『学校納入金等取扱マニュアル』を読む(上) ― PTA会費の支払いを「親の務め」とする発想
学校教育に要するお金のうち、どの部分は公費で賄われ、どの部分は私費で負担されることになるのか。その線引きの問題を考える材料として、宮崎市教育委員会発行の『学校納入金等取扱マニュアル』を取り上げる。
このマニュアルは、平成23年4月に、「保護者の期待と信頼に応えるべく適正な事務処理に努めることにより、会計処理における事故防止や事務処理の負担軽減、さらには保護者負担の軽減等につなげて」(p.1)行くことを目的に作成されたものである。
ここでは、その問題部分について批判的に検討していきたい。
なお、先日、『学校納入金等取扱マニュアル』の担当課である宮崎市教育委員会 企画総務課の担当者氏に当方の疑問の概略をお伝えした。
その時に得られた情報についてもかいつまんで紹介していきます。
<「学校納入金」とは>
「1 はじめに」の部分で、教育長のことばとして、「学校納入金」に関する総括的な説明がなされている。
+++++++++
学校納入金は、教育活動において必要となる経費の内で、保護者が、学校教育の充実・発展を願い、受益者負担の考え方に基づいて負担している経費です。(p.1)
+++++++++
ここに出てくる「保護者が受益者負担の考え方に基づいて負担している経費」とはどのようなものか。
「宮崎市立学校納入金等取扱要綱」(平成23年4月1日制定)においては、「学校納入金」について次のように定められている。
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「第2条(1)学校納入金 受益者負担の原則に基づき、校長が教育活動に必要な実費を設定する会計」で、「児童生徒が個人用として使用する各種ドリルや指定ノート、宿題プリントなどの教材費、給食費の他、学校生活の中で具体的、直接的に受益する経費に限られるものとする。」(p.49)
+++++++++
ここでは「学校納入金」に関して「児童生徒が学校生活の中で具体的、直接的に受益する経費に限られるものとする」との限定が行われていることに注目しておきたい。
「学校生活の中で具体的、直接的に受益する経費」とはどのようなものなのかについては、マニュアルのp.3で具体的な説明が行われており(←分かりやすいです)、p.6~7にかけては、「原則として、次のものを個人負担とし、これ以外のものについては公費負担とします」との但し書きのもと、個人負担になるものが2種5類に整理されリストアップされている。
ざっと見たところ、そこに挙げられているものは「児童生徒が学校生活の中で具体的、直接的に受益する経費」という定義に合致し、納得のいくものである。
ここまでの整理を行うと、次のようになる。
原則、学校教育に関わるお金は公費により賄われる。
しかし、「児童生徒が学校生活の中で具体的、直接的に受益する経費」に関しては、受益者負担の原則に基づき保護者個々が負担する。
<「学校納入金」としてのPTA会費>
ここまでに紹介してきた「学校納入金」のあり方については多くの人の納得いくものであろう。
しかし、ここで問題になってくるのが「PTA会費」の扱いである。
宮崎市のマニュアルでは、「PTA会費」を「学校納入金」の一種と位置づけているのだ。
このことは、(あらかじめ結論的なことを述べれば)PTA会費を「受益者負担の観点から保護者が負担すべき経費」として扱ってしまっていることを意味し、看過し難い。
具体的に見ていこう。
マニュアルには、「2 学校納入金等の考え方」というパートがあり、次のようなことが述べられている(p.2)。
++++++++
学校における教育活動費の中で、学校施設設備に関する維持費や整備費、学校管理上で発生する義務的経費、また、教科指導等に伴い必要となる経費などは、基本的に公費で負担すべきものと定められています。
一方、児童・生徒が学校生活を送るうえで、保護者が受益者負担の考え方に基づき、必要な実費を学校納入金として負担する私費があります。
学校における教育活動費は、税金などの収入により賄われる「公費」、児童・生徒の保護者等が個人負担する「私費」に区分され、私費の中に、「学校納入金」及び教育活動を遂行するうえで密接な関係を有する団体による「団体会計」があります。
(色付け、まるお)
++++++++
(まるお注:「団体」には、PTA、学校後援会、○○周年事業等実行委員会が想定されている。)
第二段落において「私費」を「児童・生徒が学校生活を送るうえで、保護者が受益者負担の考え方に基づき、必要な実費を学校納入金として負担する」ものと位置付けたうえで、第三段落でその私費のひとつに「団体会計」があるとしている。
つまり、宮崎市教委は「団体会計」を「保護者が受益者負担の考え方に基づき、負担する必要のある実費」と位置づけていることになる。
(そして、狭義の「学校納入金」と「団体会計」を合わせて「学校納入金等」としている。)
先に見たような、児童生徒に具体的・直接的に還元されるものを「私費」負担とすることには問題はないと言っていいが、ここでは、「団体会計」までが保護者が負担すべき「私費」に組み入れられている点に注目しておきたい。
別の個所でも、「学校納入金等は、受益者負担の原則から、児童・生徒個人に還元できるものでなければなりません。」(p.4)などとも述べられており、宮崎市教委が「団体会計」の支払いを「受益者負担の原則」が適用されるもの、つまりは「親の務め」という観点でとらえようとしていることが見て取れるのである。
「PTA会費の支払い」=「親の務め」
とする発想は、「PTAに入らない親(PTA会費を払わない親)は負担するべきものを負担しないフリーライダー(ただ乗り人)だ」とする一部の保護者の間に根強く見られる誤った見方と軌を一にするものである。
『学校納入金等取扱マニュアル』における「団体会計」の位置付けは早急に是正される必要があると考える。
このマニュアルは、平成23年4月に、「保護者の期待と信頼に応えるべく適正な事務処理に努めることにより、会計処理における事故防止や事務処理の負担軽減、さらには保護者負担の軽減等につなげて」(p.1)行くことを目的に作成されたものである。
ここでは、その問題部分について批判的に検討していきたい。
なお、先日、『学校納入金等取扱マニュアル』の担当課である宮崎市教育委員会 企画総務課の担当者氏に当方の疑問の概略をお伝えした。
その時に得られた情報についてもかいつまんで紹介していきます。
<「学校納入金」とは>
「1 はじめに」の部分で、教育長のことばとして、「学校納入金」に関する総括的な説明がなされている。
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学校納入金は、教育活動において必要となる経費の内で、保護者が、学校教育の充実・発展を願い、受益者負担の考え方に基づいて負担している経費です。(p.1)
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ここに出てくる「保護者が受益者負担の考え方に基づいて負担している経費」とはどのようなものか。
「宮崎市立学校納入金等取扱要綱」(平成23年4月1日制定)においては、「学校納入金」について次のように定められている。
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「第2条(1)学校納入金 受益者負担の原則に基づき、校長が教育活動に必要な実費を設定する会計」で、「児童生徒が個人用として使用する各種ドリルや指定ノート、宿題プリントなどの教材費、給食費の他、学校生活の中で具体的、直接的に受益する経費に限られるものとする。」(p.49)
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ここでは「学校納入金」に関して「児童生徒が学校生活の中で具体的、直接的に受益する経費に限られるものとする」との限定が行われていることに注目しておきたい。
「学校生活の中で具体的、直接的に受益する経費」とはどのようなものなのかについては、マニュアルのp.3で具体的な説明が行われており(←分かりやすいです)、p.6~7にかけては、「原則として、次のものを個人負担とし、これ以外のものについては公費負担とします」との但し書きのもと、個人負担になるものが2種5類に整理されリストアップされている。
ざっと見たところ、そこに挙げられているものは「児童生徒が学校生活の中で具体的、直接的に受益する経費」という定義に合致し、納得のいくものである。
ここまでの整理を行うと、次のようになる。
原則、学校教育に関わるお金は公費により賄われる。
しかし、「児童生徒が学校生活の中で具体的、直接的に受益する経費」に関しては、受益者負担の原則に基づき保護者個々が負担する。
<「学校納入金」としてのPTA会費>
ここまでに紹介してきた「学校納入金」のあり方については多くの人の納得いくものであろう。
しかし、ここで問題になってくるのが「PTA会費」の扱いである。
宮崎市のマニュアルでは、「PTA会費」を「学校納入金」の一種と位置づけているのだ。
このことは、(あらかじめ結論的なことを述べれば)PTA会費を「受益者負担の観点から保護者が負担すべき経費」として扱ってしまっていることを意味し、看過し難い。
具体的に見ていこう。
マニュアルには、「2 学校納入金等の考え方」というパートがあり、次のようなことが述べられている(p.2)。
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学校における教育活動費の中で、学校施設設備に関する維持費や整備費、学校管理上で発生する義務的経費、また、教科指導等に伴い必要となる経費などは、基本的に公費で負担すべきものと定められています。
一方、児童・生徒が学校生活を送るうえで、保護者が受益者負担の考え方に基づき、必要な実費を学校納入金として負担する私費があります。
学校における教育活動費は、税金などの収入により賄われる「公費」、児童・生徒の保護者等が個人負担する「私費」に区分され、私費の中に、「学校納入金」及び教育活動を遂行するうえで密接な関係を有する団体による「団体会計」があります。
(色付け、まるお)
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(まるお注:「団体」には、PTA、学校後援会、○○周年事業等実行委員会が想定されている。)
第二段落において「私費」を「児童・生徒が学校生活を送るうえで、保護者が受益者負担の考え方に基づき、必要な実費を学校納入金として負担する」ものと位置付けたうえで、第三段落でその私費のひとつに「団体会計」があるとしている。
つまり、宮崎市教委は「団体会計」を「保護者が受益者負担の考え方に基づき、負担する必要のある実費」と位置づけていることになる。
(そして、狭義の「学校納入金」と「団体会計」を合わせて「学校納入金等」としている。)
先に見たような、児童生徒に具体的・直接的に還元されるものを「私費」負担とすることには問題はないと言っていいが、ここでは、「団体会計」までが保護者が負担すべき「私費」に組み入れられている点に注目しておきたい。
別の個所でも、「学校納入金等は、受益者負担の原則から、児童・生徒個人に還元できるものでなければなりません。」(p.4)などとも述べられており、宮崎市教委が「団体会計」の支払いを「受益者負担の原則」が適用されるもの、つまりは「親の務め」という観点でとらえようとしていることが見て取れるのである。
「PTA会費の支払い」=「親の務め」
とする発想は、「PTAに入らない親(PTA会費を払わない親)は負担するべきものを負担しないフリーライダー(ただ乗り人)だ」とする一部の保護者の間に根強く見られる誤った見方と軌を一にするものである。
『学校納入金等取扱マニュアル』における「団体会計」の位置付けは早急に是正される必要があると考える。