序の構造物が先に構築されていれば、そして、それが多くの国をカバーするものであれば、中国企業もそれに従ったほうがビジネスが円滑になるはずです。

 かつて、事業の国際展開をしてきたのは日本でも大企業でしたが、いまや、地方の中小零細企業にとっても、自ら直接、サプライチェーンで海外と円滑につながることが死活問題になっている時代です。これは、これからの日本の農業も同じです。

 自ら海外に商機を見出さねば生き残れないと多くの中小企業経営者が自覚するこんにち、対外取引や海外事業や対外投資を円滑化し、利益を確保して還流させ、国内に所得と雇用の場を生むことに資するのが、TPPで定める「法の支配」であります。

 ここで大事なのは、「事実はこうだ」、つまり「存在」、ドイツ語ではSein、と、「かくあるべし」、つまり「当為」、Sollen、とを、明確に区別することです。色々な議論を聞いていると、この両者を混同している場合が極めて多いように思います。

 「グローバリズム」は、「イズム」であり、主義であり、価値観です。

 これに対して、経済の必然的な流れとして後戻りできない形で世界的に滔々と進んでいく「グローバリゼーション」とは、誰も押しとどめることができない、また、押しとどめれば破局に至るような「事実」であり、ファクトです。

 もはや、世界経済の循環構造そのものになり、身体でいえば血流のような存在です。止めると大変なことになります。

 Seinの世界で必然であるなら、流れに乗った方がトクです。

 しかし、流れに押し流されてはいけないということだと思います。必然の流れの中で自分の立ち位置をしっかりさせる。

 そこに、『イズム』があるのだと思います。

 だからこそ、グローバリゼーションという事実が進んでいく流れにうまく乗り、それを活用しつつも、逆に、イズムの次元では、「グローバリズム」に対抗して「国民国家意識」というSollenを強めるべきなのだと考えます。

 独自性を創出し続ける能力や営みを「コア・コンピタンス」と言いますが、それがあってこそ、世界大競争時代にあって日本は本物の競争力を身につけられるということは、言われて久しいことではないでしょうか。

 日本はそうした営みで各分野で世界一を築いてきた国ですし、これからも、考えようによっては、それができるだけの潜在力が十分にある国だというのが、私の興国論の基調です。

 関連法案は与野党攻防の紆余曲折を経て、ようやく衆議院を通過しましたが、国会審議を通じて国民に見えていたのは、TPPが政争の具となっている姿ばかりでした。

 参議院で中身についての実のある本質的な議論がもっとなされることを期待するものです。

 

松田まなぶのビデオレター、第49回は「TPPで独立自尊の強い日本へ!。チャンネル桜、11月8日放映。

 

 

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 「大方の予想」が相次いで覆る。英国の「ブレグジット」に続き、米国では「トランプ276」、勝利確定の票数276票、これで、2(日本は)、7(泣く泣く)、6(無理を聞く)にならないことを祈ります。

 あるシンポジウムで米国の世論調査の専門家であるブルース・ストークスさんという方が、

…自分たちが子どもだったときの母親は専業主婦だったのに、今や職場では女性が進出して大活躍、50年代の偉大なるアメリカの時代まで黒人はバスに乗れなかった、いまや同性愛者たちまでマイノリティーではなくなった、そんな米国社会の変化についていけないと感じている白人男性たちの『時計の針を巻き戻せる人間』への期待がトランプ現象につながった…

という趣旨の指摘をしていました。

 もちろん、権利平等を進めてきた米国は正しいことをしてきたのですが、人間の深層心理には、建前では割り切れない非合理な面があることが如実に現われたのかもしれません。

 その是非はともかく、こんな、人には公言できない本音が、世論調査ではつかみきれなかったようです。聞かれて、トランプ支持とは言えなかった米国人が多かったとのこと。

 しかし、それが「民意」になったとすれば、それだけ、格差拡大、実質所得の低迷など、米国民の閉塞感が強かったということでしょうか。

 既成の政治やエスタブリッシュメントたちに対する不信と言われていますが、かつて「チェンジ」を唱えたオバマのときもそうだったように、国民が変化を求めるとき、それを投票のかたちで体現できる民主主義のダイナミズムが米国にはあると受け止めるべきなのか。

 最近、インテリ層は、世界的な民主主義の危機をさかんに議論していますが、ポピュリズムをいくら嘆いてみたところで、合理よりも感情で激動していく世界の潮流には無力にみえます。

 これにどう向き合うか。不確実性が高まる国際社会、これで「世界の警察官」がいなくなるとすれば、日本の安全保障は米国依存がますます許されなくなる。

 保護主義が強まっていくとすれば、海外の成長に活路を求めねばならない日本は、まずはTPPを批准するなど、あえて自由貿易の先導者としての存在を国際社会で築いていくのか。

 軍事はシステムで動いていますので、日米同盟がここまで機能的に一体化している以上、いくら大統領といえどもシステムまでは簡単に変えられませんから、急に物事が大きく変わるわけではないでしょう。メキシコとの間に万里の長城など実際には作れないでしょう。

 選挙時の公約と、政権をとってからの実際の政策との乖離について、国民が納得できる説明をするのも政治家の重要な仕事だと言いますが、トランプの大きな仕事がこの仕事になる可能性もあると思います。

 ただ、長期的には大きな変化の始まりもしれません。

 いずれにしても、トランプ大統領の誕生は、日本人に、自立的な戦略思考に向けた覚醒を促しているように感じます。

 写真は、英国に詳しい宇田信一郎氏と英国EU離脱について議論した某勉強会の場です。ブレグジットは自国の新しい立ち位置へと、英国民が自ら選んだ運命だと申し上げました。

 大衆民主主義の時代は、国益とは何かを決めるのも大衆。

 それだけに、民主主義に向き合う政治家の資質が世界的にもますます問われる時代になったのではないでしょうか。

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