第十二話 「ぬくもり」



プレーヤーの角は確実に縁財の額をかち割る


そのはずだった


ところが途中で止まった


「はい、そこまでよ」


見ると目の前に比美香が私の前に立ってプレーヤーを止めていた


「あなたって本当に危なっかしくって放っておけないわね」


比美香がそういうと、私から縁財を庇うように美代子が奴を抱きしめた


「お願い、この人を許してあげて」


「お前は、コイツがどんな人間か知って言っているのか」


美代子は頷きながら


「それでも、私だけはこの人が優しい事を知っているから」


信じられない位のお人好しだ


比美香は私からプレーヤーを取り上げるとバスケ部員の一人に渡した


そして両手で私の頬をビンタした


「まる、シッカリしなさい」


両手で頬を掴んだまま自分の顔を近づけてきた


「いい?力でねじ伏せるタイプの男ってトコトン追い詰められたらこうなるのよ」


彼女に促されるように縁財を見ると


まるでイタズラをして、こっぴどく怒られた子供のように


美代子にしがみついて震えている


なおも比美香の手は私の顔を開放してくれない


再び顔を近づけると


「あなたは弱いもの虐めが大嫌いだと言ったでしょ、あなたより心の弱いこの男をこれ以上責めるなら、それは弱いもの虐めではなくって」


比美香の言葉は私の心を貫いていく


「あなたは心でそれが解っているようね、自分では気がついていないでしょうけれど」


「そんなバカな」


「先ほどからあなたの頬を伝って流れ落ちているものが何よりの証拠だわよ」


私が泣いている?


言われて見て初めて涙が次々に頬を伝って落ちている事を認識した


「一体何時から・・・」


「縁財が命乞いをした当たりかしらね」


それでも彼女の手は私の頬を離さない


「まるあなたの心は強い、だから戦うならあなたと同等かそれ以上、心が強い相手にしなさい、弱いもの虐めにならない為にね」


「私より心の強い奴?そんな奴がいるのか?」


「今あなたの目の前にいるでしょ、私ならいつでもあなたと戦ってあげるから」


そうだ、こいつは多分私より心が強い


そのまま比美香は私を抱きしめた


「良かった、あなたはまだ人間にとどまっている」


そして彼女の暖かい心が伝わってきた


情けない話だけれど、私は比美香を抱きしめて泣いた


今の感情は分析が出来ない


悔しいとも、悲しいとも嬉しいとも判断できないのだ


ただ比美香だけが、こんな私を受け止めてくれている


それからもう一人、


黒子がバスケ部員達にパソコンを取り上げられているのが見えた


実は彼女とも打ち合わせしていた、


黒子は最初から視聴覚室のコントロールルームに居たのだ


そして私と縁財のやり取りを録画編集して、これもネットに公開する予定だった


プロジェクターへは彼女のパソコンに繋げたのだが


結局それを使うタイミングを逃していた


少し落ち着くと、バスケ部員達全員がここに揃っている事に気がついた


「比美香、生徒総会は?それにバスケ部のみんなも何故ここに居る?」


「実は私達のクラスメートが窃盗事件を犯してね、それだけではなくて店主はその犯人に殴られて意識不明の重体なのよ、深刻な事件なだけに生徒総会は延期になったってわけ」


「それでは上映は・・・」


「上映も、ディスクの送付もネットの公開も全て中止にしたわ」


「えええっ何でだよ」


私が詰め寄ると比美香は未だに震えている縁財を指差した


「あなたこれ以上弱いもの虐めするつもり」


返す言葉が無かった


「それにね、昨日奈津丸が私の家に訪ねてきてね」


奈津丸の奴比美香に心理操作しやがったのか?


「奴は、私に土下座したの」


なんですとっっ


私は驚きのあまり間の抜けた顔になったに違いない


「この通りだ、まるを助けてやってくれ、あいつは自分の事がまだ解っていない、もし縁財の野朗を完全に叩き潰せば、そのまま、まるの心も壊れてしまうかも知れない、俺が動けない今、まるを止められるのはお前しかいない」


奈津丸がそんな事を言ったのか


「私たちは、あの先生を誤解していたのかも知れない、もしかすると本気で生徒達と向き合っているのではないかしらね」


俄かに信じられる話ではない


「そんな先生はテレビドラマにしか存在しない」


「まぁいいわ、奈津丸の事はもう少し様子をみるとして、この件の決着をつけましょう」


そういうとバスケ部員達全員を集めた


そこには玉城真利もいる


「これはバスケ部の問題だから、あなた達に判断を委ねても良いかしら」


バスケ部員たちはみんな頷いた


「私たちはあなた達の判断に従うわ、それで良いわね、まるに黒子」


「ああ異論は無い」


私が言うと黒子は


「私はバスケ部の捕虜だから仕方が無い、少し残念だけどな」


また不思議な今の状況の解釈をしていて


私と比美香は顔を見合わせて笑った


それから直ぐに、


玉城真利は縁財の前に立った


「先生が、ご自分の教育方針を改めて、今後一切精神的暴力に体罰をしないと約束して下さるなら、私たちは今までの事を水に流します」


「解ったお前らの言う通りにする」


バスケ部員達の歓声が上がった


甘いなみんな、この男は何とか生き延びる算段をしているだけで


またやるぞ


「もしまた、みんなに暴力振るうなら、これをネット配信はして良いか?」


黒子ナイスだ、それなら少なくとも牽制になる


「そんな事は止めて、私たちはただ先生に変わって欲しいだけ、そして先生を信じる事にしたの」


当事者の玉城真利がそういうなら、引っ込めるしかない


「解った捕虜は、証拠品を渡す義務がある」


そういうと一斉にデータを消去した


おいおい、お前と言う奴はなんて潔い女子なんだっっ


あきれ返った私はふと縁財をみてビックリした


奴が泣いている


奴の腐った心にも彼女達の真心が通じたというのか?


いやいや、あれはうれし涙かも知れない


「みんな、すまなかった、これからは心を入れ替える」


「先生」とバスケ部員達が縁財を取り囲んだ


何処の青春ドラマじゃっっ


私は不愉快な気分になった


こんな奴が改心なんかするものかっっ


だけど


このことで、


比美香は私にとってかけがえの無い存在になっていると認識できた


「まる今回の事は、私に感謝しなさいよね」


むかっ腹が立つのは変わらない


「なにそれ、恩着せがましいにも程がある、あんたなんて奈津丸に動かされただけじゃない」


「何ですって、よくもまぁ恩人に向かってそんな偉そうな事言えるわね」


「何が恩人よ、変人の間違いじゃないの」


「お二方、釈放されたので私はこのまま脱走します、奈津丸の事も気になるし」


黒子はあくまで自分の解釈に従っている


私と比美香はまた大笑いした


少なくともバスケ部の暴力事件は決着がついたのだ



しかしこの時はまだ、


私たちは黒子の最後に言い残した言葉を気にも留めていなかった


しかも黒子の危惧は的中していて


斉藤奈津丸先生は最大の危機に陥っていたのだ



つづく



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いや~あと三話くらいでこの話は終わる予定ですΣ(@@;)


思いつきで突っ走り


途中で書いたものが消えるなどハプニングはありましたが


なんとか最終地点が見えてきました(Φ▽Φ)♪


実はこの小説の表現方法は


この前の小説の手助けをしてくれた友人のブログ小説を見本にしています


私のより格段に上手いですΣ(@@;)


ただ言葉や字にたくさん間違いがあり笑えます(≧▽≦)きゃははは


シミュレーションをシュミレーションと書いていたりね(ΦωΦ)ふふふ・・・・


でも読んでいて、ピアノとギターの弾き語りしているせいか


音楽的テンポやリズムが感じられるのですよ


いつかあんな表現が出来るといいなぁ~


ってか私の小説はあくまで漫画の原作のリハビリなのですけどね(--。。


肝心の漫画は格闘系なので


アメブロの規約に反する可能性があるから


他のサイトでの公開となりますけどね(--。。


後三話頑張ります\(*´▽`*)/



まる☆