第七話 「天才少女~海猫深の場合~」



まったく奈津丸の奴、めっちゃ腹が立つっっ


私の布石をとうとう逆手に取り始めた


それもこれも、奴をギャフンといわせる手を考えられないからなんだけど


こんな奴に時間を与えてはダメだ


相手の出方を待っている玉ではなかった


着々と生徒達の心を支配し始めているし


この学校を支配下に置くのも時間の問題だよっっ


私がわざと負けている事を良い事に


挑発してきては、


一本とられたら相手の言う事を聞くなんてルールまで勝手に決めやがって


これは、私が負けず嫌いだという事を見抜いて


負け続けている事に苛立ちを覚えさせ心を揺さぶる作戦だと直ぐに解る


奈津丸のズルさはそれだけではない


私がそれを交わしてボロを出さなければ


そのまま、奈津丸の言う事を聞かなければならない事になる


最初からこの勝負は、理不尽にも奈津丸しか得をしないように成っている


私には奈津丸の


「早くかかってこい、それとも俺がそんなに恐いのか、しかしこのままでは俺の奴隷に成り下がるばかりだぞっがはははは」


というせせら笑いの心の声が聞こえてくるのだ


ムカツクっっ今に見てやがれ、最後に笑うのはこの私だ


私が奈津丸の手にわざと引っかかってやる限り


奴の心に刺さった布石は大きくなるばかりなのだ


つまり、奴もまた動けば動くほど自分の傷口を開いて行くリスクを背負っている


恐ろしいのはそこにある


一方それは愉快でもあるんだ


心が壊れていない限り


得体の知れないものへの恐怖を抱かない者はいないと思う


これは危険を回避する人間に備わった自然の作用なのだから


しかし時としてその恐怖に向かっていける強靭な精神力を持った奴がいる


今奈津丸はまさに、自分の恐怖心と戦っているだろう


しかしタダではやられない


まるで、自分自身と戦っている気分になる


その日は学校のお知らせや、連絡事項を


月曜日から三日も学校を休んでいる海猫深の自宅に持って行かされた


彼女の家族関係がどうなっているのか、私には判らないが


彼女は中学生なのに、マンションを買い一人暮らしをしている


不自然と言えば言えなくもない


けれど、まともな家族なんてこの世に存在するのだろうか?


そもそも、そのまともな家庭なんてものがどんなものなのかは


テレビドラマやアニメくらいしか情報が入手出来ないので


実は誰かの作った家族像をメディアなどで植え付けているのではないのか


私は理想主義者ではないので、現実をみればそんな気持ちになる


私にとって海猫は全然興味の対象外なので殆ど口をきいた事が無い



しかし結構高級そうなマンションだっっっ


海猫のマンションの前に立って最初にそう感じだ


それから直ぐに、私は入り口の海猫の部屋のボタンを押した


「はい、海猫です」


私はこの返答が不思議でならなかった


尋ねて来た者は、その人に会いにきているのだから


ワザワザ自分の名乗りを上げる必要があるのか?


宅配業者ならまず自分から名乗りを上げて確認を取るだろうし


「まるだ、あんたね無用心過ぎるよ、相手が誰だか判らないのに名乗りを上げるなんて個人情報駄々漏れじゃない」


私の言葉を聞くやインターホンから大笑いの声がした


「まる、あなたこそインターホンの前に立った時点であなたの映像は私に丸見えなんだよ」


そういうとまた大笑いしている


そうだ、私はコイツのこの馴れ馴れしい態度が好きではない


始めて言葉を交わした時ですら、まるで昔からの友達のような話し方


日本を出て海外生活が長いから、仕方ないのかも知れないけど気に入らない


「今ロックを解除したよ、私今手が離せないから勝手に部屋に入ってきてね」


コイツの事イチイチ、苛立つ


ドアを開けた瞬間から私は度肝を抜かれた


紙が散乱していて、最早廊下というものが存在しないように見える


「なんじゃこりゃ~」


よく見るとそこには絵が描かれている


一つとってみると、その世界に引き込まれていく感じがした


そんな凄い絵が秋の落ち葉の絨毯のようになっているのだ


「まる、それは試描きだから踏みつけていいわよ」


私の声を聞いたのか、奥の部屋から海猫の声が聞がした


しかし、どれを見ても完成作品にしか見えない


私はまず、その絵を整理する事から始めた


「まる、悪いけどキッチンでコーヒー入れて勝手に飲んでね、できれは私の分もお願い」


これが殆ど口もきかないクラスメートが尋ねて来た時の態度かっっ


絵の整理はまぁ~私が勝手にやっている事だけど


客にコーヒー入れさせやがって、しかも自分の分まで


私はコーヒーを入れて声のする部屋に入ると


片方の腕をもう片方の腕に絡めて、


そのもう片方の手は頬を掴んでいるポーズの海猫がいた


「決まらないのよね~」


一体何が決まらないのかサッパリだし、同じ絵が何枚も並んでいて


私には違いが判らない、まるでコピーしたみたいに同じ絵にしか見えない


しかも、その絵をみていると何だが心が温かくなっていくのを感じる


「あんた、あの試し描き一体何枚書いたの?」


「え~っとぉ~1000枚位かしら」


いやいや、見る限りダンボール五箱分は超えているから千枚どころではない


「水彩画は油絵と違って早く描けるので、いいのよ、私大好き真剣勝負な感じがして、二度と同じ絵は描けない」


いやいや、どう見ても同じ絵が並んでいるんですけど


私は二つの絵を透かしてみたりしたが、ビタッと一致したのだ


見回したがライトボックスのようなものが見当たらない


同じ絵を寸分たがわず何枚も描いているとしか思えない


「あんたこの絵を三日で描いたの?」


「え?三日?今は日曜日の朝でしょ、まだ三日なんて経ってないわよ」


「今は、水曜日の夕方だよ」


「へえ?まる、私を担ごうとしても意味ないわよ」


私は携帯のカレンダーを見せた


「えぇぇ~私また、やらかしたのねっっ」


「あんたもしかして土曜日からずっと書き続けているの?」


私は更に見渡してみると、この部屋には時計が無い


テレビもラジオすらないのだ


もしやと思い他の部屋を覗いてみたが、それに該当するものがまるで無い


「あんたって孤独死ランキング一位とれるよっっ」


「いや~私って絵を描きだすと、他の事はスッカリ忘れてしまうのよ」


忘れるにも程がある


「あんた風呂には入ったの?」


「土曜日の夜に入ったわよ」


ムキ~私は即効で風呂の準備をした、当然何も食べていないだろう


「私がおかゆ作っている間にシャワーくらい浴びなさい」


そう言うと、お粥作った


三日も食べていないのだから普通の食事をすれば胃に負担がかかる


「まる、私病人じゃないわよ、なんでお粥?ピザでも食べない?」


イライラする


私は彼女のこのデタラメな所が嫌いなのだ


「あんたねっっこの状態でピザなんて食べたら間違いなく胃を壊すよ」


「おおお、それで時々胃炎を起こすのね」


開いた口が塞がらなくなった


突っ込むところが多すぎて、一体何処から突っ込んでいいのか最早判らない


それから、私のお説教の時間が始まった


「あんたって、まったく常識というものが解ってない」


「まる~さっきから何を怒っている?」


あぁぁぁ~人の話をまるで聞いていないのかっっこいつはっっ


しかし、彼女に言った言葉は全て自分に跳ね返ってくるのを感じてしまった


そうか、コイツは私に似ているんだ


それに気がついてから、イライラの原因も理解できた


コイツを見ていると私の嫌な所を見せ付けられている感覚になるんだ


だけど、それならコイツの心は解る気がする


「一つ言っておくけど深、あんたは絵を描かせたら天才かも知れないけど、それ以外は、まるでダメ子の私のクラスメートだからね、私は特別扱いなんてしてやらないよ」


「そんなの当たり前じゃない」


そういうと大笑いしてみせたが頬から涙が次々に伝って落ちている


人は誰にも理解されなくても生きていけるし


理解されないのが当たり前になると、もう誰にも理解を求めなくなる


実際こんな事で孤独感すら抱かなくなっていく


だけどもし、天才のレッテルを貼られてしまい


子供の頃から特別扱いされて、いつも浮いている存在になっていたら


もうきっと、人との関わりすら気にしなくなってしまう


すべての人がそんな感じになるとは限らないけれど


深が私と似たタイプなら、


間違いなく今自分が孤独である事すら感じていないのだ


私は天才でもなんでもない普通の女子中学生だけれど


コイツの気持ちが痛いほど感じてしまう


多分誰にも彼女が見えている世界を理解できない


それは彼女が背負っている宿命みたいなものだろうから仕方が無い


けれど、私は彼女の友達になろうと思った


深には、自分を特別扱いしない対等な友達が必要なんだ


その事は彼女が日本の中学校に通っている事で理解できるだろう


このままでは、深は友達すら出来ないで一生を終えてしまう


「まる、なんで泣いているの、何か悲しいか?」


「それは、あんたが泣いているのと同じ理由だ」


「えぇぇ?私が泣いている?、えぇぇ?」


これだ~相変わらず苛立ちはあるけれど


少なくともコイツの事はもう嫌いではない


「いいか今日は寝ろっっ明日学校来いよ」


「OKっっコイツを仕上げたら寝るね」


「いやダメだ今から寝ろ、この絵を仕上げた頃には日曜日になっている」


「まる、いちいち指図するのね~私窮屈だわ」


体育座りしてのの字を書いている


「あぁぁ好きにしていいから、学校くらいは来いよ」


「おおおOKね」


確かに自分もそんな事言われたら例えそれが正解でも反発したくなるな


海猫深のマンションを後にして帰路を歩き出していると


あぁぁ~奈津丸の奴最初からこうなる事を計算して


深の所に私を行かせやがったんだなっっ


つまり、クラスを自分の支配下に置く為に


自分では手に負えない不思議ちゃんの海猫深を攻略する目的で


奴は私を利用したのだ


してやられたっっあいつめっっ腹が立つっっ


しかし私はもっと重大で大切な事を忘れている事に気がついた


「おぉぉぉぉプリントやお知らせを渡すのを忘れたっっ」



つづく




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まことに申し訳ありませんΣ(@@。。。


話を進めるどころか、横道に反れてしまいましたっっ


昨日は疲れたのか、早めに寝てしまったのですが


夢でね海猫深が出てきたのですよ(--。。


すると彼女の孤独が伝わってきてしまいましたっっ


こうなるともう描かずにはいられないっっ


彼女が何故日本の中学校に通いたかったのか


その理由に意識を抱いてしまったのですね~


しかし、こんな感じで各キャラたちの事描いていたら


いつまで経ってもこの話は完結しませんっっ


ここは一つ心を鬼にして


他のキャラ達が、俺も描いてくれと言わないうちに


話を進めなきゃっっ



まる☆