第二十九話 「真相」


島より南方に巨大なクジラの群れが突如出現した


丁度その頃まるで計ったように、海猫深の話はデマだとネットで炎上し始めた


報道のヘリ達は、この奇っ怪な現象に方向変換して


クジラの群れを追う方向性になっていく


よく見ると、クジラの群れの周りに、無数のイルカが飛び跳ねている


こんな現象は滅多に無いので


空足で返らずに済みそうだと


報道関係は、詩織の能力で誘導された群れに釘付けになり


次第に島から離れていった


男の提案は大胆だが緻密さも感じられた


すっかり、報道のヘリが見えなくなった頃合いに


突然、グパザルーン共和国の船の近くに潜水艦が浮上した


今まで見た事も無い変わった形をしている


まるで、未来の世界からタイムスリップしてきたかなのような


その異様な姿にそれを見た者は絶句した


その時、ガザット大佐の頭に銃口が向けられる


瀕死の状態のガザット大佐が見上げると


先ほどまで詩織に銃口を向けていた男が、彼の前に立ち銃を構えていた


「お前は一体何者だ」


ガザットが言うと同時に彼の部下が銃をその男に向けて構えたが


男は手をかざして「フリーズ」と叫ぶと部下達は止まった


正規の訓練を受けた軍人である、


そんな事で威圧されて判断ミスをするはずは無い


明らかに男が同じ軍人である事を認識して、迂闊に動けなくなったのだ


「言っておくが、私はお前達が言う特異体質だ、今能力を使えばどうなるか解らないぞ」


そう言いながら、ちらりとまるを抱きかかえている詩織を確認した


それからガザット大佐へと目を移していくと同時に


男の目は、冷徹な軍人のそれへと変貌していった


「俺は何より人に見下ろされる事が嫌いだ、撃て」


吐き捨てるようにガザット大佐が言うと


「お前に一つ聞きたいことがある、グパザルーン共和国の北東に、能力者を養成する機関が存在するデリス村が何者かに壊滅させられた」


ガザット大佐は眉一つ動かさない


「殆どの遺体がバラバラになっている事から、念動力者の仕業だと思われる、これほど強力な能力を保有する者は、グパザルーン共和国でもそうはいないだろう、しかも遺体の傍には必ずタイガーの紋章の旗が立てられている、つまりお前が犯人である事を示している」


「弱い者が強者に喰われただけの事だ」


まるで挑発するように、ガザット大佐が言ったが


男は冷徹な目でただ見つめている


「証拠が揃い過ぎている、お前は誰かに陥れられる心当たりはあるか」


ガザット大佐はつまらないと言った感じで舌打ちした


「その犯人が俺であろうと無かろうと俺にはどうでも良いことだ」


つまり、お前にそれを教えてやる義理はないと彼は意思表示しているのだ


「良いだろう、私の正体について教えてやる」


そう言うと顔をガザット大佐の近くまで移動させて囁くように言った


みるみるガザット大佐の表情は驚きに変貌していく


「バカな、frozen spiritは死んだはずだ」


「ほう、その異名はグパザルーン共和国まで響いているようだ、お前が犯人では無い事の確証を今得ることが出来た」


もし、彼が本当の憎むべき犯人であれば


自分が生きている事は知っている筈である


しかし、彼が犯人で無ければ、相手は相当の知恵者だと言う事になる


全ての罪をガザットに押し付ける事で自分の正体を隠している


しかも、そいつに辿り着く道は何処にも見当たらない


「心当たりが無いようだが、思い出した方が良いぞ、ここで私が何も得られないとなれば、お前の夢を完全に打ち砕く方へ心が傾くだろう」


「お前っっ一体何を」


怒りを露わにしても、瀕死の身体は思うように動かない


「お前がグパザルーン共和国で革命を起こそうとしている事は調べがついている、私としては別に興味の無い話だが、私はなんとしても仇を討ちたい、しかしやっとお前まで辿り着いたがそれがダミーの犯人だと解れば、私も自暴自棄になると言うものだ」


ガザットには彼が精神的に追い詰められているようには見えない


恐らく、取引をしているのだと言う事は理解した


もし、自分を陥れた相手の手がかりを見つけ出すヒントでも見つけられないなら


お前の革命の夢を完全に打ち砕くという脅しなのだと受け止めた


「どのみち俺は助からない、知った事か」


交渉の戦いはすでに始まっていた


ガザットも交渉術の訓練は受けているはずである


「安心しろ、お前はなんとしても生かしてやる、そして生きながら目の前で自分の仲間達が消えていく所を見せてやる、自分の夢が蹂躙され踏み潰される景色はさぞかし絶景だろうな」


男が冷静であればある程に真実みを帯びて感じられる


「私の戦績は当然知っているだろう、戦う限りは決して容赦はしない、一人残らずこの世から消してやる」


交渉において感情的になった方は、


精神的な主導権を相手に握られてしまうので絶対的に不利な立場に立つ


ただガザット大佐は交渉術に向く性質ではない


「お前っっ」


遂に怒りを露わに牙をむいた


「心配は要らない、お前がヒントの一つでも与えてくれるなら、私の気も変わるだろう」


つまり、何かヒントをひねり出せという事なのだ


追い詰められてはいるが、ガザットも並の軍人では無い


まして、自分が今まで生きながらえてきた目的を


こんな所で踏みにじられる訳にはいかない


そしてある事に気がついた


「お前の仕業か、あの子供らの中に特異体質がいると思わせたのは」


「その通りだ、お前達がマンションからテレポートする時、私が近くにいたので、不具合が生じて、特異体質がいると勘違いしたのだろうが、今回それを利用させて貰った」


「狡賢い男だ、まるでフィールの野郎とそっくりだ」


「私に揺さぶりをかけても無駄だぞ、奴の天才的な頭脳には、残念ながら私では遠く及ばない、彼が亡き今意味の無い戯れ言だ」


「確かに奴の方が一枚上手だと確認した、何故ならお前は奴が生きている事を知らないとみたからな」


ガザットがそう言って笑うと


今まで冷徹を貫いていた顔が驚きに歪んだ


「奴が生きているというのか」


「お前は飛んだ見当違いをしていたんだ、いやさせられていたと言った方が正確な事実だ、私を陥れた動機ではなく、お前を消すために村を一つ消し去る男の存在を考えてみるべきだった」


やはり村の壊滅は、自分を亡き者にする為だったのだと


今更ながらに痛感した男は、それでも平静を保とうとしていた


「奴が生きているとなれば、全ての謎に合点がいく、しかし奴がグパザルーン共和国で生きていたとはな」


「いや、奴は今我が国にはいない、もちろん自分の国には戻れないから、恐らく違う国に亡命して、復讐を果たす準備をしているのではないのか」


確かに、奴ならあり得る、


あの村を壊滅させた事で私を倒したとは認識していないだろう


あれは、報復したに過ぎない


私にとっての大切なものを奪う事で奴の復讐は達成されている


ならば・・・


「奴の目指すものが何なのか理解しているなら、そんなに落ち着いてはいられないぞガザット大佐、やがてグパザルーン共和国は奴によって平らげられるだろう」


「なんだとっっ」


興奮して叫んだせいで、彼は吐血した


「気が変わった、お前の夢の実現に力を貸してやる」


「お前は一体何を考えているんだ」


「ここは私と手を組んだ方が得策だと思うぞ、フィールという共通の敵の存在がいる事だしな」


「奴が俺の敵になるというのか」


「奴の敵は人間そのものだ、この地球上から一人残らず消し去るのが目的だとしたら、当然お前の国もその範疇に存在している」


「狂っている」


ガザットの言葉は島に響いた


「確かに奴の心はお前の言う通りだが、困った事に奴の頭脳は天才だと認めざるを得ない、遠からず奴はそれを実行するだろう、だからお前がグパザルーン共和国を手に入れ共通の敵と戦う準備をしなければならない、こんな所で命を落としている暇はない」


男は銃口をガザットから外して、手を差し伸べた


途端にガザットの部下達が男へ銃口を向けた


すると、そこに潜水艦から彼女たちの足下に威嚇の狙撃が実行された


潜水艦の上にライフルが光る


「訳ありで詳しくは言えないが、私にもパックボーンは存在する、お前にとって悪くない取引だと思うが」


暫くガザットは男を睨めつけていたが


観念したのか手を伸ばした


男がその手を握りしめる事によって盟約がなされた事になる


しかし、事態はこの男をしても


予測不可能な状態へと追い込まれていく


その黒い波は、まる達をさらなる窮地へと追い込んで行く事を


詩織の膝枕で寝ている今の彼女に知る由もない



つづく


第二十八話 「決着」


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ようやくクライマックスに突入しました\(○^ω^○)/


といっても今のエピソードの話ですが


サブタイトルには、まだまだ近づけませんね(--。。


続きも頑張って書いてみますねヾ(@^(∞)^@)ノ



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