外伝黒子の場合 「純粋なる悪・後編」



こうして真神というゴールドイーグルの男の盟約を結んで


中学に通い始めた時、一人の風変わりなクラスメートが絡んできた


私がほんの気紛れから、ある問題のヒントを与えたばかりに


奴はまるで友達でもあるかのように


毎日絡んできた


しかし、これほどまでに心をオープンにしている奴は見た事が無い


どうして、そんなにあけっぴろげに生きられるんだろう


世の中は邪悪で満ちていて、虎視眈々とお前を狙っているぞ


そんな事を言ってみると


彼女は大笑いした


「来るなら来やがれ、いつでも相手になってやる」


メラメラと燃えるような炎が心から今にもあふれ出てきそうに感じた


私は彼女の中に純粋な悪をチラリと感じた


心があんなに明け透けにしているクセに


とても繊細で平気で傷ついている事も感じられた


何故自分を守ろうとしないのだろう?


コイツはどうしようもないくらい自己中心なタイプだと思うのに


何故人の為にそこまで思い悩む


自分とは関わり無い単なる同級生の事で心痛めたりしていた


かと思うと


何のためらいも無く一人の教員を


確実に絶命させようとした


目の前でそれを見ながら、彼女には一切の迷いが感じられなかった


もしかすると、彼女の中に私が恋焦がれた


純粋な悪が存在しているのかもしれない


比美加のバカが阻止しなければ、私は女子中学生が


自分の倍はある男の教員の頭を割る瞬間を見られたものを


そう思いつつも、何故か比美加が彼女を止めたとき、ホッとした自分がいた


私は首を何度も横に振る


まだまだ悪としては半人前だ


もっと、純粋な悪人として生きなければならない



そう思いつつ、心が少しずつ変化しているのを感じ始めた


正義面をしている比美加は、きっと誰よりも自分の悪を自覚している


だから、彼女には嫌悪を感じなかった


「比美加、あんたは善人か」


そう言うと、なんの躊躇もなく


「私ほどの悪人はいなくってよ」


そう答えたのだ



基本的に人を信じない私にも


この比美加と、悪の権化である「まる」と呼ばれた真っ黒い人間だけは


信じられる、そんな気持ちになった


一種の同胞とさえ感じるのだ


何より、この二人の今回の宣戦布告だ


まるは同胞である比美加を助ける為に


比美加の最も大切にしている世界を叩き潰すというのだから笑える


まして、その比美加はその「まる」の深い友情に


あくまで対戦で答えると宣言した


互いに友情をかけて、相手を潰し合う


こんな愉快で面白い友情ってあるだろうか?


まさに、邪悪な二人だから起こる戦いなのだ


私としては、この二人に協力してやろうという気にもなる


どちらに味方しても良いのだが


人を抱きこむ才能に恵まれた比美加なら


そんなに多くの力は必要ではないだろう


いつも単独行動で少数精鋭を好むまるに手を貸すことにした


案の定クラスメートの大半は比美加の味方になったようだ


それにまるの思考は私にも予測が出来ない


今まで出会ったどのタイプとも違うから


一緒にいるととても刺激的なのだ


そうだ私は楽しんでいる、こんなに楽しいのは生まれて初めてではないだろうか


この二人とつるんでいると、刺激には困らない


奴らにとっても、私はまだまだ利用価値があるはずだから


今はとても良い関係で絡んでいる気がする


そんなまるがある少年を紹介した


一瞬女の子かと思った、背は小柄なまるよりは高いが


とても華奢で、はかなげなイメージがある少年は


すんなり私のパーソナルスペースの中に入っていた


「コイツには植物の気持ちが解るそうなんだ、確かテレパシーだったかな」


私は一瞬自分の耳を疑ったが


この世の中には、


実際そんな能力を持った人間がいてもおかしくないと考え方を改めてみた


「あなた、私が今何を考えているかわかる?」


彼はにっこりと微笑むと、「よく判らない」と言った


「おいまる、コイツ本当にテレパシー使えるのか?」


「人間には使わないようにしているらしい、なんか頭が混乱するらしいから」


「そんなの使い物にならないじゃないか」


「いいんだよ、今必要なのは植物と話が出来るって所なんだから」


そこまで聞くと、まるの狙いが見えてきた


「屋敷に侵入するのね」


「流石黒子は頭が良いなぁ~」


まるはまたあの明け透けな大笑いをした


コイツは自分が傷つく事を少しも恐れていない


「これだけ荒らしまわったのだから、警戒するだろう」


まるはいつものように自信満々に言うと


「警戒すると、警備が厳重になるのじゃないの?」


詩織とかいう少年が不安な顔で言った


「そこが人間の面白い所だ、意識を意図的に強める状態が続くとね、本当に起こるのか?という疑惑が芽吹く、そして長い間何も起こらないと、それは大きく育ち油断の実がなるんだよ、相手を油断させたければ、まず思いっきり警戒させることだ」


私はまたワクワクしはじめる


まるのやり口は、実にあくどい詐欺のようだ


「あれから一ヶ月そろそろ油断が実り始めている頃だろうから、収穫しに行くか」


もちろん、私は伊集院家の進入ルートをいくつかシミュレーションしてみた


空き巣のやり口を徹底的に調べ上げて


その中で最も高確率に成功するルートをまるに提案した


空き巣で最も重要視しなければならないのは、逃げ道の確保だ


私は超小型のマイクとカメラを二人につけさせた


セキュリティーは最初のハッキングの時にある仕掛けをしておいたので


遠隔操作で部屋のオートシステムは全て掌握している


こうして、二人を伊集院の屋敷に忍び込ませることに成功させた


詩織と言う少年を信用した訳ではない


しかし、彼が木の前に立つと、突然ざわざわとしてノイズが発生した


何かが干渉している


みるみる詩織の顔色が変わって行くのが


まるのカメラから見て取れた


「まる、悠里が、悠里がさらわれた、悠里は自分の意志で出て行ったんじゃないんだ」


はらはらと涙がその少年の頬から流れ落ちて行く


「やはりそうか、泣くな、どんなルートで何処へ連れて行かれたか、植物を辿って行く事は可能か?」


「うん、やってみるよ」


モニターから流れる二人の会話のなかで


「やはりそうか」と言ったまるの言葉を私は見逃さなかった


まるは、悠里が連れ出された事を予見していたのだ


一体どういう根拠でそんな可能性を導きだしたというのだろう?


しかし、今回の事件はどうやら、もっと深い闇が関わっている感触がある


面白くなってきた


やはり、まるとつるむと刺激には事欠かない


私は自然と笑みになっていく


少しずつ、ほんの少しずつ


自分の心が変化している、


ゴールドイーグルの真神との出会いと


このまるや比美加との出会いによって


私の中の何かが変わろうとしていた


この出会いが偶然ではない気がしてならないのだ



おわり



第三話 「矢部健吾のつぶやき」


第一話 「革命児の片鱗」



ありきたりな日常、特別出ない日 第一話



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とっても暗い話でした(--。。


書きながら暗いと思いつつ止まらず


黒子というキャラは私にはまだまだ見えない所あるようです


一度書いて、違和感を感じて


途中から書き直してみました


後編の黒子はより、そのキャラに近い感じです


自我が目覚めて行く感じですね


少しずつ心が変化して行く事って体験的に感じた事があります


それが良い変化なのか、悪い変化なのかは


今の私には判らないですが


きっと、人との出会いや出来事によって少なからず影響される気がしますね


今はどんなに暗い考えをしていたとしても


醜悪なものを心に抱えたとしても


いつまでも、そのままであるとは限らない


そんな気がしますヾ(@^(∞)^@)ノ



まる☆