中小企業診断士 山崎勝雄の部屋

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新潟県長岡市を中心に活動する中小企業診断士です。
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ファクトフルネスが ファクトフルネス出ない件 (その1)からの続き

3.なぜ的外れなのか?

 そもそも、利益剰余金とはどう計算されるものだろうか?

 簡単に言えば、企業が生まれてから、その時点までどれだけ利益というものを溜め込んだのかという累積の数字である。

 「それなら〇〇さんの言っていることはあっているじゃないか」と言われるかも。確かに利益を積み上げてきたと読み取ることは正しい。

 しかしながら、利益の積み上げた金額が、そのままいつでも使える現金ではないというのが会計システムの常識である。

 

 企業経営者がこんなことを言い出せば会計士さんや税理士さんは それは違うよ ちゃんと勉強しなさいと 諭されると思うほど基礎的な事である。

 

 企業は、利益を元に現金が増加するとも言えるが、儲かった現金はそのままにはしておかず、投資という行為で、設備や土地や建物に変わったり、借金の返済に回るのであって利益そのものが現金として存在するわけではない。これも企業会計の常識。

 

それを示すヒントが同じ法人企業統計に記載があった。

法人事業統計 201910-12 PDF 9/22ページ

第7表 資金関連項目の推移 単位:億円

大分類

中分類

201910-12

借入金

短期借入金

         1,611,218

 

長期借入金

         2,618,162

現金相当分

現金・預金

         2,026,702

 

有価証券

           158,734

 

これをどう読むか。

A)      現預金 202.6兆円 今すぐに現金化できそうな有価証券をあわせても、218.4兆円が自由になるお金として所有していることになる。

B)      ところが、借入金の合計は、423兆円ある。218.4兆円はすべて企業が稼いだお金ではなく、その倍くらいの借入金で構成されているのである。

C)      企業とは稼いだお金を設備などに投資して更に増やすという行為をするのだから、現金だけがどんどん積み上がり、投資をしないのは甚だおかしいのである。

D)     家計に例えれば、現金 218万は手元にあるけど、借入金が432万ある状態である。昔稼いだカネは、車と家に使ってしまい(企業なら資産)、もはや今は現金では存在していない。借金が今の持ち金の2倍もあるのに。その手許現金が多いから、社会を救え、寄付しろ と言われたら 「何いってんだよ」と言いますよね?

 

.ファクトフルネスを実践するには

 ファクトフルネスという姿勢は確かにいい考え方である。この雑誌では、「正しい情報を入手するべき」と書いてあるがそれもその通り。

 しかしながら、ファクトフルネスを実践する際に注意しないといけないことを追加するならば下記である。

l  数値を構成している言葉はどんな定義であって何を示すのかを明確にする。

l  統計データを扱う際には、傾向とともに統計誤差をあわせて考えること

 様々なデータが飛び交う時代だからこそ心がけるべきことではないのだろうか。

 ちなみにこの主張に沿った政策案が報道にも出てこないということは政府の中枢の方々は 内部留保を活用する説があまりにもおかしいことを、ご存知だとも思える。

 そうだとするならマスコミの方々の勉強不足ということになるのかなぁ。

ある雑誌の記事を見ていてあれ? と思うことがあった。

少し前になるが、別の経済学者さんも同じような事をおっしゃっているということをYAHOOニュースで見ていて(少し前のためURLまで示せないが・・) なんだかおかしいなと思っていたのだが、またも同じ発言に遭遇してびっくり。

雑誌名や発言者については明記しないが、有名な経済雑誌であり、発言者は有名なニュース解説者である。

1.概略

雑誌の特集は「ファクトフルネス」

  正確なデータと事実に基づいて世界を正しくみる習慣をつけようというのがファクトフルネス。この特集として有名ニュース解説者とある人の対談形式の記事。

以下、「」部分は記事そのまま。

(著作権にひっかかるのかな・・ でも事実を伝えるべきと判断してそのまま記載)

〇〇が ニュース解説者

============================

内閣支持率について、読売と朝日で何故違うかということに対して

「〇〇:新聞に中の方のページには、そうした調査方法と質問内容が載っています。

    そこを見なければなりません。つまり結果だけでなく、必ず元データに当たる

ことが肝心です。

============================

たしかにその通りだと思います。定義を曖昧にした数字ほど危ないものはないですから。

 

============================

”ニュース・データの見方、使い方、落とし穴”

コロナウイルス対策として・・・

「いま活かされる膨大な内部留保

〇〇:国内に話を戻すと、リーマンショック以降、日本企業の内部留保が多すぎるという話がありました18年度に463.1兆円に達しており、「なぜそんなに溜め込むんだ。儲けは株主に還元せよ」とか、「従業員の給料を上げろ」とかという批判に対して、企業は「先が見通せないから、念の為に溜め込んで置くんです」と言い訳してきました。

 その貯めこんだ現金を今使えば、雇用が確保できるはずなんです。」

============================

 その裏付けなのか、内部留保の統計グラフが記載され、その出典が、法人企業統計とある。

 (ところが何年の統計かまでは明記していない)

ちょっと待て! 内部留保だの現金があるだのと言っているが本当か? と思って調べてみた。

2.調査した結果

 〇〇さんが言う通り、法人企業統計という元データをあたってみる。

 最新の法人企業統計 はhttps://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/results/2019.10-12.pdf にある。

 これは財務省の文書で、企業の損益や資産、負債、純資産といった確定申告で出すデータを集計したものらしい。

 細かい資料なので隅々まで呼んだわけではないが、なんとその資料には「内部留保」なんて言葉は出てこない。

 

 関係しそうな部分だけ抜き出して書いてみる。(PDFが保護されていてコピペが効かないので必要部分だけ抜き出して記載した。)

法人事業統計 201910-12 PDF 22/25ページ

1.全産業 資産・負債・純資産、及び 損益 単位:億円

大分類

中分類

201910-12

純資産

資本金

         1,000,531

 

資本剰余金

         1,646,180

 

利益剰余金

         4,792,052

さて、内部留保なるものはどこを示すのだろう・・。2018年の数値を見ていると、どうも利益剰余金の部分がそれらしい金額である。

 

仮に、「内部留保」なる言葉が、企業の「利益剰余金」だとするならば、〇〇さんの指摘は全くもって的外れである。

この事は、企業の帳簿(というか、貸借対照表と損益計算書という会計のシステム)をちょっと知っている人ならすぐわかることである。

 

その2に続く

久しぶりに真面目な投稿
改めて危機管理で大切なこと

2020年4月。
新型コロナウイルス感染拡大を如何に抑えるかで世界中が困惑している。
東日本大震災から9年というタイミングと重なって新型コロナの対応で日本中右往左往している。。
改めて、危機管理とは何なのかを考えさせられる。
個別の支援のときには必ずお話していることだが改めて整理してみたい。
ただし、企業を中心とした話題としていることはご承知願いたい。

1.時間との戦い
1.1 相手は誰か?
 リスクという面で言うのなら、戦う相手はコロナウイルスや災害に見えるが企業が直接それらと戦うわけではない。
 正しく時間と戦うことを優先すべきである。

1.2 時間との戦いに勝つには
(1)意思決定の速度
政治にしても会社にしても民主的な運営が近年のトレンドである。
 この事は平時のマネジメントとしては有効だと私自身は理解している。
 しかしながら、危機の時 戦う相手は時間なのだから、まずは時間を基準にすべきである。
  慎重に吟味して正しい(らしい)処置をするのがいいのか慎重さに目をつぶってでも状況情報から判断することがいいのか は迷うことだろうが、過去の研究では、後者のほうが良かったという結論なるケースが多い。このことは理解していただきたい事項である。
  付け加えるならば、個別の課題を指示することではない。
  大きな方向性を、それも未来のある方向性を示すことである。
 
(2)実行と意思決定
 平時の事業活動でも、「実行」することが大事ではある。
 「下手な考え休み似たり」とお話することもあるくらいである。
 危機のときこそ スピード感を持って行動することは必須である。
  素早く実行するには、素早い意思決定は必須条件ではあるのだが
 もっと大事なことがある。
  トップレベルでの方向性を示すことがもちろん前提にはなるのだが
 「指示待ちで動く」のではなく「現状を把握しながら能動的に動く」
 ことが求められる。
  近年の企業活動では、平時でも必要な要素なのだが、緊急時は、想定外の事象が現場で起きている可能性が高いのでその「観察力、判断力、 応用力」から 尚更 重要になる。
  これは緊急時にだけそうしなさい というのは無理がある。
  普段からそういう組織の考え方にしておくことが必要であり、その準備をすることは緊急時にも平時にも成果に繋がるはずである。

 

2.資源(リソース)の偏り
2.1 起きること
 今回のコロナでも保健所や検査機関がネックになる。
 平時の資源負荷は緊急時にはかなり偏りが起きることを
 常識と理解すべき。

2.2 緊急時にすべきこと
 本来は、緊急時の負荷の偏りをどう解消するかを事前に
 準備すること。
 しかし準備不足なら、トリアージするしかない。
 トリアージは、緊急性の高いもの以外を排除すること。
 これは合理的ではあるが生命の生き死にに当てはめることはかなりきつい。

 

2.3 考えうる準備
(1)流動的な組織化
   普段と異なった負荷が発生したり、普段では考えもしない要求事項が増加する可能性があるのだから平時の体制では回るはずがない。 緊急時の体制については平時の体制とは違うものと意識すべし。
(2)マルチ人材
   組織体制がどのように変化しても対応できる人材がいなければ成果にはつながらない。
  そのためにも、緊急時には
    ・様々な事象を把握して総合的に判断できる人材
    ・「これしかできない」ではなく、「100%ではないけどなんとかする」人材が必須

(3)在庫と備蓄
   製造業が中心の話題になるが、在庫はある意味での時間稼ぎができる素材。
   平時なら減らすことが良いのだろうが減らしすぎれば危機対応時間が長くなる

(4)余力
  コスト削減は平時では考えるべきことではあるが、不要は減らすべきだが
  余力は減らすべきではない。明らかに変動要素に対応できなくなる。

 

3.事前準備がすべて
 BCPに関しては様々な情報や中小企業庁の資料などがあるが、大事なことは発生してから考えるんでは遅いということ。
 全ては準備。準備なしで危機に望んだ時点で反省すべき。
 厚労省は新型ウイルスに関しては明らかな準備不足。

 

4.危機の後どうすべきか
 企業にしてもまちづくりにしても、元に戻すと考えるべきではない。
 全く同じ状態に戻そうとする考えた時点で衰退する。
 危機の後は新しい目標に到達すると考えて、新しい到達点を目指す
 ことである。
 そのためには現在の延長線ではなく、変化を恐れないことである。