第五話 「葛藤」



そういえば、弟はギャンブルが大好きで


「ギャンブルの最終的勝敗は、如何に運を分配するかにかかっている」


なんて、口にしているけれど


一体何を言っているのかサッパリ判らない


だけど


スポーツの団体競技の試合をした事がある人は


勝敗を左右する流れのようなものを感じた事があると思う


追い風が吹いていたり、向かい風で厳しい状況の時もある


もちろん向かい風の時も、たった一つのポイントで流れが変わる


そんな場面を体験した事があるのではないだろうか


勝敗を決める、そんなポイントは必ず存在していて


それを如何に掴むかで、流れを自分ものにする可能性が生まれる


私は団体競技は苦手なのだけれど


無理やり何度かその試合を体験させられた事があって


その中で、漠然とだけれど、そんな事を感じていた



黒子の示した縁財先生の事を調べれば調べる程


そいつがどんなに黒い人間であるのかが見えてきた


彼は熱血教師として人気があり


生徒からも慕われ


バスケ部も都大会では常に上位を維持させてきている


表面上はそういう事になっているようだ


確かに実績は見事に積み上げている


体育の先生としても


決して評判は悪くない


ところが


時として生徒に発破をかけると言って体罰をしていたらしい


しかし誰もそれを悪く言うものがいない


一人三年生の時枝幸恵だけは


校長先生に直接抗議したらしいけれど


一週間後その抗議を取り下げている


それ以来彼女はめっきり大人しくなったらしい


恐らく何らかの方法で大人しくさせたのだろう


この問題は学校側としても決してあってはならないはずで


仮にあったとしても隠蔽する事に力を注ぐだろう


つまり校長先生をはじめ教育委員会も


これ以上の不祥事を暴露される事は


父兄や世間に信頼をなくす事に繋がるので


何としてももみ消したい所だろうから


結局学校側は当てにならないと思って良いだろう



縁財のそれは、体罰などという聞こえのいい代物ではなかった


明らかに暴力で、力でねじ伏せて


自分の思い通りに生徒を動かせる事にしか満足感を得られない


特異な精神構造をしていると感じさせた


もちろん、虚栄心がそのような体質の発端となっているのだろうけれど


困ったことに彼自身、それが正義だと思い込んでいるのだ


私は体育の授業で、わざと先生のプライドをくすぐり


体罰をするのか試してみたが


私には何もしかけて来なかった


それから、彼に体罰を受けた者達を調べてみてその理由を確信した



こいつは本能的に自分に反発しない者を選んでいる


彼に体罰を受けたものは、みんな素直で真面目で、大人しい


中には元気でシッカリと自分の意見をいう子もいるけれど


年上を敬い先生に反旗を翻す事は悪だという


常識と呼ばれた固定観念を植え付けられている生徒達ばかりである


これでは、私が最も嫌悪する弱いもの虐めではないか


この男は、私がもし体罰など受けた日には


どんな手段を使ってでも必ず仕返しをする事を感じ取ったに違いない


このように、人を選んで自分には不都合にならない相手を見せしめに


自分の正義を生徒に押し付けているのだ


余程の正義感があるものでない限り


理不尽に体罰を気の弱そうな子が受けていたとしても


その理不尽に戦いを挑む事はしないのではないだろうか


しかも、他の生徒にそれを見せ付ける事によって


一種の固定観念を植え付けている


「縁財に逆らうと酷い目にあうぞ」


この集団的マインドコントロールは、軍事力で民衆をねじ伏せる


軍事政権のやっている事となんら変わらない


しかも私のように「やられたら必ずやり返す」体質のものが


叱られて当然の事をしても


じゃれ合うような体で、流してしまう


そうしなければ厄介な事になると


キチンと計算して行動しているのだ


こんな先生のどこが熱血教師なのだろうか?


私の考える熱血教師というのは


心の奥深いところに生徒への愛情が溢れていて


時として脱線してしまう、そんな気持ちのある先生である


もちろん、生徒の事を第一に考えるなら、


当然冷静に分析して判断出来なければならない


特に私たちのように心がまだ未成熟と呼ばれる時期は


元々不安定な心がさらに揺れ動きやすい


判断を誤れば、心に大きな傷を残すことになる


残念ながら人の心を分析して判断するセンスに恵まれなかった先生は


どうしてもマニュアルに頼る傾向があると私は見ている


私はそういう先生に意地悪をしているのだけれど


私たちはここに生きている、そんなマニュアルの何処にもいない


それを先生に伝えたいのかもしれない


そんな事を先生に望む事は、意味のない事なのだろうか?


彼らもまた私と変わらない人間であるのだ、


ただ少しばかり早く生まれて知識と体験が多いだけ


私はそう自分の心に折り合いをつけてみる


だから少しくらいイタズラをしてもいいと思う


だけど、どんなイタズラでも私の美学に反する事だけは今までした事が無い


今回ばかりは、その美学に反する行為だとしても


許せない相手なのだ


好意を感じられる先生にのみイタズラをしてきた


自分の主義を曲げることは自分自身のプライドを傷つけることだ


これが葛藤というものなのだろうか


物事を瞬時に判断して割り切ってしまう体質の私にとって


滅多にない体験に戸惑っているそのとき


目の前に西園寺比美香がやってきた


「そろそろ、縁財に辿り着いた頃だと思ってね」


「え?」


きっと私は今まで見せたことも無い間抜け面をしていたに違いない


比美香は私の返答を聞いて大笑いした


次の瞬間「やられた」そう思った


こいつは最初から西田美代子の背後に縁財がいることを知っていた


知っていて敢えて美代子の計画に乗って


私を巻き込んだのだ


「あんたの腹の黒さには驚かされるわ」


「私はね、美代子を助けてあげたいだけ、プラス奈津丸をやっつけて、縁財を何とかしたい、生徒会長としてね、生徒を守る責任があるのよ、そのためだったら手段なんて選んでられないわ」


「プラス私が頭を抱えるのを楽しんでいるんでしょ」


「ご名答」


私たちは大笑いした


この女は腹は黒いけれど心は暖かい


「先生を困らせるのはあなたの得意分野だから縁財の事は適任だと思ったの、それでもう縁財を懲らしめる手は考えているのでしょ」


「あんなやつを懲らしめる手は幾らでもあるけどね、困ったこともあるんだよ」


「西田美代子の事ね」


それだ、今回の事は単なる体罰だけではない


もっと複雑でデリケートな問題を孕んでいる


「私がこんな回りくどい事をしたのも、その為だから」


今回何故、美代子がこんな提案をして汚れ役を買って出たのか


それは暴力による脅迫で仕方なくやらされているのではない


「言っておくけど彼女を傷つけずに助けるなんて出来ないよ」


「困ったものね、でも私は教員のせいで生徒が傷つくのだけは許せない」


「あんたの気持ちも解るけれど、これは彼女の意思なのだから、私たちにはどうしようもない」


即断即決即行動をモットーとしている私が


ここまで慎重になっているのも、そのことに気がついたからなのだ


西田美代子は縁財の奴に恋している


悪い事だと解っていても、


たとえ汚れ役になってこの先虐めに合う事になって構わない程に・・・・



つづく



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そうだったのですねΣ( ̄□ ̄;)あせる


書いている私が一番驚いていたりしてっっ


私の場合キャラが勝手に話を進めていく事が多くて


原作を書いている時は頭の中に浮かんでいるアニメーションを見ながら


それを書き写している感じですっっ


そのため、書きながら「えぇぇぇぇΣ(@@;)」なんて思う事もあります


全て順調に話が出来る場合もあるのですけどね


こうなってしまうと、この先どうなっていくのかサッパリです


西田美代子が何を感じどう動くかで話が変わってくる気がしてきました


キャラに描かされている、へっぽこ作者の


まる☆



追記


なんか、著名な小説家さんが、私と同じ事を言われていたようです


でも、キャラの一人歩きするとかは、単なるタイプでしかないと思います


だからといって、いい作品が出来る訳ではないのですよΣ(@@;)


たまたま、その方がキャラの一人歩きがするタイプだったのでしょう


才能とかはもっと他の所にあると思います。。


まぁそれは、私の小説を読んでもらえれば


なぁ~んだ、大したこと無いじゃんと思われると思いますっっ