第八話 「革命児の片鱗・前編~計略~」



「それでも私だけは、この人が優しい事を知っているから」


十人十色とは良く言ったものだ、


私には彼女の目に映る世界を理解する事が出来なかった


私の目に映る縁財は、自分の事しか考えない男なのだ


美代子には、それとは違う縁財が見えているのだろう



私と比美香と黒子は縁財を懲らしめる計画を立てた


私ははじめ美代子の心を感じようと思ったけれど


「美代子は、大人しい性格だけれど、決しておっとりしている訳ではないわよ」


意味深な比美香の助言は続いた


「まる、あなたには無理だわ、彼女の心を感じるなんてね」


もちろん、私は反論したけれど


「あなたはまだ、身を焦がす程の恋をした事がない、そんな人に解るはずはない」


少し前に美代子と奈津丸攻略の作戦を練る為に比美香の家に訪ねた事がある


その時、比美香には決して結ばれることのない人を想い続けている事


名家で資産家の令嬢として生まれてしまったが故に


将来はもう既に決められていて、自分には未来が無いのだと知らされた


一見恵ませた家庭に生まれ育ったように見える人でも


本当に恵まれているとは限らない


特に比美香のような性格は、そんな生き方が向いているとは思えないのだ


今時政略結婚をさせる家庭があるなんて信じられないけれど


表面化のカタチこそ変わっているが、


その実昔と何ら変わらないものも確かに存在しているのだ


そんな比美香だからこそ、美代子の気持ちを理解出来るのかも知れない


だから、彼女の腹の立つ助言に従う事にした


「日頃温厚な私でも、戦う限り徹底的に相手を叩き潰す、それでも良いな、美代子が傷つく事など考慮に入れないよ」


「美代子の後のフォローは私に任せなさい、それに彼女はそんなに弱くはない」


女子はか弱い一面はあるけれど


痛みには強く出来ている


「恋をして崩れて行く人も居るでしょうけれど、彼女はそのタイプではなくってよ」


比美香が言うと説得力を感じる


彼女の言葉に何の根拠も見つけられないけれど


それでも・・・


「あなたには判らないでしょうけれど、女は恋をする度に成長して行くのだから」


「おう、そっかじゃあ思う存分やるぞっっ」


ってか、


「私もその女だっその言葉訂正しやがれっっ」


不敵な笑みを浮かべた比美香が腕を組んで私を見ている


「解ったわ、あなたが日頃温厚って言った所を訂正するなら、私も訂正して差し上げるわよ」


目を細めて比美香がそう言うと、黒子が大笑いした


「そんな事はどうでもいい、まる作戦を言え」


「どうでも、良くないわ」


腹の立つ事に、比美香とハモってしまった


そんなエピソードを経て、私は美代子の事を考慮に入れないで


徹底的に縁財を叩き潰す事にした



この作戦を遂行するに当たり、どうしても解決しなければならない問題がある


それは、バスケ部員と鳥居美紀との確執を解消する事だ


男子と違い女子の関係が拗れてしまうと修復はとても難しい


これは難問中の難問ではあるけれど


私の場合、立ちはだかるものが大きければ大きいほど


むしろ力が漲ってしまう体質のようで


脳内のアドレナリンやスーパーエンドルフィンがダンスし始める


こんな時、私の中の奴らは戦う事が大好きだと思い知らされる


「温厚な私が温厚に見えないのは、こいつらのせいだな」


私は心の中で納得しながら、面白い方法を見つけ出した



「縁財先生、少し話があるんだけど、時間ある?」


「一体なんの話かな?」


「先生大好きって困らせたりしないから、二人っきりで」


もちろん、異性の生徒と二人っきりで生活指導室に入る事は禁じられている


「困ったな」


縁財は少し大きめな声で言うと頭を掻いた、


それは自分が如何に生徒から慕われているかをアピールしているのだが


みえみえなんだよ


「そっかぁ~異性と二人きりじゃ変な噂立つと先生困りますからね、じゃあ~綾子先生に同行して頂きましょう」


私は丁度、必死で書類を書いている美術の横嶋綾子先生の腕を掴んだ


「いや、私今忙しいのよ、見れば解るでしょ、それならあなたの担任に同席して頂いたらいいんじゃない」


という事で狙い通り、奈津丸が同席する事になった


その時の縁財の目が怪しく輝いたのを確認できたおかげで


私はある事を確信した


こうして放課後生活指導室で、二人に相談する約束を取り付けた


方法は幾らでもあるけれど


私のように性急な性格の人間は常に最短コースを選択してしまう


つまり、一つの工程で複数の事を同時進行させる癖が出るのだ


鳥居美紀と他のバスケ部員達との確執を解く為の最短な方法は


その根元となった縁財に人肌縫いで貰うのが一番だと考えた


今回奈津丸を巻き込んだのは、奴の力量を試す為なのだ


もし私の意図を理解出来ない


或いは理解しても協力しない程度の人間なら


縁財諸共この学校から追い出しても良しと自分を納得させる事が出来る


また、この事は縁財を罠にかける布石にもなっていて


同時に奈津丸の布石を更に深くて重いものにする効果も期待できる



「それで、一体何の相談かな」


縁財は冷静さを強調するかのように、クールな感じで言った


明らかに奴は奈津丸を意識している


「単刀直入に言いますね、バスケ部の鳥居美紀さんの事なのです」


一瞬縁財の顔が強張った


当然だ、今回鳥居美紀が孤立して一番焦っているのは奴なのだから


「一年の時のクラスメートで彼女とは親しいのですけれど、今ね彼女孤立しているのですよ~」


そんな事は解っているとは、決して言えないだろう


「何かの間違いじゃないのか?そんな風には見えないけどな」


奈津丸の手前、そんな事実は無い事にしたいのだろうなぁ~


「先生がご存知ないのは、解りますみんな陰で鳥居さんに意地悪しているのだから」


これなら一応面目は保たれるはずだ


「それは本当なのか?」


乗ってきた、白々しいがこの際それには目を瞑ろう


私は大きく首を縦に振ると


「でもね、私思うんですけど何とか和解出来ますよ」


「何かアイデアがあるんだな」


そうそう、のどから手が出るほど、そんな方法があるなら知りたいだろう


もし全国大会までに、部員達が鳥居美紀と和解出来れば


優勝は出来ないまでも、三位までには食い込める可能性が生まれる


少なくともこのままでは、ガタガタになって一回戦敗退もあり得るのだ


「ありますよ、私先輩達が何故鳥居さんを悪く思うのか聞いたんです、勿論本当の事を話してはくれませんけれど、何となく解りました」


私は鳥居美紀のずば抜けたセンスに


みんながついていけないジレンマがある事


それに何らかの付加がかかってしまい歪められた事


その鬱積して歪められた心のやり場に困り果てた彼女達は、


やがてその思いを鳥居美紀に対する憎悪に変換する事で


なんとか平静を保っているのだと言う事を説明した


「そこで、先生がみんなの間に入って頂ければ、少しは解消できると思うのですよ」


縁財は見る見る顔色が変わってきている


今回の事は、鳥居美紀についていけないで苦しんでいる彼女達に


鳥居美紀のずば抜けたセンスを一切考慮に入れないで


お前達の努力が足りないと、責め続けた精神的暴力によって起こったのだから


それだけではない


全国大会優勝の栄誉に目がくらんだ縁財は


何としても他の部員の強化を計ったに違いない


ところが鳥居美紀に近づくどころか、ドンドン引き離されるばかり


このままでは優勝は狙えないと焦った奴は


自分の指導不足を棚上げして、その苛立ちを


体罰というカタチで部員達にぶつけたのだ


私はちらりと奈津丸を見た


腕を組み目を綴じて聞いている


ここまで聞けば、奈津丸なら隠れた真相まで見えているはずだ


「全て縁財先生とは関係ない事なんですけど、バスケ部顧問の先生として人肌縫いで頂けませんか?」


ここからが勝負なのだ


「それで、私に何をして欲しいと言うのだ」


少し不機嫌そうに縁財は言った


当然の態度だと思う、これは奴の教員としての信念に関わる事だ


奴は間違いなく体罰を暴力とは思ってはいない


ましてみんなに発破をかけてきたのが精神的な暴力だという自覚も無い


私は遠回りにこの事実を突きつけているのだから


私の考えを認める事は明らかに自分を否定する事になる


けれど、奴の信念など恐れる程のものではない


「鳥居さんは、全国大会で今回こそ優勝したいと願っているのですよ、でもみんなの気持ちがバラバラではそれは無理だと凹んでいて、でももしもう一度みんなの心が一つになれば、きっと優勝出来ると思うんです」


ほら顔色がまた変わった


奴の信念やプライドなどはこの程度のものなのだ


全国大会優勝へ導いた顧問兼コーチの功績は大きい


私は縁財が信念によって動いていると自分で自分を誤解しているだけで


根は至って損得勘定の強い小心者だと見ている


だから今の状況になっているのだけれど


それなら、その性質を利用しない手はない


「それで、先生がね他の部員達に、お前達は良く頑張っていると褒めてあげて欲しいのですよ」


「そんな事で良いのか?」


不思議そうに私の顔を覗き込んできた


そんな事ぐらいでここまで拗れた女子達の心が収まるはずは無いんだよ


だけど今頃、彼女達への根回しは今比美香がやっている


私の並列的同時進行思考に関わったものは、


休憩する間も無いくらいこき使われる事になる


これは兄が私をそう評していった造語なんだけどね


「お前の頭脳は変幻自在で、しかも並列に複数の事を同時進行させてしまうから、お前のような奴が人の上に立つと、迷惑になる」


まったく自分の実の妹に酷い事を言ってくれる


「お前はリーダーには向かないし、ナンバーツーなど無理だ、かといって参謀にもなれない、まして人に従うタイプでもないから、俺は時々心配になる、お前は何処にいても規格外だと言われるだろうな」


そんなに落胆するなよ


「規格外っていうなら、そんな規格など叩き潰してやる、何処も私を受け入れてくれてないなら、私の居場所は私が作ってやるよ」


ほんの少し想像力を働かせれば、いくらでも方法なんて見つかるものだ


一見不可能だと思える事でも、道はあると私は思っている


縁財の問いかけに私は大きく頷いて見せた


「大丈夫ですよ、縁財先生が、彼女達を褒めて勇気づければ、みんなの心はほぐれて鳥居さんへの歪んだ想いは消えていきますよ、直ぐには無理でも多分一月もかからないでしょう」


私の言葉に反応して奈津丸が何か言いかけたが


私は目配せでそれを止めた


心理操作に長けている奈津丸の事だから


そんな事位で今の事態を解決出来るはずが無いと気がついたのだろう


一方自称熱血教師のこの縁財には


最早全国大会優勝がチラついて、冷静な判断は出来なくなっている


結局奈津丸は終始黙ったまま、二人の会話を見守るカタチになった


私にとって、今回の奈津丸の協力とは、その事にある


今バスケ部がどんな状態になっているのか


全ての原因が


縁財の精神的暴力に加え体罰という暴力によって引き起こされた事


縁財という人間が教師になる資格の有無も把握できたに違いない


縁財は私の提案を引き受けたので私達は生活指導室を後にした


「まるちょっと」


私を呼び止めた奈津丸は、縁財が見えなくなるのを確認すると


「お前一体何をも企んでいる」


「話したとおり、鳥居さんと他の部員が和解させる事だよ」


「それだけではないだろう、第一あんな事で和解なんてするとは思えんな」


「その点なら抜かりは無いよ、こんな単純な事でも用い方によっては大きな効果が期待できる」


「確かにお前なら出来るかもしれんが、俺には他に何か裏があるように感じる」


流石は奈津丸だ、私の真っ黒な腹のうちを感じ取ったのだろう


「縁財の暴力をこのままにして置く訳には行かない」


「確かにそうは思うが、これは我々教師の問題だ、お前達が動く事ではない」


「正論だけど、その教師が頼りにならないから私達が動くしかないんじゃない、縁財という暴力教師を野放しにしている、そんな学校側を私は決して信用しない」


流石の奈津丸も困った顔を覗かせた


へぇ~奈津丸は案外征服者ではなく、心ある先生なのではないか


「今回の事は俺に任せてはくれないか」


いやいや、コイツをまだ信用するわけには行かない


「もう賽は投げられたんだよ先生、私が動く時には半分以上事が果たせている、今更遅い」


奈津丸はそれ以上何も言わなくなった


この男の凄い所は、私が中学生だからといって、甘く見ない所だ


想定内とはいえ、奈津丸に気がつかれた以上急がなければならない


余り奴に時間を与えると作戦を阻止する手立てを考えられてしまう


奴も思いつけば行動は迅速だから厄介な事になるだろう


そう思いつつ私の心は高揚感に満ちていた


いよいよ、奈津丸、縁財と私達三つ巴の戦いが始まるのだ



つづく



*************************************************************



かなり長くなりましたが


実は今回、ここに至るまでに三話書きましたっっ


けれど、三話とも書き上げて公開ボタンをクリックした途端


保存できませんでしたというショッキングな表示が現れましたΣ(@@。。


私は直接一発勝負的に書いているので


当然保存などしていません(--。。


いつも、書いて直ぐ公開なのですよ~


悔しいので消えた話をもう一度描くなんてしたくないから


今回は三話分飛ばしています


そこで、三話分を一話分の中に盛り込んでみようと試みました・・・


結局三話分を一話で描くなんて無理だと気がつき


今回二話に分けました


前半部分は消えてしまったお話のダイジェストのようになっていますので


長いと思われた方は


後半の生活指導室の話だけで充分ですっっ


はてなマーク


このあとがきを読んでいる時点で全て読んでいるΣ( ̄□ ̄;)


後半も頑張って書きますね~((((((ノ゚⊿゚)ノあせる



まる☆