前回までのあらすじ↓



新卒早期離職者が制作ADになって、

過酷で悲惨な目に遭う。



 

 

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以下本編↓



退職届を提出した日、スタジオで独りの時に高校時代の友人にケータイで電話した。

「俺、AD辞めるよ」

そうしたらこう言われた。

「おいwww、それじゃぁお前、また『オナニ~トw』に逆戻りじゃねぇかよwwwww」































カチンときた。

「てめえに何が分かるんだよ!

 

 

あっ!?ざけんじゃねえぞ!!」

無人とはいえ編集スタジオの中にも関わらず、ケータイ越しに怒鳴ってしまった。



「オナニ~トw」というのは彼の造語で、

「オナニーしかやる事のないニート」という意味だ。

新卒の会社を辞めた直後も俺はよく彼から、

「おぃ~、働けよ~、オナニ~トw」と、

 

 

言われて馬鹿にされていた。



サラリーマンとして平日会社勤めしている彼からしたら、

会社を辞めた後、役者と自称しておきながらテレビドラマのエキストラしかやらせてもらえていない同年代の男は、腹立たしい存在だっただろう。



しかし、一流会社に勤めている彼に、鉄鋼下請けや、テレビ局の孫請け制作会社で働く人間の悲惨なまでの苦労、屈辱が解かるのだろうか?



そりゃ、一流会社だって仕事は忙しいだろう。

しかし、下請け・孫請けはもっと忙しい。

仕事のペースも、元請けである一流会社中心で回る、というか振り回されて心身ともにボロボロになる。



それに、一流会社社員はペコペコ頭を下げられる立場だ。

それに比して、下請け・孫請けは彼らにペコペコ頭を下げる立場だ。

その屈辱は計り知れない程だ。

優秀な技術者、医者、弁護士、学者、芸術家なら頭を下げるのは当然の礼儀だと思う。

しかし、馬鹿な癖にコミュニケーション能力はあるとかほざくFランのコネ野郎等にペコペコするのは耐えられない。



そして一流会社の落ちこぼれ社員の方が、下請け・孫請けのエースよりも、収入・社会的地位ともに高いという現実には納得できない。



「社会人なんだし、そのぐらい我慢しろよ」と思う奴もいるかもしれない。

でも、































そんなの我慢できねえよ!

そんな世の中、絶対間違ってるだろ!!

頑張った人間が頑張った分だけ報われるのが、正しい世界なんじゃねえのか!?































退職届提出の2日後、制作会社の経理の人からケータイに電話があった。

「ADを辞めるのは仕方ないけど、あなたが役者になりたいっていう気持ちをすごく感じたから言っておくわよ。

 

 

(制作会社の)社長を怒らせたらダメよ。

 

 

あの人、業界にすごい影響力を持ってるから、将来テレビ(ドラマ)の演者になりたくてもなれなくなっちゃうから」

憔悴し切っていた俺は言った。

「はい、わかりました...」

































制作会社の経費の立替分の精算が終わった後、岩手へ傷心旅行に行って来た。

ボロボロになっていたココロとカラダを、少しは癒やせた気がした。





そして、旅行から帰って来て、テレビドラマのエキストラの仕事を再開する。

バラエティー番組は嫌いになったけど、

映画、ドラマは今でも好きだ。





ADを辞めてから半月程経ったある日、父親から、

「お前、(制作会社を)辞めてから何をやってるんだ!?

役者になりたいなんて許さんぞ!!

どうやらお前は、ネットカフェ難民やホームレスにならなきゃ目が醒めないようだな!!

再就職する気がないなら、家から追い出すぞ!!!!!」

と怒鳴られて説教される。





辛かった。

しかし焦って民間会社に再就職しても、ロクな会社に入れないだろう。

またサラリーマンを選んだらエリートビジネスマンではなく、社畜として余生を送るハメになるかもしれない。

それでまた退社してしまったら、履歴書はボロボロだ。

転職期間中に「オナニ~トw」とか言われて馬鹿にされても、怒る気力すら持てない程に絶望しているだろう。



かといって、家を出て都内で貧乏生活をしながら役者一本で生きる度胸もないし、それはあまりにも無責任過ぎる。

役者の収入だけだと将来家庭を持ったときに、こどもたちを養えない...

そんなの最低の男だ。

これからどうしたらいいのか、途方に暮れた(つづく...)

 

 


 

 

 

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